文化庁令和7年度文化遺産国際協力拠点交流事業によるカンボジア人専門家研修の紹介

奈良文化財研究所は1993年にカンボジアにおいて文化遺産保護に係る国際協力・支援を開始して以降、カンボジア人専門家に対して数々の研修事業を行ってきました。2025年度には文化庁による文化遺産国際協力拠点交流事業の受託を受けて、カンボジア王国文化芸術省と共同で、埋蔵文化財の考古学調査に係る技術移転を目的とした新たな研修事業を開始しました。近年、カンボジアにおける世界文化遺産への登録・推薦数は増加の一途を辿っており、また、都市開発も進んでいることから、カンボジア全体における埋蔵文化財行政のスキルアップが急務となっています。こうした背景から、これまで注力してきたシェムリアップを含むカンボジア各州から専門職員に研修への参加を呼び掛けて、地方における埋蔵文化財保護体制の強化にも寄与したいと考えました。結果として、2025年度は20名の専門家を受け入れることができました。
2025年度は遺跡の考古学調査手法を研修テーマとして、8~9月にシェムリアップでの現地研修、2026年1月に奈良文化財研究所での招へい研修、6月と2026年2月にオンラインによる講義形式の研修を実施しました。ここでは、現地研修と招へい研修についてご紹介します。
現地研修では、アンコール・トム都城址内に所在する西トップ遺跡において遺跡探査、発掘調査、発掘により検出した遺構の記録に関する実習を13日間にわたり行いました(写真1)。西トップ遺跡では、奈良文化財研究所が2003年より調査研究を継続しており、2011年以降は仏教寺院の修復を行ってきました。遺跡探査実習では、寺院周辺の地下の様相を探る目的で、地中レーダー探査の方法を学びました(写真2)。この探査成果を一部で活用して、発掘調査を行いました。発掘調査実習では、土層の見分け方、掘削の方法、遺構の記録の取り方、遺物の取り上げ方等を学びました(写真3)。


発掘調査後には、完掘状況の手書きによる図面作成方法(写真4)と完了写真の撮影方法、これと併せて、写真測量による三次元モデルの作成方法(フォトグラメトリー)を実習しました(写真5・6)。研修参加者が20名と多かったため4グループに分けて研修を行いましたが、各グループともかなり高い熱量で研修に取り組んでいただきました。



招へい研修では、現地研修に参加したカンボジア人専門家のうち5名を6日間にわたり奈良文化財研究所にお招きしました。研修では、現地研修の際に取得した遺跡探査データの加工方法について学ぶとともに、奈良文化財研究所が長年にわたり取り組んできた明日香村の石神遺跡における発掘調査に参加し、日本における発掘調査方法について理解を深めました(写真7)。研修期間中には、各研修参加者からご自身が取り組んでいる職務とその課題についてご発表いただき、日本の研究者の方々と意見交換を行う機会に恵まれました。

2025年度の研修を通じて、研修にご参加いただいたカンボジア人専門家は各々個別の問題意識をもちつつも、カンボジアという国全体の文化遺産の将来を見据えていることが非常に良く理解できました。これからもこうした真摯な姿勢に寄り添って、課題の解決に寄与できる技術や知識を効果的に移転するために、文化遺産保護に係る研修事業を粘り強く継続していきたいと考えています。
(企画調整部主任研究員 山藤 正敏)