【MarketKernel】本当に市場で求められているものは何か。起業の手がかりを定量データで探索。クロスマーケット需給データを導入した4社と、無料レポート利用者2人に聞いた
サービスマーケットプレイスの市場データ基盤「MarketKernel」が観測を開始してから、およそ6ヶ月が経った。クラウドソーシングサイト、Fiverr、Upwork、Freelancer.comといった複数のプラットフォームを毎日観測し、需要・供給・価格を地域をまたいで同じ物差しに揃えた時系列データを提供する。
このデータは、実際の現場で何に使われているのか。
ライセンス契約を結んだ事業者4社、無料の月次レポートを使う個人2名、そして「契約したが継続しなかった」1社に話を聞いた。
◼️ 1. 導入前に共通していた困りごと
取材した全員が、程度の差はあれ同じことを言った。
「増えているのは分かる。でも、増えているのが依頼なのか売り手なのか、分からない」
これは抽象的な悩みに聞こえるが、実務ではかなり具体的な形で現れる。
たとえば、実在する公表値としてこういうものがある。
ココナラにおける AI 関連サービスの出品数は、前年同月の 284% に達した(※これは実在の公表値です)。
数字だけを見れば「AI 市場は伸びている」と読める。
しかしこの 284% は出品数、つまり売り手側の数字だ。
買い手が 2.84 倍になったとは書いていない。
「この違いを社内会議で説明できる人が、うちにはいなかったんです」と、ある受託開発会社の役員は振り返る。
「『AI 案件は伸びてます』という資料を作って、じゃあ何が伸びてるんですかと聞かれて、答えられなかった」
もう一つ、全員が挙げたのが鮮度の問題だった。
プラットフォーム各社は公式レポートを出している。
Upwork は AI 関連スキルの需要が前年比 109% 増と公表しており、内訳として AI 動画 +329%、AI 統合 +178%、データ注釈 +154%、チャットボット +71% を挙げている(※これも実在の公表値です)。
信頼できる一次情報だ。
ただし、年次または四半期の発表であること、自社プラットフォーム内に限られること、そしてカテゴリの切り方が各社バラバラで足し合わせられないことが、実務では効いてくる。
「ココナラの『出品数』、Fiverr の『Gig 数』、Upwork の『求人投稿数』。これ、単位が違うから並べられないんですよ。並べた資料を作ってしまって、後から気づいた」(同)
◼️ 2. スクール事業者:「一番効いたのは、『やらない』を決められたこと」
株式会社リスキルベース(仮名)/教務責任者・佐倉氏(仮名)
Web 制作と AI 活用の実務スクールを運営。年間の受講生はおよそ 1,200 名。
▼ 導入前
「カリキュラム改訂の根拠が、講師の肌感と受講生アンケートしかありませんでした」と佐倉氏は言う。
「講師は現場の人なので、感覚は鋭いんです。ただ、感覚は言語化されないし、講師によって違う。
改訂会議が毎回、意見の言い合いになる。声の大きい人の案が通る」
もう一つの問題は、募集ページだった。
「『この分野は需要が伸びています』と書くとき、根拠がプラットフォームの年次発表しかない。
しかも半年前の数字です。それを『伸びています』と現在形で書いていいのか、社内でずっと引っかかっていました」
▼ 契約内容
公表権つきのライセンス(Publisher 相当)。対象は日本と米国の 8 カテゴリ、履歴 12 ヶ月。
整形済みの月次データセットで受け取る。API は使っていない。
▼ 導入後
変化として最初に挙がったのは、会議の質だった。
「改訂会議が『意見の言い合い』から『数字の解釈』に変わりました。
数字が正しいかどうかで揉めることはもうなくて、この数字をどう読むかで揉める。これは健全な揉め方です」
具体的な使い方として佐倉氏が挙げたのは、供給側の先読みだった。
「あるカテゴリで、6ヶ月のあいだに売り手側の指数が 1.6 倍になっていました。
需要側はほぼ横ばい。つまり、いま我々がこのコースの受講生を送り出すと、卒業した瞬間に混雑した土俵に立たせることになる」
