HPVワクチンへの懸念の根拠となる「分子相同性仮説」を検証 神経症状や自己免疫反応の根拠とされる分子相同性を否定

2026-01-23 14:00
学校法人近畿大学
HPVワクチンのイメージ画像

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近畿大学医学部(大阪府堺市)産科婦人科学教室主任教授 松村謙臣と、微生物学教室主任教授 角田郁生を中心とする研究グループは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが神経症状や自己免疫反応を引き起こす根拠として主張されてきた「分子相同性※1 仮説」について、コンピューター解析を用いて検証を行い、反証しました。
「分子相同性仮説」は、HPVワクチン抗原がヒトタンパク質と類似したアミノ酸配列を有するため自己免疫反応が起こるというものです。本研究では、免疫反応に関連するHPVワクチン抗原とヒトタンパク質を、この「分子相同性仮説」を主張してきた研究グループと同一の解析手法を用いて詳細に比較した結果、神経症状や自己免疫反応を引き起こし得る分子相同性は存在しないことを明らかにしました。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)1月8日(木)に、日本癌治療学会が発行する国際的な学術誌"International Journal of Clinical Oncology(インターナショナル ジャーナル オブ クリニカル オンコロジー)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●HPVワクチンが神経症状・自己免疫反応を引き起こす根拠とされてきた「分子相同性仮説」について、従来の主張と同一の手法を用いて検証
●HPVワクチン抗原とヒトタンパク質との間に、自己免疫反応や神経症状を引き起こす分子相同性は存在しないことを明らかに
●本研究により、分子相同性によりHPVワクチンの安全性に懸念を示す主張の科学的根拠が否定され、ワクチンに関する正確な理解促進に貢献

【本件の背景】
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が主な原因で、日本では毎年約1万人が新たに診断され、約3,000人が亡くなっています。感染前にHPVワクチンを接種することで、HPV感染および子宮頸がんの発症を高い確率で予防できることが国内外の多くの研究で示され、世界保健機関(WHO)も安全性と有効性を確認しています。しかし日本では、平成25年(2013年)以降、HPVワクチン接種後に神経症状や自己免疫反応が副反応として生じるのではないかという懸念が社会的に広がり、接種率が著しく低下しました。
こうした懸念の理論的根拠の一つとして、HPVワクチン抗原とヒトのタンパク質が分子レベルで類似していることから、自分の体を攻撃してしまう抗体が作られる自己免疫反応が副反応として起こる可能性、いわゆる「分子相同性仮説」が提唱されてきました。この仮説は、HPVワクチンによる神経症状や自己免疫反応を説明する理論的根拠として、HPVワクチン薬害訴訟などでも用いられてきました。この自己免疫反応は、抗原が抗体に結合する部位(エピトープ※2)がHPVワクチン抗原とヒトのタンパク質で完全に一致している場合にのみ起こります。しかし、これまでの分子相同性仮説の多くは、抗体が認識しない領域を含めた解析や、エピトープの一部分のみの一致を根拠としており、妥当性の検証は十分ではありませんでした。

【本件の内容】
研究グループは、「分子相同性仮説」について先行研究と同一の手法を用いて検証を行いました。具体的には、HPVワクチンに含まれる抗原であるHPV16 L1タンパク質について、免疫応答に関与することが知られている22種類のエピトープを抽出し、それらのアミノ酸配列をヒトのタンパク質のエピトープと比較しました。
その結果、HPV16 L1のいずれのエピトープについても、ヒトタンパク質と全長にわたって一致するアミノ酸配列は認められず、自己免疫反応を引き起こす可能性がある分子相同性は存在しないことが明らかになりました。一方で、短い部分配列が偶然一致する例は認められましたが、これは他のウイルス抗原や無作為に生成した配列でも同様に観察され、免疫学的に意味のある配列の一致を示すものではありませんでした。
本研究は、分子相同性を根拠としてHPVワクチンの安全性に懸念を示す主張が、科学的に支持されないことを示しており、ワクチンに関する正確な理解の促進に貢献することが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:International Journal of Clinical Oncology(インパクトファクター:2.8@2024)
論文名:Lack of molecular mimicry between HPV vaccine L1 antigen and human proteins by a computational analysis
(コンピュータ解析によるHPVワクチンL1抗原とヒトタンパク質との間の分子相同性の欠如)
著者 :西岡和弘 1、関山健太郎 1、城玲央奈 1、角田郁生 2、松村謙臣 3
所属 :1 近畿大学奈良病院産婦人科、2 近畿大学医学部微生物学教室、
    3 近畿大学医学部産科婦人科学教室
URL  :https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-026-02961-z
DOI  :10.1007/s10147-026-02961-z

