【名城大学】「詰め込み・忘却」から「理解・定着」へ 有機化学の学びの定着プロセスと教育効果を実証
— アメリカ化学会「ACS Editors' Choice」(注目論文)に選出 —
薬学部をはじめとする理系学部の専門基盤となる有機化学では、複雑な概念を丸暗記するのではなく、反応メカニズムを論理的に捉え、本質的に理解する学習が求められています。
名城大学薬学部の武永尚子准教授(有機合成化学)は、有機化学の学習において記述式課題と個別フィードバックを組み合わせた教育介入を行い、学生の論理的理解の成長プロセスを縦断的データ解析により客観的に検証・可視化しました。
本研究成果は2026年8月8日に、アメリカ化学会(ACS)が発行する化学教育ジャーナル「Journal of Chemical Education」に掲載され、社会・科学的インパクトが特に高い論文として名誉ある「ACS Editors' Choice」1) に選定され、期間限定でオープンアクセス(無料公開)されています。

【ポイント】
・既習範囲の復習を組み込んだ記述式課題(Writing-to-Learn 2))と継続的な個別フィードバックを組み合わせ、学生の論理的理解を深める教育介入を実施。
・個人差(初期能力や学習傾向)を考慮した縦断的データ解析(線形混合モデル 3))により、教育介入による理解度の成長軌跡を統計的に検証。
・薬学教育のみならず、理工系・医療系をはじめとする高等教育全般の「つまずきやすい難関科目」に対する教育改善のモデルケースを提示。
【詳細な説明】
1.背景
薬学部をはじめとする理系学部において、有機化学は専門の基盤となる重要科目です。有機化学は反応メカニズムを論理的に追う思考が求められますが、概念の複雑さから表面的な丸暗記に頼りがちになり、本質的な理解に至りにくいことが問題視されていました。
これまでも記述式課題やフィードバックの有用性は定性的に語られてきましたが、教育現場での地道な教育介入によって学生の理解がどのように変化していくのかを、厳密な縦断統計モデルを用いて証明した研究は限られていました。
2.研究内容及び本成果の意義
本研究では、これまでに習った内容を重ねて復習する「累積型」の記述式課題(Writing-to-Learn)を取り入れ、自分の言葉や図で説明することで概念理解を深めるとともに、個別のフィードバックを継続的に提供する教育介入を実施しました。さらに、得られた学習履歴データを評価基準(ルーブリック)に基づきデータ化し、個人差を補正できる線形混合モデル(Linear Mixed Models: LMM)を用いて解析を行いました。
・分析結果: 学生個人の初期能力の違いにかかわらず、回数を重ねるごとに根本的な誤解(Major Error)が減少し、論理的な理解(Mastery)を示す割合が統計的に有意に増加しました。
・データ構築と解析の工夫: 単なるテストの点数ではなく、学習者の「本質的な理解の深まり」という質的な変化を、個人差を考慮できる統計モデルで定量的に捉え、可視化しました。
本研究は、教育現場における地道な指導の実践と高度な統計解析を結びつけ、学習者の本質的な理解の成長プロセスを客観的に可視化した点が評価され、「ACS Editors' Choice」の選出に至りました。
また、本研究で用いた分析手法および評価の考え方は、有機化学にとどまらず、他の理系・医療系科目の教育効果検証や学習分析(ラーニング・アナリティクス)に応用可能なモデルとなります。
【用語解説】
1)ACS Editors' Choice
アメリカ化学会(American Chemical Society)が発行する全80誌以上(年間約7万報以上)の掲載論文の中から、分野を問わず重要で画期的な論文を「1日1報(年間365報)」のみ選抜する名誉ある制度。選出率は1%未満という狭き門であり、選定論文は、期間限定で全世界に無料公開(オープンアクセス)される。
2)Writing-to-Learn(WTL; 記述による学習)
単に知識を書き写すのではなく、自身の言葉や描画によって概念や思考プロセスを説明・再構築させる学習法。
3)線形混合モデル(Linear Mixed Models: LMM)
複数回測定した縦断データにおいて、個人ごとの初期能力や成長速度の違い(ランダム効果)と、時間の経過や介入の効果(固定効果)を同時に考慮して解析できる統計的手法。
【掲載論文】
雑誌名: Journal of Chemical Education
タイトル: Transforming "Cram and Forget" into "Mastery and Retention": A Longitudinal Analysis of Cumulative Writing-to-Learn in Organic Chemistry Using Linear Mixed Models
著者名: Naoko Takenaga
掲載日時: 2026年8月8日(ACS Editors' Choice選出)
DOI: 10.1021/acs.jchemed.6c00630
【本件に関するお問い合わせ先】
・研究内容に関すること
名城大学 薬学部 准教授 武永 尚子
TEL: 052-832-1151(代表)
E-mail: ntakenag@meijo-u.ac.jp
・広報担当
名城大学渉外部広報課
Tel: 052-838-2006
Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp