マッチングアプリで美人局に遭い、連絡が止まらない…無視して大丈夫?「会社や家族にばらす」と脅された場合の対処法を弁護士が解説

2026-10-02 22:40
弁護士法人若井綜合法律事務所

マッチングアプリで知り合った相手と会った後、「彼氏」「夫」などを名乗る人物から突然、「慰謝料を払え」「会社や家族に知られたくなければ金を払え」などと金銭を要求される――。いわゆる「美人局(つつもたせ)」を疑うようなトラブルです。

一度は断ったものの、その後も電話やLINE、SNSのDMが何度も届き、「無視したら自宅や勤務先に来るのでは」「家族や会社に本当にばらされるのでは」と不安になってしまう方も少なくありません。

では、美人局のような金銭要求を受けたとき、相手からの連絡を無視しても問題ないのでしょうか。ブロックしてしまってよいのでしょうか。

重要なのは、単に「無視する・しない」の二択で考えるのではなく、相手が何を要求しているのか、脅迫や恐喝にあたる可能性があるのか、すでに支払ってしまったのか、個人情報や写真などを握られているのかを整理することです。

この記事では、マッチングアプリをきっかけとした美人局を想定し、「会社や家族にばらす」と脅されているケースや、しつこい連絡が続いているケースを中心に、無視・ブロックする前に確認しておきたいこと、証拠の残し方、警察や弁護士への相談を検討するタイミングについて弁護士が解説します。

「無視して大丈夫か」は、実は二つの問いに分かれている

同じ「無視」という言葉でも、次の二つはまったく別の話です。

一つ目は、相手の要求に応じないこと。脅して金銭を交付させる行為は恐喝罪(刑法249条)、嘘の事実を信じ込ませて支払わせる行為は詐欺罪(刑法246条)にあたり得るものであり、そうした要求に応じる義務は生じません。この意味での「無視」、つまり支払わないという判断は、基本的に筋の通ったものです。

二つ目は、連絡そのものを放置し、こちらは何も手当てをしないこと。こちらは意味合いが変わります。要求に理由がないことと、放置していれば事態が収まることとは、必ずしも結びつかないためです。多くの方が悩んでいるのは、実はこの二つ目のほうです。

まず、届いている連絡を三つに仕分ける

無視という判断が成り立つかどうかは、相手が何を、どのような形で送ってきているかによって変わります。おおまかに三つに分けて考えると整理しやすくなります。

①脅し文句を伴う要求が繰り返されている場合

「払わないなら会社に連絡する」「家族に写真を送る」といった文言を伴う請求が続いている類型です。告げる行為自体が脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪の問題になり得る場面であり、支払いに応じる理由はありません。

もっとも、返事をしないこと自体が相手の行動を止めるとは限りません。返信がないと、連絡先や時間帯を変える、別の名義で接触するといった形で手段を増やしてくることがあります。返事をしない方針をとるなら、並行して記録の保全と相談先の確保を進めておくのが現実的です。

②名目を変えて請求が続いている場合

「治療費」「通院費」「妊娠したので中絶費用」「示談金の残り」というように、名目を替えながら請求が繰り返される類型です。一度でも支払いに応じていると、この形に移行しやすい傾向があります。

こうした請求では、主張の裏づけを求める対応が有効な場合があります。妊娠を理由とするなら医師の診断書、婚姻関係を理由とするなら戸籍に関する書類、年齢を理由とするなら身分証といった具合です。書類の提示を渋る相手は、主張自体に根拠がない可能性があるといえます。

③法的な手続の形をとってきた場合

ここだけは、放置の意味が明確に変わります。

相手方が弁護士名義の通知書を送ってきた、裁判所から支払督促が届いた、訴状が届いたという場合、それは私的な要求ではなく手続の中の書面です。たとえば支払督促は、送達を受けてから2週間以内に異議を述べないと仮執行の宣言が付され得る仕組みになっています。訴状を受け取りながら答弁書を出さず期日にも出席しない場合には、相手の主張が争われなかったものとして扱われることがあります(民事訴訟法159条3項)。

美人局の事案がこの形に進むことは多くありませんが、可能性がないわけでもありません。裁判所名義の郵便物だけは、内容にかかわらず開封し、期限を確認してください。

なぜ連絡は止まらないのか

要求が続く事案には、相手側の手元に「続けられる材料」が残っているという共通点があります。

免許証や名刺を見せた、勤務先や自宅の場所を伝えたなど、個人情報が渡っている

一度でも支払いに応じたため、支払う相手だと認識されている

その場で念書や示談書に署名した書面が残っている

会話や画像を撮影されている

思い当たるものがある場合、返事をしないだけでは連絡が止まりにくい構造になっています。裏返せば、止めるための手当ては、この材料をどう無力化するかという話になります。

ブロックや着信拒否は、有効な「無視」なのか

連絡を断つ方法として、まず思い浮かぶのがブロックや着信拒否です。有効な場面はありますが、二つ注意点があります。

一つは、連絡経路が切り替わるだけの場合があることです。別の番号、別のアカウント、共通の知人、さらには自宅や勤務先へと接触の場が移ることがあります。

もう一つは、こちらの手元に記録が残らなくなることです。相手が何を言ってきたかは、後に警察へ被害を申告する場面でも、交渉の場面でも重要な材料になります。遮断する前に、やり取りの画面、通話履歴、送金や振込の記録を保存しておいてください。アプリの退会やアカウント削除も同様で、先に保全してから行うのが順序です。

しつこい連絡そのものを、法的に止められるのか

「これはストーカー規制法違反ではないか」と考える方は少なくありません。ただし同法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことによる怨恨の感情を満たす目的という要件を置いています。金銭の回収だけが目的の連絡は、この枠組みには乗りにくい面があります。

そのため、この場面では次のような受け皿を検討することになります。

告げられた内容によっては脅迫罪や強要罪(刑法223条)

自宅や勤務先に押しかけてきた場合の住居侵入罪、業務が妨げられた場合の業務妨害罪

各都道府県の迷惑防止条例

民事上の損害賠償や、接触を控えるよう求める交渉

あわせて、一度は明確に拒絶の意思を伝えておくことにも意味があります。応じない旨を残る形で伝えたうえで、なお連絡が続いているという経過そのものが、後の対応で効いてくるためです。

すでに払ってしまった、書面に署名してしまった場合

「もう払ってしまったので、いまさら何を言っても遅い」と考えて連絡を放置している方もいます。しかし、支払い済みであることは終わりを意味しません。

脅されて、あるいはだまされて行った意思表示は、取り消すことができるとされています(民法96条1項)。支払う理由のないお金であれば、不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得の返還請求として返還を求める余地があります。その場で書かされた念書や示談書についても、作られた経緯しだいで効力が争われる余地があります。

もっとも、相手の身元がどこまで判明しているか、資力があるかによって、実際に回収できるかは変わります。取り戻せる余地は残っているという前提で、早めに事実関係を整理しておくことが大切です。

自分の側の事情が気になって動けないとき

連絡を放置してしまう理由として最も多いのが、「自分にも後ろめたいところがある」という感覚です。ここは順序を分けて考える必要があります。

相手の女性が18歳未満だった可能性がある場合、警察への申告が自分の行為の申告を兼ねてしまう場面があります。この類型では、警察に相談する前に、まず弁護士に自分の立場を整理してもらってから動くほうが安全です。

相手に実際に配偶者がいた場合は、形式的には不貞を理由とする請求という体裁が整うことがあります。ただし、婚姻関係が実在するかは書類で確認できる事柄ですし、関係を持つよう仕向けた経緯があれば、その事情が請求の当否や金額の評価に影響することもあります。一律に「無視してよい」とも「支払うほかない」とも言えない領域です。

性的な画像を撮影されている場合は、拡散の予告があるかどうかで打つ手が変わります。いずれの類型でも、動く前に状況を整理しておくことをおすすめします。

連絡が続いている間にしておきたいこと

記録を保全する。メッセージ、通話履歴、送金記録、相手の氏名や連絡先として名乗られた情報を、削除せずに保存します。

渡した情報を書き出す。何を見せ、何を伝え、何に署名したかを一覧にしておくと、リスクの見積もりが具体的になります。

家族や勤務先に伝わった場合の想定をしておく。実際に伝わるかは別として、想定があるだけで判断が落ち着きます。

相談先を決める。事件として処罰を求めたいなら警察、家族や勤務先に知られない形での解決を優先したいなら弁護士、というのが基本的な使い分けです。緊急性のない相談は警察相談専用電話(#9110)も利用できます。

かえって長引かせやすい対応

その場しのぎで一部だけ支払う。支払う相手だと認識され、名目を替えた請求につながりやすくなります。

感情的に言い返す、こちらから追及する。やり取りが荒れると、こちら側の言動が問題にされる余地が生まれます。

やり取りを消してしまう。相手の要求内容を示す材料が失われ、後の選択肢が狭まります。

よくある質問

Q. 返事をしないまま数か月が経ちました。もう終わったと考えてよいですか。

連絡が途絶えたこと自体は、権利関係が確定したことを意味しません。ただ、時間の経過とともに相手が接触をやめる事案も多くあります。記録だけは残したうえで、再開した場合の対応を決めておくとよいでしょう。

Q. 相手が「弁護士に依頼した」と言ってきました。無視してよいですか。

本当に代理人がついているのであれば、事務所名や弁護士名を確認できます。確認できる場合は放置せず、こちらも弁護士を通じて対応するのが安全です。名前を出せない場合は、そもそも事実かどうかが疑わしいといえます。

Q. 警察に相談したら、家族に知られてしまいますか。

相談の段階で家族に連絡が行くとは限りませんが、事件化すれば事情聴取などで時間を取られ、周囲が気づく可能性はあります。知られたくない事情が強い場合は、その点も含めて相談先を選ぶことになります。

まとめ

「無視して大丈夫か」は、要求に応じないことと、連絡を放置することの二つに分けて考える。

脅し文句を伴う要求に応じる義務はないが、返事をしないだけで止まるとは限らない。

裁判所からの書面が届いた場合は例外で、期限の確認が必要になる。

ブロックの前に、やり取りや送金の記録を保全しておく。

すでに支払っていても、返還を求める余地は残っている。

相手の年齢や婚姻関係に不安がある場合は、動く順序を先に整理する。

美人局の事案は、こちらに引け目があるほど要求が続きやすい構造を持っています。連絡が止まらない段階まで来ているのであれば、一人で判断を続けるよりも、状況を整理したうえで窓口を移すことを検討してみてください。


この記事の監修者

若井 亮(わかい りょう)
代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)

男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。

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当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。

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