『結婚詐欺だ、警察に行く』と言われたらどうする? マッチングアプリの出会いで起きる金銭トラブルを弁護士が解説

2026-09-01 22:40
弁護士法人若井綜合法律事務所

「結婚するつもりだったのに騙された」「お金を返さないなら警察に行く」――。

マッチングアプリで知り合った相手との関係が終わった後、このような言葉を向けられ、不安や恐怖を感じる方がいます。

しかし、「結婚詐欺」という言葉は日常的に使われる一方で、法律上「結婚詐欺罪」という犯罪が存在するわけではありません。相手が何を求めているのかによって、問題となる法律や必要な対応は大きく異なります。

実際には、相手が求めているものは大きく分けて「刑事責任を問いたい」「渡したお金を返してほしい」「慰謝料を請求したい」という3つのケースがあります。しかし、これらは成立条件も証明すべき内容も別々であり、「結婚詐欺だ」と言われたからといって、直ちに犯罪が成立するわけではありません。

一方で、相手に虚偽の説明をしていた場合や、金銭の貸し借りがあった場合、さらに「家族や職場に知らせる」などの圧力を伴う場合には、別の法的問題に発展する可能性があります。

弁護士法人若井綜合法律事務所では、マッチングアプリをきっかけとした男女トラブル、金銭請求、脅迫・恐喝を伴うケース、刑事事件に発展した案件などについて相談を受けています。

本記事では、「結婚詐欺だ」と言われた場合に確認すべきポイントや、安易に返金・謝罪・約束をしてはいけない理由について、法律の観点から詳しく解説します。

「結婚詐欺罪」という犯罪は存在しない

まず前提として、刑法に「結婚詐欺罪」という条文はありません。問題になり得るのは詐欺罪(刑法246条1項)で、法定刑は10年以下の拘禁刑です。2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されました。罰金刑は定められていません。

そのうえで、相手が「結婚詐欺だ」と言うとき、実際に求めているものは次の3つのいずれか、あるいはその混在です。

相手が求めているもの 主な法的枠組み 判断の中心となる点
刑事責任(処罰) 詐欺罪(刑法246条1項) 受け取った時点で、だまし取る意思があったか
渡した金銭の返還 貸金返還請求(民法587条)、詐欺取消(同96条)+不当利得(同703条・704条) 渡されたお金の性質(貸付か、贈与か)
慰謝料 不法行為(民法709条・710条)=貞操権侵害、婚約破棄 結婚を前提とした関係だったか、うそがあったか

3つは要件も証明の方法も異なります。すべてをまとめて「詐欺かどうか」で考えてしまうと、争うべき点を取り違えることになります。

なぜマッチングアプリでこの言葉が出やすいのか

アプリを介した出会いには、次のような特徴があります。

プロフィールを自分で記載する:年齢、職業、収入、婚姻歴などを自己申告するため、後から食い違いが判明すると「最初からうそをついていた」と受け取られやすい

対面前から距離が縮まりやすい:メッセージのやり取りが密になり、短期間で結婚の話題が出ることがある

交際初期に金銭が動きやすい:立替金、プレゼント、旅行代などが早い段階で発生する

終わり方がブロックや退会になりやすい:連絡が途絶えた形になり、「お金だけ受け取って逃げた」と評価されやすい

いずれも、それ自体が違法というわけではありません。ただ、相手が不信感を抱いたときに「詐欺だったのではないか」という説明に結び付きやすい構造がある、ということです。

刑事の詐欺罪が成立する場面は限られている

詐欺罪が成立するには、①人を欺く行為(欺罔行為)、②相手が錯誤に陥ること、③錯誤に基づく財産の交付、④財産の移転、という流れが必要です。

ここで重要なのは、詐欺罪が財産犯だという点です。金銭や物の交付がなければ、詐欺罪の問題にはなりません。「気持ちを裏切られた」「結婚するつもりだと思っていた」というだけでは、刑事事件としての詐欺にはあたらないのが原則です。

そして最大の分かれ目は、お金を受け取った時点でだまし取る意思があったかです。刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定めています。当初は結婚する意思や返済する意思があったものの、その後に気持ちが変わった、あるいは返せなくなった、という場合には、詐欺罪の故意を欠くと判断される余地があります。

もっとも、本人が「だますつもりはなかった」と述べればそれで足りるわけではありません。この点は、同時期に複数の相手と同様のやり取りをしていたか、受領直後に連絡を絶っていないか、返済の原資や見込みがあったか、繰り返し追加の金銭を求めていないか、といった客観的な事情から判断されます。内心が要件となる以上、疑いを晴らす作業は決して簡単ではない、というのが実際のところです。

なお、詐欺罪は未遂も処罰の対象とされています(刑法250条)。

詐欺にあたらなくても、責任が残る場合がある

「詐欺ではない」と言えたとしても、そこで終わりではありません。

借りたお金の返済義務は残ります。 詐欺の成否と、貸し借りがあったかどうかは別の問題です。返済できなくなっただけであれば犯罪にはあたりませんが、借りている以上、返す義務そのものは消えません。

