健康医療相談品質向上協会「第1回意見交換会」レポート

「子どもを育てるインフラに」#8000の知られざる可能性と健康医療相談のこれから

一般社団法人健康医療相談品質向上協会
2025-07-25 10:00

2025年5月29日、ティーペック株式会社で、健康医療相談の品質向上を目指す一般社団法人健康医療相談品質向上協会(以下、協会)の「第1回意見交換会」が開催されました。

大阪府の小児救急電話相談(#8000)の相談業務を行っている特定非営利活動法人「小児救急医療サポートネットワーク」の理事長を務める福井聖子先生にご参加いただき、「業界の抱える課題と協会の役割」についての意見交換をいたしました。

参加者:写真左より
協会代表理事 鼠家 和彦(ティーペック株式会社 代表取締役社長)
特定非営利活動法人「小児救急医療サポートネットワーク」理事長 福井聖子先生
協会副代表理事 今野 由梨(ダイヤル・サービス株式会社 代表取締役社長)
協会副代表理事 東島 俊一(株式会社 法研 代表取締役社長)

協会設立の経緯と1年間の歩み

遠隔健康医療相談の普及、品質向上、そして健全な発展を目指し、昨年3月に設立された一般社団法人 健康医療相談品質向上協会。意見交換会の冒頭では、3名の理事が協会の設立経緯とこれまでの1年間を振り返りました。

鼠家代表理事:

私がヘルスケア業界に入ったのは、健康医療相談の品質管理の責任者という形でした。当社のメディカルコンタクトセンター内でスタッフが相談対応をしているのを目にする中、健康医療相談が社会的に重要な役割を果たしていると強く感じていました。しかし、「#8000」などの公的なサービスの一般入札で価格競争が生じる現状に「世の中に正しくその必要性や価値が評価されていないのではないか」と課題意識を抱いていました。

業界が大きくなる一方で、健康相談の品質に対するレピュテーションリスクも懸念されるため、業界で品質に関するガイドラインを作成することが非常に重要であると考え、今野社長と東島社長に「協会を設立しましょう」と提案しました。

設立して約1年が経ち、現在では会員が5社となりました。「#8000」の民間委託分の約7割が当協会で占めていると考えていますので、業界の品質向上を語ることができる段階になったかと思います。

今野副代表理事:

私がダイヤル・サービスという会社を作って、赤ちゃん、子ども、お母さんの命に寄り添う仕事を始めて55年になります。長い間、健康医療相談に関わってきて、時代が変わって国は豊かになったけれど、どこか子育て世代は疲れきっているように感じています。これからの子ども達のためになる仕組みづくりに力を尽くしたいと思い、この協会に参加をしました。

今日は「もう1年経ったのか」という気持ちです。志を同じくするお二人とこれからも共に歩んでいけることを嬉しく思います。

東島副代表理事:

当社も電話相談サービスを提供する中で、双方向の対話が持つ力を日々実感しています。また「#8000」では、トリアージによる医療資源の有効活用、公的医療保険の負担軽減につながる適正受診への橋渡しなど、本当に社会的な使命が大きいと考えています。しかし、業界全体を見渡すと、相談品質のばらつきが見られて、鼠家代表理事がおっしゃる課題を感じていました。こうして協会の立ち上げに携わり、健康医療相談の品質向上と業界発展に取り組むことができるのは非常に意味があることだと思っています。

小児医療を取り巻く現状と#8000の役割:福井聖子先生の視点

福井先生から小児医療を取り巻く状況について、3つの質問に回答をいただきました。

■質問1. 福井先生が日頃感じている、小児医療の課題についてお聞かせください。

福井先生:

健康医療相談を通して感じる一番の課題は、0歳児の母親への支援が非常に手薄であることです。今の若い世代は核家族で育ち、赤ちゃんのお世話や看病の経験がない方がほとんどです。そのため、赤ちゃんや子どもの体調不良に直面した際にどうしていいか分からなくなる状況に陥ります。

一方、小児医療の現場では、予防接種や治療の進歩により子どもの入院患者が減少しているのは良いことですが、働き方改革や経営面の理由から小児病棟のベッド数が減少しています。しかし、一次救急、二次救急の場は確保しなければならないため、医師の数が少ない地域ではすでに小児医療の需給バランスに問題が生じています。

厚生労働省が軽症患者の受診抑制を目的としていた「#8000」も、小児医療の現状や少子化による親への支援状況を考えると、将来的には「子どもをきちんと育てるための制度・インフラ」として整備していく必要があると考えています。

■質問2. #8000のような電話相談は受診の適正化や不安の解消に役割を果たしていると思われますが、福井先生はこうした電話相談の「現場支援」の意義や影響をどう捉えていますか?

