【キャリア形成とリスキリングの実態調査】 係長クラス以上の約7割、 年収500万円以上の約5割がキャリア転換を検討 職責・年収が意向に影響
~リスキリングも職位・年収で差 将来需要と乖離し、非デジタル領域に偏る実態が明らかに~
株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹、以下、当社)は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本 良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に「令和のキャリアプラン実態調査-キャリア形成とリスキリングの現在地-」(以下、本調査)を実施しました。
本調査は、令和時代に働く人々のキャリアプランや企業のキャリア形成支援施策(以下、キャリア施策)の実施状況、個人によるリスキリング状況を明らかにし、今後のキャリア施策の在り方を議論する上での土台となることを目的としています。調査の結果、企業規模や雇用形態、役職、年収などの属性によってキャリア施策の認知・活用状況に差があり、将来のスキル需要と乖離したリスキリングが行われている実態が明らかになりました。

主なポイント
- キャリア施策、過半数が認知も活用は1割強─4人に1人は「必要ない」と回答
- キャリア転換の意向、係長以上で7割超・年収500万円以上で5割─職責・収入が意向に影響
- リスキリング実施率に属性差─正社員34.9%、契約社員22.7% 非デジタル領域に偏重
背景
近年、労働人口構成の変化やデジタル・AI技術の進展により、企業を取り巻く事業・競争環境は大きく変化しています。企業は持続的な価値向上に向けて、事業基盤の再構築や新たな付加価値領域への転換を迫られており、その実現には、社員一人ひとりの行動変容とスキル進化が不可欠です。こうした状況から、企業・個人双方において「キャリア自律」や「リスキリング」への対応が急務となっています。
2023年には、内閣府が「三位一体の労働市場改革」を発表し、「リスキリングによる能力向上支援」、「職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」の3点を柱として、日本の労働市場の競争力強化を掲げました。これを受け、企業でもジョブ型雇用の導入やデジタル人材の育成といった取り組みが進んでいますが、現場レベルでは模索が続いています。
本調査ではこうした背景を踏まえ、(1)企業が提供するキャリア施策に対する個人の受け止め方・活用状況・評価、(2)キャリア自律・流動性に関する検討・浸透状況、(3)将来を見据えたリスキリングの実施テーマと活動実態の3点について、非公開型のインターネット調査を通じて検証しました。
主な調査結果
- キャリア施策、過半数が認知も活用は1割強─4人に1人は「必要ない」と回答
正社員(N=840)を対象に、企業が導入する主要なキャリア施策(12項目)※1の実施状況、認知度、利用度、満足度、必要性の認識について調査しました。その結果、「キャリア施策を認知している」と回答した人は全体の53.4%と過半数を超えましたが、実際に「利用している」と回答した人は11.9%にとどまり、活用の広がりには課題があることが明らかになりました(図表1)。また施策利用者の評価では、すべての施策において「低評価」が「高評価」を上回る傾向が見られ、満足度の低さが際立ちました。
加えてキャリア施策の必要性について「どの施策にも必要性を感じない」と回答した人は25.2%にのぼり、キャリア支援に対する低関心層が一定数存在することが分かりました(図表1)。

- キャリア転換の意向、係長以上で7割超・年収500万円以上で5割─職責・収入が意向に影響
正社員を対象に、キャリア転換※2の意向(例:社内での役職・職種変更、社外転職、雇用形態や勤務地の変更など全7項目)を役職別・年収別に分析した結果、職位や収入の上昇に伴って、その意向が高まる傾向が確認されました。
具体的には、役職別では係長クラス以上の各層でいずれも70%以上が転換を想定しており、主任・リーダークラスは51.0%、役職なしは24.4%にとどまりました。年収別では、500万円以上の層で約50%が転換を想定していたのに対し、500万円未満の層では17.8~38.6%にとどまり、10ポイント以上の差が確認されました(図表2)。これらの結果から、一定の職責や経済的余裕を持つ層ほど、自律的かつ前向きにキャリアを再設計しようとする意向が高いことが示唆されました。

- リスキリング実施率に属性差─正社員34.9%、契約社員22.7% 非デジタル領域に偏重
正社員および契約社員(N=132)を対象に、12スキル領域別※3のリスキリング実施状況を分析した結果、「取り組んでいる」と回答した割合は正社員で34.9%、契約社員では22.7%にとどまり、雇用形態による実施率に差があることが明らかとなりました(図表3)。さらに正社員の中でも、役職なし(最も高い層との差:24.7ポイント)、従業員規模300人未満(同22.9ポイント)の企業、年収200万円未満(同37.1ポイント)の層において、特に実施率が低い傾向が見られました。
なかでもDX推進に不可欠な「デジタル・ITスキル」(AI、ビッグデータ、セキュリティ、プログラミングなど)への取り組みは、正社員で18.6%、契約社員では9.1%にとどまり、非デジタル領域(正社員34.2%、契約社員22.0%)と比べて半分以下の水準でした(図表3)。特に正社員の50代では、デジタル・ITスキルの実施率が10%未満であり、世代間でも大きな差が生じていることが確認されました。
また実際に進められているリスキリングは「自己開発」、「作業・技巧」、「メンタル・適応」、「リーダーシップ」など非デジタル領域に偏っており、将来のスキル需要とのギャップが生じている実態が浮き彫りとなりました。

コメント
NTTデータ経営研究所 組織・人材変革コンサルティング室 長安 賢、生井 美佳
本調査からは、各企業におけるキャリア形成支援施策やリスキリング施策の整備が進む一方で、個人における各施策への活用と評価状況は総じて厳しく、企業においては制度導入だけでは活用促進面でも向き合うべき残課題がある事が示唆されています。またリスキリングに関する個人の取り組み状況分析からは、個人は「自己開発」や「作業・技巧スキル」等の比較的取り組みやすい非デジタル領域のリスキリングに着手する傾向が強く、社会/企業需要と個人の動きの間に乖離が生じている可能性が示唆されています。
今後Generative AIの活用に伴う人が担う仕事の変化及び、各企業が競争力を維持するためのビジネスモデルの変革スピードと頻度が高まる事が想定される中で、これらの乖離を最小化して企業・国としての競争力の強化へと繋げていく上では、官民双方において適切な投資・施策整備実施をベースとしつつ、個人に対してはより明確な形での中長期的なキャリアの選択肢を示した上で需要と合ったリスキリング活用を促進していく事が重要となります。
調査概要
調査名 :令和のキャリアプラン実態調査
-キャリア形成とリスキリングの現在地-
調査機関 :NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社
実施者 :株式会社NTTデータ経営研究所
組織・人材変革コンサルティング室
調査期間 :2024年7月23日~2024年7月26日
調査方法 :非公開型インターネットアンケート
(NTTコム リサーチ クローズド調査)
調査対象 :就業中の20~60代以上の男女
有効回答者数:1,055人(男性:531、女性:524)
調査レポートURL
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/ncom-survey/250529/
NTTデータ経営研究所について
NTTデータ経営研究所は、1991年の設立以来、サステナビリティやヘルスケア、地方創生といった様々な領域の社会課題の解決や、企業変革の支援に向けたコンサルティングを行っています。
政策や戦略の立案からプロジェクトの実行支援、新規事業の開発から実証までを一気通貫でお客様に伴走し、持続可能な成長と変革を支援します。
NTTデータグループの戦略コンサルティングファームとして、多岐にわたる専門性により業界・組織を超えた連携を作り出し、未来への道筋を照らすことでお客様とともに新たな価値の創造に取り組んでいます。
関連リンク
■NTTデータ経営研究所Webサイト: https://www.nttdata-strategy.com/
※1 キャリア形成支援施策の全12項目について
本調査では、(1)企業内での中長期的なキャリアパス・キャリアルートの明示、(2)自分自身の中長期的なキャリアを考える機会の提供(キャリアカウンセリング・適性診断等)、(3)社内での別職種の内容やロールモデルを探すための仕組み(キャリアポータル・組織横断ネットワーキング支援等)、(4)現在の担当業務に関連するトレーニング・能力開発機会の提供(研修・e-ラーニング・OJT等)、(5)現在の担当業務以外のトレーニング機会の提供(研修・e-ラーニング・OJT等)、(6)社外からの新たな専門性・知見・働き方・文化を持った人材の積極的な採用、(7)新たな仕事・職種への異動機会の提供(公募・ジョブローテーション等)、(8)個人の能力成長の進捗確認や評価の実施、(9)職種やキャリア転換時のリスクを軽減するための制度(異動直後の評価猶予期間設定等)、(10)自分自身の関心に合わせた学習・能力開発支援(外部研修費用支援・書籍代支援等)、(11)自身の能力開発・学習余力を生むフレックスワーク・勤務内での能力開発時間等の確保、(12)キャリア検討・転換について心理的安全性を確保した相談先(独立したキャリアプラン相談デスク等のサービス)をいう。
※2 キャリア転換について
本調査では、(1)社内での役職・責任範囲の変更、(2)社内での職種変更、(3)同一職種での社外転職、(4)職種転換を伴う社外転職、(5)雇用形態の転換、勤務地の変更(例:(6)国内から国内、(7)国内から海外またはその逆)をいう。
※3 リスキリング12スキルについて
本調査では、(1)「基礎・汎用スキル(文章表現・読解力・計数力等)」、(2)「メンタル・適応スキル(レジリエンス・回復力・ストレス軽減等)」、(3)「自己開発スキル(生涯学習・共感力・傾聴力等)」、(4)「作業・技巧スキル(専門作業・スピード・正確性等)」、(5)「リーダーシップ・管理スキル(マネジメント力・管理系資格スキル等)」、(6)「思考スキル(分析思考・創造性思考・システム思考等)」、(7)「デザインスキル(ユーザーデザイン・ユーザー体験設計等)」、(8)「サービススキル(顧客サービス向上・サービス志向等)」、(9)「マーケティングスキル(メディア・マーケティング関連等)」、(10)「Digital・ITスキル(AI・ビッグデータ・セキュリティ・プログラミング等)」、(11)「グローバル系スキル(言語・異文化理解等)」、(12)「サステナビリティ系スキル(環境・持続可能性関連等)」をいう。
調査結果の利用について
・調査結果の一部を転載・引用される場合は、出所として「NTTデータ経営研究所/NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション」または「NTTデータ経営研究所/NTTコム リサーチ」を明記の上、掲載日・掲載媒体・引用箇所などの情報をNTTデータ経営研究所 ブランド推進部までご連絡ください。