カーボンナノチューブを効率よく成長させる触媒を開発 高品質なカーボンナノチューブを生む新たな合成法の開発に期待

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科准教授 杉目恒志、同講師 朝倉博行、学校法人近畿大学法人本部管理部(大阪府東大阪市)技術課長 納谷真一らの研究グループは、次世代の素材として期待されている「カーボンナノチューブ(CNT)※1」を高温な環境下で長く成長させることができる、2種類の異なる金属元素を組み合わせて構成された新たな触媒を開発しました。
鉄(Fe)のナノ粒子を触媒として用い、炭化水素やアルコールなどを原料とした化学反応を利用して、高密度なCNTの集合体を成長させる手法において、これまで報告例のなかったレアアース元素の「エルビウム(Er)」と「スカンジウム(Sc)」を「ガドリニウム(Gd)」に代わって添加することで成長寿命※2 を延ばす効果があることを明らかにしました。さらに、Scを添加した場合には、ErやGdと比較して、より高温な環境下でもCNTを長尺化できることを実証しました。本研究成果により、高品質で長いCNTを効率的に成長させる新たな合成法の開発につながることが期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)5月5日(火)に、医学・科学技術関係を中心とする世界最大規模の出版社であるElsevier(エルゼビア)が出版する化学分野の国際学術誌"Carbon(カーボン)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●次世代の素材であるCNTを効率よく成長させることが可能な、2種類の異なる金属元素を組み合わせて構成された新たな触媒を開発
●鉄を触媒として高密度なCNTの集合体を成長させる際、レアアースの一つであるScを添加すると、触媒の構造変化が活発に起こる900℃でも長い成長寿命が得られることを解明
●より高品質で長いCNTを効率的に成長させることが可能な新たな合成法の開発につながる研究成果
【本件の背景】
CNTは炭素原子だけで構成された直径がナノメートル(10億分の1メートル)スケールの素材です。軽量で、電気や熱の伝導性が高く大きな引張強度※3・比表面積※4 などを有することから、様々な分野での応用が期待されています。CNTの特長を最大限に生かすためには、高品質で長いCNTを効率良く成長させる手法の開発が重要です。なかでも高密度なCNTが整列している「CNTフォレスト※5」は効率的にCNTを合成する手法として着目されています。一般に、合成温度が高いほど高品質なCNTを成長させることができますが、その一方で、成長が停止しやすくなりCNTが短くなってしまうという課題があります。これは、高温環境下で触媒ナノ粒子が構造変化を起こしやすくなり、CNTの成長寿命が短くなるためと考えられています。そのため現在は、触媒の組成や構造、さらには合成条件の最適化に関する研究が進められています。こうした中、平成26年(2014年)にアメリカ・シンシナティ大学のグループは、レアアースの一つであるGdを添加したFe/Gd/Al2O3触媒を用いることで、2cmの長さの多層CNTフォレストの成長に成功しました。
また、当研究グループでも令和元年(2019年)には単層CNTフォレストの成長においてもGdが有効であることを明らかにしました。さらに、令和2年(2020年)にはガス中にFeとアルミニウム(Al)の原料を添加する新たな手法を併用して14cmのCNTフォレストの成長を実現しています。しかしながら、Gd以外のレアアースの効果については報告されておらず、更なる成長法の開発が求められていました。
【本件の内容】
本研究では、Gdに代わってこれまで報告例がないErとScを添加した際に成長するCNTの質と成長寿命に与える影響について調べました。その結果、ErやScにもGdと同様にFe触媒ナノ粒子を安定化し、CNTフォレストの成長寿命を延長する効果があることが分かりました。この際、800℃の環境においては3種類(Er、Gd、Sc)の違いはほとんど見られず、すべて3時間以上の成長寿命を示し、1cmを超えるCNTフォレストを形成しました(図1)。一方で、触媒の構造変化がより活発に起こる900℃においては、GdとErに違いはほとんど見られなかったのに対し、Scを用いた場合はGdやErの2倍以上長い成長寿命が得られました(図2)。この結果から、Scは高品質で長いCNTを合成する手法において重要な役割を担うことが期待されます。


