その風、目には逆風。ハンディファンで起こる「直風ドライ」

今週末の学会で発表するポスターを受け取りに、三宮へ行ってきました。
外に出ると、やはり暑い。
街を歩いていると、ハンディファンを顔の近くに持ち、ずっと風を送り続けている人を何人も見かけました。
これだけ暑い時期ですから、使いたくなる気持ちはよく分かります。ハンディファンそのものを否定するつもりもありません。
ただ、眼科医としては、少し心配になります。
ハンディファンを目に当てすぎると、「眼の皮がむける」ことがあるからです。
眼にも「皮」のような表面がある
黒目の表面にある透明な組織を、角膜といいます。
角膜のいちばん外側は、角膜上皮という薄い細胞の層に覆われています。皮膚とは異なりますが、外部の刺激から目を守る「皮」のような役割をしています。
この角膜上皮の一部がはがれた状態が、 角膜びらん です。
分かりやすくいえば、
「眼の表面の皮がむけた状態」
です。
角膜には知覚神経が非常に多いため、わずかな傷でも、
- 強い痛み
- ゴロゴロする異物感
- 涙が止まらない
- 目を開けにくい
- 光がまぶしい
- 視界がかすむ
といった症状が出ることがあります。
では、なぜハンディファンの風で角膜上皮が傷つくのでしょうか。
角膜を守っているのは「涙の膜」
角膜は、直接空気にさらされているように見えます。
しかし実際には、その表面を非常に薄い涙の膜が覆っています。
涙は単に目をぬらしているだけではありません。
角膜の表面を滑らかに保ち、まばたきによる摩擦を減らし、乾燥やほこりなどから角膜上皮を守っています。
ところが、目に風を当て続けると涙の蒸発が速くなります。
涙の膜が途中で切れると、角膜の一部が外気に直接さらされます。その状態でまばたきを繰り返すと、乾燥した角膜上皮に摩擦が加わります。
最初は、
「少し乾く」
「目がかすむ」
「ゴロゴロする」
程度かもしれません。
それでも風を当て続ければ、角膜表面の細胞が傷つきます。程度が強くなると、角膜上皮がはがれて、角膜びらんになります。
つまり、風が角膜を直接削っているわけではありません。
風が涙を奪い、涙に守られなくなった角膜の表面が傷つくのです。
わずか5分の風で、涙が減った
実際に、人の目に風を当てて影響を調べた研究があります。
Kohらは、正常な目の人9人と、涙が短時間で切れる「短BUT型ドライアイ」の人9人を対象に、風速1.5±0.5m/sの気流を5分間当てました。
すると、短BUT型ドライアイの人では、下まぶたの縁にたまっている涙の量を示す「涙液メニスカス」の高さと面積が有意に減少しました。
つまり、もともと涙が不安定な人では、 わずか5分間の風でも、目の表面に保たれている涙が減る ことが確認されたのです。
また、風を受けた後には、まばたきの回数も増えていました。
目の表面が乾燥し、それを補おうとしていたと考えられます。
涙液の菲薄化や破綻には、涙の蒸発が大きく関係します。乾燥による涙液の高浸透圧化は、眼表面の炎症や細胞障害につながることも知られています。
私はこれを「直風ドライ」と呼びたい
ハンディファンだけの問題ではありません。
- 扇風機
- エアコン
- 車の送風口
- ドライヤー
- サーキュレーター
などの風を目に直接当て続けても、同じことが起こります。
正式な病名ではありませんが、私はこうした状態を、分かりやすく**「直風ドライ」**と呼びたいと思います。
普通のドライアイとの違いは、風を避ければ改善しやすいことです。
ところが原因に気づかず、乾燥した目にさらに風を当て続けている人も少なくありません。
特に注意してほしい人
誰でも目に風を当て続ければ乾燥しますが、特に影響を受けやすいのは、
- もともとドライアイがある人
- コンタクトレンズを使用している人
- 目がゴロゴロしやすい人
- 角膜に傷がついたことがある人
- エアコンの効いた乾燥した場所にいる人
- 目の手術を受けたばかりの人
です。
コンタクトレンズを装用している目では、涙液の状態が裸眼とは異なります。そこへ近距離から風を送り続けるのは、あまり勧められません。
ハンディファンは「目」ではなく「首元」へ
ハンディファンを使ってはいけないわけではありません。
大切なのは、風を目に直接当て続けないことです。
顔の正面ではなく、首元や胸元に向けましょう。顔に風を送る場合も、目から距離を取り、同じ場所に長時間当て続けないようにしてください。
使用中に、
- 目が痛い
- ゴロゴロする
- 涙が止まらない
- まぶしくて目を開けにくい
- 急にかすんで見える
といった症状が出たら、まず風を止めてください。
症状が続く場合は、単なる乾燥ではなく、すでに角膜上皮が傷ついたり、はがれたりしている可能性があります。
その風、目には逆風
暑さから体を守ることは大切です。
ハンディファンも、暑い夏を乗り切るための便利な道具です。
ただし、目に風を当て続けると、角膜を守っている涙が奪われます。
そして当てすぎれば、「眼の皮がむける」ような角膜びらんを起こすことがあります。
ハンディファンは、目ではなく首元へ。
涼しい風が、涙までさらっていかないようにしてください。
参考文献
1.Koh S, Tung C, Kottaiyan R, et al. Effect of Airflow Exposure on the Tear Meniscus. Journal of Ophthalmology. 2012;2012:983182. doi:https://doi.org/10.1155/2012/983182.
2.Willcox MDP, Argüeso P, Georgiev GA, et al. TFOS DEWS II Tear Film Report. Ocular Surface. 2017;15(3):366–403. doi:https://doi.org/10.1016/j.jtos.2017.03.006.

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