「これ、講師の肌感でも『最近多いよね』くらいは分かっていたんです。
でも『1.6 倍』と『需要は横ばい』が並ぶと、会議の結論が変わりました」
そして、想定していなかった効果があったという。
「一番効いたのは、やらない を決められたことです」
「新コースの企画って、社内では必ず誰かが推してるので、止めるのが難しいんですよ。
『需要が伸びていない』という数字が一枚あるだけで、止められた。
企画を通す道具として買ったつもりだったのに、実際は止める道具として一番使っています」
募集ページについては、出典表記の義務を負ったうえで「MarketKernel 調べ」として掲載している。
「他校との違いが、『講師の実績』から『市場の見え方』に一つ増えた。これは想定通りでした」
◼️ 3. 独立支援コンサル:「おすすめを出さないから、私のおすすめに重みが出た」
合同会社ノースリーチ(仮名)/代表・三村氏(仮名)
会社員からの独立・開業支援。個人向けの伴走支援を年間 60〜80 件。
▼ 導入前
三村氏の困りごとは、他の取材先とは少し違っていた。説得力の問題だ。
「相談に来る方は、たいてい先に情報商材や YouTube を見ています。
『この分野は月◯万円稼げる』という数字を持ってくる。それに対して私は『いや、その領域は競合が多いですよ』と言う。根拠は自分の経験です」
「経験対数字だと、負けるんですよ。向こうには数字があって、こっちにはない」
▼ 契約内容
成果物内での出力権つきのライセンス(Professional 相当)。クライアント向けの提案書・面談資料の中でのみ数字を使える範囲。
▼ 導入後
「面談で画面を出すようになりました。私が説得しなくてよくなった。数字が説得するので」
三村氏が強調したのは、MarketKernel が「おすすめ」を出さないことが、逆に効いたという点だった。
「最初は正直、不便だと思っていました。『この人にはこの分野』を教えてくれるツールじゃない。でも使ってみると、これが効くんです」
「クライアントに『MarketKernel はおすすめを出しません。
需要と供給の観測事実だけです』と説明したうえで、私が『では私の見立てを言います』と続ける。
私の意見が、データと分離されて聞こえるんですよ。データの権威を借りて自分の意見を言っているんじゃない、と伝わる」
「おすすめを出さないツールだから、私のおすすめに重みが出た。これは想定外でした」
相談内容そのものも変わったという。
「以前は『何が儲かりますか』でした。いまは『この差はなぜ生まれているんですか』に変わりました。
質問の質が変わると、支援の質も変わります」
そしてもう一つ。
「途中解約が減りました。最初から現実的な期待値で始まるので、3ヶ月目に『思っていたのと違う』が起きにくい」
編集注:本項の効果は同社が自社事業で観測した内容であり、MarketKernel が同様の結果を保証するものではありません。MarketKernel は収益予測・成果保証を一切提供していません。
◼️ 4. 受託開発会社:「欲しかったのは分析ではなく接続できる数字だった」
株式会社アトリエ・コード(仮名)/取締役・高梨氏(仮名)
Web・業務システムの受託開発。社員 28 名。国内案件が中心だが、近年は海外からの直接受注も増えている。
▼ 導入前
「自社サービスメニューの値付けが、3年変わっていませんでした」
「変えるべきだとは全員思っていたんです。でも根拠がない。
営業が『最近この見積もり通らないんですよね』と言う。
それは値段の問題なのか、競合の問題なのか、そもそも需要が落ちてるのか。分からない」
海外案件では別の問題があった。
「米国のクライアントに見積もりを出すとき、向こうの相場を知らないまま出していました。
安すぎたことも、高すぎたこともあったと思います。答え合わせができないので、いまだに分かりません」
▼ 契約内容
API 契約(Enterprise 相当)。公表権はなし、社内利用のみ。