福井先生:

「#8000」は各都道府県で事情が異なるため、その役割に懐疑的な意見もあります。
しかし、大阪府の「#8000」では、トリアージよりも、保護者の話をじっくり聞き、子どもをきちんと観察してもらうことで、適切な受診に繋がるという考えに基づき相談を受けています。現場の先生方、特に小児救急の先生方からは「#8000があって本当に助かっている」という声をいただいています。

入院するような子どもが大幅に減っている今、子どもたちのウェルビーイングを目指し、保護者をサポートする意義が大きくなっていると感じています。

■質問3. 医療職が相談に関わるとき、福井先生が重視しているスキルや姿勢があれば教えてください。

福井先生:

やはり「聴く姿勢」ですね。

「#8000」は相談技術と判定基準の2つが柱ですが、救急の先生方は判定基準やトリアージにばかり意識が向き、相談技術にはあまり目を向けない傾向があります。医師よりも看護師の方が、相談技術や傾聴への意識は高いですが、救急の看護師は電話相談が苦手な方もいます。相談技術については言語化して伝えることで、考え方の転換を促すことができると考えています。

意見交換:協会が目指す未来と医療現場からの期待

福井先生からのご意見を受け、以下の3つのテーマで意見交換が行われました。本レポートでは、意見交換テーマ3の一部をご紹介します。

・意見交換テーマ1
 相談品質の向上を目指して、現在協会で取り組んでいる「各社で実施する初期研修プログラム」とそこから発展した「認定資格制度」の構築について

・意見交換テーマ2
 業界の課題が山積する中、協会としてどのような活動を進めていくのか

・意見交換テーマ3
 医療者目線からみた民間主導の協会に対する期待について

「健康医療相談の品質向上」という目的を掲げ、協会が立ち上がり、このように多くの企業が集まっておりますが、医療者の立場からこのような民間主導の取り組みに対して福井先生はどのような期待をお持ちでしょうか?

福井先生:

医療現場は縦割りで、同じ小児科の中でも予防接種担当の先生と救急の先生とのコミュニケーションが不足していると感じることがあります。縦割りとは関係なく、幅広い相談を受けている「#8000」であれば、今の医療体制に欠けている部分や問題点に気づける可能性があると感じています。そうした問題提起は、協会に期待するところです。

鼠家代表理事:

協会として、監督官庁などに対して提言できる立場にあります。業界を代表して発信できることも、協会設立の大きな意義だと考えています。

今野副代表理事:

私も、これまで先生方からご相談を受けたこともありますが、民間だからこそ役に立てることもあると思います。

東島副代表理事:

官庁だけでなく、協会として医師団体等とも良好な関係を築き、健康医療相談業界の認知度を高め、連携していくことも目指したいと思っています。

福井先生:

何かしら壁があるかもしれませんが、うまく協会とタイアップや役割分担をしていきたいと感じました。それから、協会の「初期研修プログラム」と「認定資格制度」は、研修が仕事に直結するという点で素晴らしいと思います。小児看護に携わる看護師さんが減ってきているので、別の形で学びの場を作っていく必要がありますね。

鼠家代表理事:

看護師さんや医療者の方々に、「健康医療相談」という働き方があることを、まだまだ知ってもらえていません。ライフイベントに左右されることなく働ける仕事として、上手に活用してもらえたらと考えています。

まとめ

1時間にわたって開催された「第1回意見交換会」では、福井先生から医療と相談の両面から多くの有意義なご意見をいただき、大変実のある議論が展開されました。

今回の議論を活かし、健康医療相談の品質向上に向けた協会の今後の活動に、さらなる期待が寄せられます。

<参考>一般社団法人健康医療相談品質向上協会ホームページ
https://www.ahmc.or.jp/

※当記事は、2025年7月に作成されたものです。
※当記事内のインタビューは、2025年6月に行われたものです。

取材・写真:瀬田尚子(医療ライター)