【論文掲載】
掲載誌:Carbon(インパクトファクター:11.6@2025/2026)
論文名:Effect of rare-earth cocatalysts on the growth of
centimeter-long carbon nanotube forests
(センチメートル長カーボンナノチューブフォレストの成長におけるレアアース助触媒の効果)
著者 :萩原涼1,小西桜輔1,納谷真一2,朝倉博行1,3,杉目恒志1,3*
*責任著者
所属 :1 近畿大学理工学部応用化学科、2 近畿大学法人本部管理部、
3 近畿大学大学院総合理工学研究科
URL :https://doi.org/10.1016/j.carbon.2026.121661
DOI :10.1016/j.carbon.2026.121661
【本件の詳細】
これまでの研究により、化学気相成長法(CVD法)※6 において、Fe/Al2O3触媒にGdを添加すると、Feナノ粒子が部分的に酸化された状態を保つことができるため、CNTの成長寿命が長くなることが知られていました。当研究グループではレアアースの酸化物の生成エンタルピー※7 が負に大きいことに着目し、Gdよりも大きな生成エンタルピーを持つErとScを添加した際に成長するCNTの質と成長寿命に与える影響について調べました。Feナノ粒子の安定性を走査型電子顕微鏡(SEM)やX線を用いて詳細に調べた結果、成長の違いがあまり見られなかった800℃では、3種類(Er、Gd、Sc)の助触媒※8 のすべてにおいてFeナノ粒子が高い数密度※9 を保っていたのに対し、900℃ではScを用いた場合のみ高い数密度を保っていました(図3a)。また、X線を用いて合成中のFeナノ粒子の酸化状態を調べたところ、Scを用いた場合にFeナノ粒子がより部分酸化されていることが分かりました(図3b)。これらの結果から、高温(900℃)において、Scが長い成長寿命を示すことと、Feナノ粒子の部分酸化の割合が大きいことに相関があることが明らかになりました。今後、Fe-Scという新たな組み合わせにより、より高品質で長尺なCNTフォレストの成長が可能になることが期待されます。

【研究者のコメント】
杉目恒志(すぎめひさし)
所属 :近畿大学理工学部応用化学科
近畿大学大学院総合理工学研究科
職位 :准教授
学位 :博士(工学)
コメント:鉄(Fe)とスカンジウム(Sc)というこれまで報告のない触媒の組み合わせにより、高温条件においても長尺にCNTを成長可能であることが明らかになりました。これにより高品質かつ長尺なCNTフォレストの成長が可能となり、新規合成プロセスの実現に向けた大きな一歩になると期待できます。またFeはアンモニア合成など汎用の触媒として様々な分野で用いられているため、Fe-Scの組み合わせは高温で失活しにくい触媒として、様々な反応にも応用できることが期待されます。
【研究支援】
本研究の一部は、日本学術振興会による科研費(課題番号24K08209)による研究助成の支援を受けて行われました。
【用語解説】
※1 カーボンナノチューブ(carbon nanotube、CNT):炭素のみで構成された直径がナノメートルスケールのチューブ状の素材。軽量でありながら高い電気・熱伝導性、高い引張強度やしなやかさなどを有することから、強度材料や電子デバイスなど様々な分野での応用が期待されている。
※2 成長寿命:高密度なCNTの集合体であるCNTフォレストの成長は自発的に停止することが知られており、主な原因の一つとして成長中の触媒ナノ粒子の構造変化がある。
※3 引張強度:物質が破断されるまでにどれくらい力をかけられるかを示す強度。面積当たりの力で表される。
※4 比表面積:重さ当たりの表面積。物質がナノメートルスケールになると大きな値をもつ。
※5 CNTフォレスト:基板上に固定された触媒ナノ粒子からCNTが高い数密度で「森」のように成長している状態。比較的長尺なCNTを効率よく合成することが可能になる。
※6 化学気相成長法(CVD法):炭化水素やアルコールなどを原料とし、化学反応を利用してCNTなどを成長させる方法。比較的低温成長が可能な手法であり、長尺化や大量生産が可能である。CNTを成長させる際にはナノメートルスケールの触媒粒子が必要である。
※7 生成エンタルピー:物質が生成する際に発生(もしくは吸収)するエネルギー。負であればより安定であることを示す。
※8 助触媒:触媒となるナノ粒子(Feなど)の反応中の構造変化を抑制し安定に存在させる役割を果たす。
※9 数密度:面積もしくは体積当たりの粒子などの個数のこと。CNTフォレストを成長させるためには高い数密度で触媒ナノ粒子を存在させる必要がある。
【関連リンク】
理工学部 応用化学科 准教授 杉目恒志(スギメヒサシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2530-sugime-hisashi.html
理工学部 応用化学科 講師 朝倉博行(アサクラヒロユキ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2747-asakura-hiroyuki.html