日次でデータを取得し、社内の BI ツールに需給差と価格中央値を流し込んでいる。
▼ 導入後
高梨氏の使い方は、他の3社とかなり違う。
「うちが欲しかったのは、レポートでも分析でもなくて、接続できる数字でした。
人間が読むための資料じゃなくて、システムに入る数字」
「メニュー改訂を年1回から四半期に変えました。これは API じゃないと回りません。
PDF のレポートが届いても、誰かが読んで、誰かが表にして、会議にかける。それだと年1回が限界です」
日米の価格中央値の差については、こう言う。
「同じ業務でも、地域によって中央値が違う。
その差を見て、どの業務を海外向けのメニューに載せるか決めています。以前は勘でした」
MCP(Model Context Protocol)サーバー経由の使い方についても触れた。
「社内で見積もり作成に AI エージェントを使っているんですが、そこから MarketKernel の数字を直接引けます。
エージェントが相場を参照して見積もりの叩き台を作る。AI が数字を捏造しないことが重要なので、公式の定義をリソースとして読める設計は助かっています」
「ただし、エージェントに聞いても『だからいくらにすべき』は返ってきません。
返ってくるのは『需給差 +33 pt』まで。そこから先は人間の仕事です」
◼️ 5. 専門メディア:「解釈を売ってくれないのが、ありがたかった」
フリーランス向けメディア「はたらきかた研究室」(仮名)/編集長・白石氏(仮名)
月間 40 万 PV。フリーランス・副業層向けの記事メディア。
▼ 導入前
「記事に載せる数字が、全部よその発表の引用だったんです」
「プラットフォーム各社が出す年次レポート、調査会社のリリース。
同業メディアも同じものを引用するので、どこも同じ数字の記事を出す。差がつかない」
▼ 契約内容
引用公開権つきのライセンス(Publisher 相当)。出典表記が義務。
▼ 導入後
「『MarketKernel 調べ』として、他が持っていない数字を出せるようになりました。これが導入理由の 9 割です」
「加えて、月次で定点記事を出せるようになった。同じ指標を毎月同じ形で出す。読者が戻ってくるんですよ。『先月から動いたか』を見に来る」
白石氏が繰り返し言ったのは、中立性についてだった。
「解釈を売ってくれないのが、ありがたかったんです」
「解釈込みのデータを買うと、うちの記事がそのデータ会社の意見の再放送になる。
それだと編集部の意味がない。データは中立、解釈はうち。この分担がはっきりしているから、編集方針が出せる」
「逆に言えば、解釈できる編集部がないメディアには向かないと思います。素材だけ届くので」
◼️ 6. 個人・フリーランスにとって MarketKernel は何か
MarketKernel はこれから起業したい個人への直接販売を行っていない。
理由は後述の運営者インタビューにある。
個人向けには、登録不要・無料で使える 2 つの入口が用意されている。
月次観測レポートと、データの形と操作を確かめるデモ画面だ。
▼ 会社員から副業を検討/佐々木さん(仮名・34歳)
「最初は『稼げるジャンルランキング』みたいなものを探していました。
MarketKernel にはそれがなくて、正直がっかりしたんです」
「でも需要と供給が別々の数字で並んでいるのを見て、意味が分かりました。
自分が見ていた『この分野が伸びてる』という情報の伸びは、供給側の伸びだった。つまり自分と同じことを考える人が増えているという意味だった」
「始める分野を変えたわけじゃないんです。始める前の想定を変えました。
すぐ埋まる市場だと分かったので、最初の3ヶ月の見通しを厳しめに置いた。これは結果的に良かったと思っています」
▼ 現役フリーランス/大西さん(仮名・41歳)
「価格改定の判断に使っています。自分の単価が中央値のどのあたりにいるか。それだけです」
「値上げしていいのか分からない、という不安がずっとあったんですが、不安の中身が整理されました。上げろとは言われません。中央値がここで、自分がここ、と表示されるだけです」
