教えて清水先生!!住まいの相談室 ーマンションの価格は下がることはないの?(第6回:“住む価値”と“投資リスク”をどう両立させるか)|PropTech-Lab

清水 千弘・PropTech-Lab 所長
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て、現職に至る。
皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。
前回(第5回)で、あなたは一つの大事な力を手に入れました。「この物件はいくらの期待に支えられているのか」を、数値と言葉で説明できるようになったことです。家賃とユーザーコストのズレを見て、「この価格が成立するには、どれくらいの値上がり(あるいは売却価格)が必要か」を言えるようになった。これは、とても大きい。でも、最後に残る問いがあります。
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後悔しにくい買い方は「最悪の世界でも住めるか」で決まる
「期待に寄りかかっている部分があるとしても、それでも私はこの家に住みたい。この“住む価値”と、投資リスクの許容をどう両立させればいいのか?」
ここが本コラムの中核です。結論から言います。両立のコツは、精神論ではありません。
順番と境界線です。
なぜ精神論ではダメなのか。それは、住宅購入は気合いで勝てる勝負ではないからです。金利はあなたの都合では動きませんし、市場はあなたの希望どおりにはなりません。転勤、出産、介護、転職、病気といった人生のイベントも、計画どおりにやってきません。だから、気持ちを強く持つより先に、「崩れない形」を作る必要があります。
順番はこうです。
(1)住む価値を先に言葉にする
(2)投資リスクを後で数字にする
(3)最後に「境界線」を決める
この順番を守ると、混ざって事故が起きにくくなります。

はい、先生! その『混ざって事故が起きる』というのは、具体的にどういう状態なんでしょうか?

いい質問ですね。混ざって事故が起きる典型は、だいたい次のどちらかです。
• 投資の言葉で生活を正当化してしまう
「値上がりしそうだから、多少の不便は我慢する」
→ 期待が外れたとき、“不便だけが残る”
• 生活の言葉で投資の無理を正当化してしまう
「住みたいから、多少高くても仕方ない」
→ 金利上昇や売却難で、“家計の余裕が消える”

なるほど……。どちらも、後になってから「しまった」と気付きそうです。

そうですね。両方とも、後悔の形が似ています。
「分かっていたはずなのに、混ぜてしまった」という後悔です。
今日は、あなたが自分の物件に当てはめられるように、具体的な問いの形に落とし込みます。
読みながら、ぜひメモを取ってください。「ここは言える」「ここは言えない」という差が、そのまま判断の材料になります。
まず「住む価値」を言葉にする:生活の判断を先に切り出す
住む価値は、DCFの式には入りにくい。でも確実にあなたの人生に効く価値です。だから最初に、生活の言葉だけで、住む価値を言語化します。
ここで大事な約束があります。
“買う価格”を先に見ないこと。
価格を先に見た瞬間、投資の言葉が混ざりやすくなるからです。まずは「暮らし」だけを取り出します。
問いは単純です。
この暮らしのために、私は毎月いくら払っていいか?
ここでの「払う」は、家賃でもローンでも構いません。「住まいサービスへの支払い」として考えます。あなたが買うのは、壁や床ではなく、「生活の質」です。
ただし、多くの人はここで詰まります。理由は簡単で、住む価値は“気分”に見えやすいからです。そこで、問いを二段に分けます。
住む価値を「Must」と「Nice」に分ける
• 絶対に譲れないもの(Must)
例:通勤時間、学区、駅距離、治安、日当たり、静けさ、間取り、階段の有無(将来の生活)、周辺の医療・買い物環境など
• あったら嬉しいが妥協できるもの(Nice)
例:眺望、内装グレード、ブランド、共用施設、コンシェルジュ、ディスポーザー、ジムなど
この整理ができると、「なぜその物件なのか」が価格と切り離されます。住む価値は“説明できる形”になります。これが第一段階です。
ここで、もう一歩だけ深めます。Mustは「暮らしの土台」ですが、実は後悔を減らすのは Mustの中の優先順位です。
たとえば、通勤時間と日当たり、どちらがあなたの人生に効くのか。静けさと広さ、どちらがあなたにとっての回復なのか。ここを自分の言葉で言えると、購入後のブレが小さくなります。
最後に、この一文を作ってください。
私は、この家で___を手に入れるために買う。
___には「通勤の短縮」「家族との夕食の時間」「睡眠」「安心」「子どもの環境」「自分の作業スペース」など、具体的な生活の言葉が入るのが理想です。「資産価値」や「値上がり」は、ここには入れません。ここは生活の段階だからです。
次に「投資リスク」を数字にする:期待が外れた世界を用意する

さて、「住む価値」が言語化できたら、次に考えるのは「投資リスク」です。ここで重要なのは、未来を当てにいかないこと。やるのは予測ではなく、「ストレステスト」です。

先生、「ストレステスト」というのは、具体的にどういうことをするんでしょうか?

「ストレステスト」とは、簡単に言えばこうです。 「都合の良い未来」ではなく、「少し嫌な未来」を先に置いて、それでも壊れないかを確かめます。
なぜこれが重要か――
住宅は流動性が低く、簡単に撤退できないからです。株なら売って逃げられる局面でも、住宅は売れない・時間がかかる・値下げが必要、ということが起きます。だから「逃げられないときに耐えられるか」が、両立の条件になります。
ストレステストの問いは、3つで十分です。
問い①:金利が1%上がったら、家計は耐えられるか?
これは第2回の話の延長ですが、「価値が下がる」だけでなく「支払いが増える」可能性も含めて考えます。あなたが変動金利なら特に重要です。
チェックするのは、次の二点です。
•返済額が上がっても、生活費・教育費・貯蓄が崩れないか
•“一時的に”ではなく“数年”続いても大丈夫か
ここでのポイントは、感覚で「大丈夫」と言わないこと。
大丈夫かどうかは、“月の余白”で決まります。余白が薄いと、期待が外れた瞬間に選択肢が消えます。

たとえば具体例を一つ見てみましょう。
仮にローンが5,000万円、返済期間35年だとします。金利が年0.5%のとき月々返済は約13万円、年1.5%になると約15.3万円、差は約2.3万円です(条件により変わりますが、感覚としてはこのくらいです)。
この「月2〜3万円」を、あなたの家計は吸収できますか?
•吸収できるなら、金利リスクは“怖いが致命傷ではない”。
•吸収できないなら、金利リスクは“あなたの家計にとって致命傷になり得る”。
重要なのは、「月2〜3万円」をただの数字として見ないことです。
それは、外食や旅行を減らす程度で済むのか。
子どもの習い事を削ることになるのか。
貯蓄が止まるのか。
あなたの生活の何を削ることになるのか――そこまで具体化して初めて、耐えられるかが判断できます。
問い②:売却価格が想定より20%下がっても、詰まないか?
第5回で「必要な売却条件」を見ました。ここでは逆に、最悪に近い世界を置きます。
•10年後に売却したいとき、想定より2割安い
•あるいは、売れるまで時間がかかり、値下げが必要になる
このとき、あなたはどうしますか。
住み続けられますか。売らずに持ち続けられますか。
ここでの鍵は「持ち続けられる体力」です。
住宅は流動性が低いので、相場が悪いときに“身軽に逃げる”のが難しい。だから、両立の条件は「逃げられないときに耐えられるか」です。
さらに一歩進めて、問いを二つに分けます。
• 価格が2割下がったとき、精神的に耐えられるか
住宅は「生活の舞台」なので、含み損が続くとストレスになります。
「住む価値があるから気にしない」と言えるかどうか。
• 価格が2割下がったとき、実務的に耐えられるか
住み替えで売却が必要なとき、売却損が出ても次の住まいに移れるか。
あるいは「売れないなら賃貸に出す」という選択肢が現実的か。
ここを曖昧にしたまま買うと、期待が崩れたときの動きが遅れます。
遅れると、選べる手段が減ります。住宅のリスクは、だいたい“選択肢が減ること”として現れます。
問い③:想定外コスト(修繕・管理・暮らしの変化)が来ても耐えられるか?
持ち家は、見えないコストが後から来ます。
管理費・修繕積立金の上昇、設備更新、家具家電、突発修繕。これらは“確率は高くないがゼロではない”。だから予算に余白を残す必要があります。
ここで大切なのは、「想定外コストをゼロにする」ことではありません。
ゼロにはできません。
大切なのは「来たときに壊れない」ことです。
具体的には、次の問いが役立ちます。
▢修繕積立金が上がったら、どこを削るか?
▢大規模修繕で一時金(臨時徴収)が来たら払えるか?
▢家電や内装の更新が重なったら、貯蓄が枯れないか?
▢転勤・介護・出産などで家計構造が変わっても、支払いを維持できるか?
この3つを通して見たいのは、「この買い方は、期待が外れても壊れないか」という一点です。
最後に「境界線」を決める:両立の設計図は3本の線で作る

住む価値と投資リスクを両立させるには、あなたの中で“線”を引くことが必要です。おすすめは3本の線です。線を引く、というのは「ルールを決める」ということです。人は迷っているときほど、その場の感情に引っ張られます。だから、物件を見に行く前に、あなたのルールを先に置く。これが本質です。
線①:家計の線(毎月の余白が残るか)
あなたの生活費・教育費・貯蓄を壊さない支払い水準を決めます。
ここは「理想」ではなく「最低ライン」で決めます。金利が上がったり収入が減ったりしたときにも耐えるラインです。
ここでのコツは「いくらまで払えるか」を上限で考えるのではなく、
いくら余白が残るべきか
で考えることです。
余白とは、貯蓄・緊急費・将来投資(教育・転職・医療)に回せるお金です。
住宅にお金を寄せすぎると、この余白が消えます。
余白が消えると、人生の選択肢が減ります。
両立の第一条件は、余白を守ることです。
線②:流動性の線(売れなくても持てるか)
現金の余力、緊急資金、転職・病気・介護などのショックに耐える余力。
持ち家は売って現金化するのに時間がかかります。だから現金の余白は、投資でいうところの“流動性プレミアム”です。
ここでのポイントは、「家=資産だから安心」ではないことです。
住宅は資産ですが、すぐ現金にならない資産です。
だから、現金(流動性)は別で持つ必要があります。
自分への問いはこうです。
•収入が一時的に落ちても、何ヶ月耐えられるか?
•売れない状態が続いたら、どのくらい粘れるか?
•住み替えが必要になったとき、二重コスト(仮住まい・二重ローン)が発生しても耐えられるか?
ここに明確な答えがない場合、購入は「強気すぎる設計」になっている可能性があります。
線③:納得の線(住む価値として言えるか)
投資として割高に見える部分があるなら、そこを生活の言葉で説明できるか。
「ここに住むことで、何が良くなるのか」を言えるか。
値上がり期待で正当化していないか。ここが最後の線です。
この線は、実は一番大事です。
なぜなら、住宅購入の後悔は、価格が下がったことそのものより、
「値上がりを期待して買ったのに、上がらなかった」
「投資で買ったのに、生活の満足が低い」
という形で心に残りやすいからです。
納得の線が引けている人は、こう言えます。
「価格が多少下がっても、この暮らしは手放したくない」
ここまで言えると、期待が揺れたときにも心が折れにくい。
“住む価値”が、あなたの判断の核として機能するからです。
3本の線を引いたうえで、物件を見ます。
線の内側に収まるなら買える。収まらないなら、物件を変えるか、価格を下げるか、頭金を増やすか、借り方を変えるか、住む場所を変えるか。
ここまで来ると、判断は“気合い”ではなく“設計”になります。
そして設計とは、勝つためではなく、負けないための工夫です。
決断を支える「最終の問い」:あなたが本当に答えるべき質問

最後に、契約直前に自分に問うべき質問を置きます。これは強力です。 (ここは、答えが曖昧なまま契約しないでください。曖昧さは、後で必ず形になって戻ってきます。)
- 価格が2割下がっても、私はこの家に住み続けたいか?
→ 「価格」ではなく「暮らし」に戻って来られるか。あなたの納得の線の確認です。 - 金利が上がって支払いが増えても、生活は守れるか?
→ 家計の線の確認です。守るべき生活(貯蓄・教育・健康)を削らない設計か。 - 売りたいときに売れなくても、私は持ち続けられるか?
→ 流動性の線の確認です。住宅は“売りたいときに売れる”とは限りません。 - 値上がりがなくても、この選択は“生活として”報われるか?
→ 期待に依存していないかの確認です。値上がりがなくても、住む価値で勝てるか。 - この家を買う理由を、値上がり以外の言葉で説明できるか?
→ 他人への説明ではなく、自分への説明です。迷いが出たときの支えになります。
この5つに「はい」と言えるほど、あなたの買い方は強くなります。
逆に言えば、どれかに「いいえ」が残るなら、改善余地があります。これは悪いことではありません。改善できる段階で気づくことが、いちばん価値があるのです。
そして大事な補足を一つ。
「全部“はい”と言えないと買ってはいけない」という意味ではありません。
現実の意思決定はトレードオフです。
ただし、“はいと言えない質問”が何かを自覚し、その弱点を埋める工夫(頭金を増やす、価格を下げる、借り方を変える、エリアを変える、買う時期を変える)をした上で買う。ここがプロセスとして重要です。
まとめ:両立とは「期待を捨てる」ことではない。「期待に依存しない」設計にすること
この連載の結論はこうです。
住む価値と投資リスクの両立とは、「期待を捨てる」ことではありません。
期待があってもいい。でも、期待が外れたときに崩れない買い方にする。つまり、期待に依存しない設計にすることです。
あなたがこれから買う家は、投資商品ではありません。あなたの生活であり、家族の時間であり、安心であり、毎日の舞台です。だから住む価値は大切にしていい。けれど同時に、資産である以上、リスクから目をそらさない。
この二つを混ぜずに、順番を守って、線を引く。それが、後悔しにくい住宅購入の“型”です。
最後に、もう一度タイトルの言葉に戻ります。
後悔しにくい買い方は「最悪の世界でも住めるか」で決まる。
ここで言う「最悪」とは、破滅のことではありません。金利が少し上がる。売却価格が思ったほど伸びない。想定外コストが来る。そういう“少し嫌な未来”が来ても、あなたの生活が守られ、あなたが納得して住み続けられるか。その一点をクリアできたとき、住宅購入は「勝負」ではなく「選択」になります。
「マンションの価格は下がることはないの?」——その答えは、もう皆さんの中にあるはずです。価格の予測に振り回されず、揺るがない「準備」を。全6回、最後までお読みいただきありがとうございました。
『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』について

『PropTech-Lab』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新たな基準や簡便さ、価値観を醸成し、提供することを目指します。市場のニーズに応え、価格高騰のスパイラルを抑制し、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう努めてまいります。
『PropTech-Lab』 所長 清水 千弘 について
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について
「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,000戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でお客様にとって利便性の高い不動産取引を提供しています。
<会社概要>
会社名:株式会社property technologies
代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
URL:https://pptc.co.jp/
本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
設立:2020年11月16日
上場:東京証券取引所グロース市場(5527)