プロフィールのうそが、慰謝料の問題になることもあります。 既婚であることを隠して交際した事案について、2025年12月8日、東京地方裁判所は、貞操権(性的自己決定権)を侵害する故意の不法行為にあたるとして、男性に約150万円の支払いを命じたと報じられています。マッチングアプリで知り合い、婚姻歴を尋ねられた際に独身であると答えていた事案でした。第一審の判断ではありますが、独身と偽った点が金銭の交付とは無関係に責任につながり得ることを示しています。

一方で、同じくマッチングアプリで知り合った男女の間で、女性側の請求がすべて棄却された裁判例もあります。この事案では、二人のメッセージに結婚や将来の家庭生活に関するやり取りが見当たらなかったこと、利用していたアプリが必ずしも結婚を前提とするものに限られないことなどから、「結婚を前提とした交際」の申込みがあったとは認められない、と判断されました。

つまり結論は、うその有無だけで決まるのではなく、二人のやり取りの具体的な中身や、出会いの場の性質によって分かれます。「アプリで既婚を隠していれば必ず責任を負う」とも、「金銭を受け取っていなければ何の問題も生じない」とも言えないところに、この類型の難しさがあります。

アプリのやり取りは、自分を守る証拠でもある

前記の2つの裁判例に共通するのは、判断材料の中心がメッセージのやり取りだったという点です。だからこそ、記録は請求する側だけのものではありません。

アプリによっては、退会やアカウント削除によってメッセージ履歴を確認できなくなることがあります。相手からブロックされた場合も含め、自分の端末で確認できる範囲は早めに保存しておく

プロフィール画面、メッセージ、送金・振込の記録、日付が分かるものをまとめておく

自分に不利に見えるやり取りも消さない。都合の悪い部分だけが欠けていると、説明全体の信用性が下がります

「見たくないからアプリごと消した」という対応が、後から自分の言い分を裏づける材料まで失わせてしまうことは少なくありません。

請求の「形」によって、放置してよいかが変わる

同じ請求でも、届いた形式によって対応の緊急度は異なります。

LINE・電話・メール、相手の代理人からの通知:それ自体に強制力はありません。ただし、対応しないままでいると次の手続きに進むことがあります

内容証明郵便:差し出した事実と文面を郵便局が証明する制度であり、書かれている内容が正しいと証明するものではありません。ただし、催告として時効の完成猶予(民法150条1項)の意味を持つ場合があります

支払督促:受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てないと、相手の言い分どおりに手続きが進み、財産の差押えにつながるおそれがあります

訴状:答弁書を出さず期日にも出席しないと、相手の主張を認めたものとして扱われ(擬制自白)、争えば認められなかったはずの請求が通ってしまう可能性があります

警察からの連絡:多くは任意の呼び出しです。無視は避けるべきですが、話す前に弁護士に相談してください。一度署名した供述調書の内容を後から覆すのは容易ではありません

裁判所や警察から届いたものは、内容に納得できなくても放置しないことが重要です。

応じる前に避けたい5つの対応

ブロック・アカウント削除・履歴の削除:逃げたと評価されやすく、証拠も失われます

その場で「返します」と言う、一部だけ支払う:債務の承認や事実の自認と評価されることがあります

感情的な直接交渉:売り言葉に買い言葉のやり取りが、そのまま証拠として残ります

裁判所からの書類の放置:前記のとおり、争う機会そのものを失います

SNSでの反論や、相手を特定できる形での投稿:名誉毀損などの責任を問われかねません。実際、被害を訴えた側がSNSでの公表について賠償を命じられた事案も報じられています

請求が一線を越えている場合

「家族や職場に知られたくなければ払え」「警察に行かれたくなければ示談しろ」といった形で金銭を求められることがあります。害悪を告げて金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)や脅迫罪(同222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)にあたり得ます。

もっとも、権利があると考えて請求すること自体が直ちに違法になるわけではなく、正当な請求との線引きは微妙です。自己判断で「これは恐喝だ」と決めつけて強い対応をとるのは危険で、やり取りを保存したうえで専門家に相談するのが安全です。当事務所に寄せられるご相談でも、単に金銭の返還を求められているだけでなく、勤務先や家族に伝えると告げられている、というものが少なくありません。

時効の考え方

慰謝料など不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で消滅時効にかかります(民法724条)。貸金の返還請求権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(同166条1項)。詐欺罪の公訴時効は7年とされています。

ただし、期間が経過していても、自分から「返します」と伝えたり一部を支払ったりすると債務の承認として扱われ、時効の主張ができなくなることがあります。ここでも、その場しのぎの返答は避けるべきです。

まとめ

マッチングアプリでの出会いは一般化し、それに伴うトラブルの相談も増えています。「結婚詐欺だ」と言われたときに確認すべきことは、次の点に整理できます。

相手が求めているのは、処罰か、金銭の返還か、慰謝料か

金銭の交付がなければ詐欺罪の問題にはならず、心変わりや返済不能だけでは犯罪にあたらない

一方で、借りたお金の返済義務や、うそをついた点についての慰謝料の問題は別に残り得る

判断の決め手はやり取りの中身であり、記録は自分を守る材料でもある

裁判所からの書類だけは、内容に納得できなくても放置しない

不安な状況で一人で判断すると、後から取り返しのつかない対応をしてしまうことがあります。請求の内容と届いた形式を整理したうえで、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。

この記事の監修者

若井 亮(わかい りょう)

/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)

男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。

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当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。

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