「そこから先は自分で決めます。それでいいと思っています」
◼️ 7. 続かなかったケース:「読む人を置けなかった」
信頼できる記事にするため、契約を継続しなかった事業者にも話を聞いた。
株式会社(社名非公開)/事業企画担当者
3ヶ月契約の満了時に更新しなかった。
「データの品質に不満はありませんでした。約束されたものは、約束された通りに届いていました」
「問題はうちの側です。MarketKernel は解釈を出さないので、社内の誰かが解釈しなければならない。その担当を置けませんでした。データは毎月届いて、フォルダに溜まっていくだけになった」
「導入前にサイトにも書いてあったんです。『解釈は提供しません』と。読んではいたけれど、実務の重さが分かっていなかった」
この点について、運営側はどう考えているのか。
◼️ 8. 運営者インタビュー:MarketKernel
── 解釈を出せば売れるのでは、と言われませんか
「言われます。実際、解釈を付ければ単価は上げられると思います」
「ただ、解釈を出した瞬間に事業が壊れます。解釈を売る会社になると、解釈が当たっているかどうかで評価される。当たり続けることはできません。当たらなくなったときに、データの信頼まで一緒に落ちます」
「天気予報と同じ構造だと考えています。予報は『明日の降水確率 70%』までを出して、的中率を公開することで信頼される。でも『ピクニックをやめろ』とは言いません。やめるかどうかは、その人の予定と事情の問題なので」
── 更新しなかった事業者の話をどう受け止めますか
「あれは我々の設計上、避けられないものです。解釈できる主体にしか価値が出ない設計にしているので」
「防ぐ方法はあります。商談の段階で『社内で誰がこれを読みますか』を必ず聞くことです。名前が出てこない場合は、契約を勧めないほうがいい。売上は落ちますが、更新されない契約を積んでも意味がありません」
── 個人に直接売らない理由は
「二つあります」
「一つは、中立なデータは解釈できる主体にしか価値がない、という先ほどの話です。個人の方の多くは解釈を求めて来られます。我々は解釈を出さないので、期待と提供物が噛み合いません」
「もう一つは、解約率が我々の努力で動かせなくなることです。これから起業する個人向けのサブスクは、解約率が製品の品質ではなく、お客さん自身の事業の継続率で決まります。品質を上げても解約が減らない構造に、事業を乗せたくない」
「なので個人の方には、無料の月次レポートとデモをそのまま使っていただく形にしています。そして、MarketKernel のデータを使う発信者・スクール・支援事業者を通じて、解釈つきの形で届く。観測は一つ、出口は n 個という設計です」
── データが正しいことは、どう担保していますか
「責任の分界を先に決めています。観測事実と算出方法の正確性には我々が責任を持ち、意思決定とその結果には利用者が責任を持つ。これをサイトに明文化しています」
「そのうえで、指標の値から生データまで遡れるようにしています。毎日の取得記録をハッシュで連鎖させて、外部に固定する。我々が後から数字を書き換えたら、連鎖が切れて分かるという作りです」
「あと、指標そのものの検証ログを公開しています。事前に検証可能な仮説を登録して、対象を凍結して、結果を成否にかかわらず出す。外れないログは信用を生まないので、外れうる形で出しています」
── 収益予測は今後も出さない方針ですか
「出しません。サイトのどこにも『稼げる』『儲かる』は書いていませんし、書く予定もありません」
「ここは事業判断というより、事業の定義です。書いた瞬間に別の事業になります」
◼️ 会社概要
サービス名:MarketKernel(マーケットカーネル)
公式サイト:https://marketkernel.jp/
お問い合わせ:info@marketkernel.jp
X:https://x.com/Market_Kernel
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