【本件の詳細】
分子相同性とは、病原体由来の抗原とヒトタンパク質が分子レベルで類似している場合、免疫応答によって産生された交差反応性自己抗体※3 が、自己の組織を誤って攻撃する可能性があるとする仮説です。HPVワクチン接種後に報告された神経症状や自己免疫反応を説明する仮説の一つとして、この分子相同性仮説が引用されてきましたが、免疫学的に十分な検証はされていませんでした。
HPVワクチンに含まれる抗原は、HPVのL1タンパク質のみであり、抗体はその中でも特定のアミノ酸配列からなるエピトープと呼ばれる部位を認識します。したがって、自己免疫反応を引き起こすためには、HPV L1タンパク質のエピトープとヒトタンパク質のエピトープが、抗体が認識できる長さで全長にわたって完全に一致している必要があります。
研究グループは、分子相同説を提唱した先行研究と同一のコンピュータ解析手法を用い、再現性があるか検証を行いました。具体的には、免疫エピトープデータベースに登録されているHPV16 L1タンパク質の22種類の線状エピトープを抽出し、それぞれのアミノ酸配列について、ヒトタンパク質のエピトープと全長が完全に一致する配列が存在するかを網羅的に検索しました。その結果、HPV16 L1タンパク質のいずれのエピトープについても、ヒトタンパク質と全長で完全に一致するアミノ酸配列は確認されませんでした。このことから、HPVワクチンによって産生される抗体がヒトタンパク質に交差反応する可能性を、アミノ酸配列のコンピュータ解析では示すことはできないことが明らかとなりました。
一方で、エピトープの一部分のみが偶然一致する短い配列は一定数認められました。しかし、こうした短い配列の一致は、B型肝炎ウイルスやRSウイルスなど他のウイルス抗原でも同様に観察され、さらに無作為に生成したアミノ酸配列においても確認されました。これは、生物学的に無意味な偶然の一致であり、免疫学的な交差反応や自己免疫反応を説明する根拠とはなりません。なお、先行研究において、HPVワクチン接種後にヒト組織と交差反応する抗体が実際に、ヒト血液から検出されたという実験的証拠は報告されていません。
以上の結果から、本研究は、分子相同性を根拠としてHPVワクチンの安全性に懸念を示す主張が、科学的に支持されないことを明確に示しました。本成果は、HPVワクチンに関する誤解の是正と、科学的根拠に基づいた正確な情報提供に寄与することが期待されます。

【研究者のコメント】
松村謙臣(マツムラノリオミ)
所属  :近畿大学医学部産科婦人科学教室
職位  :主任教授
学位  :博士(医学)
コメント:本研究では、HPVワクチンと神経症状を結び付ける根拠として引用されてきた分子相同性仮説について、同一の解析手法を用いて科学的に検証しました。その結果、自己免疫反応を引き起こし得る分子相同性は確認されず、この仮説は支持されないことが明らかになりました。本研究成果が、HPVワクチンに関する誤解の解消と、科学的根拠に基づいた正確な理解につながることを期待しています。

【用語解説】
※1 分子相同性(molecular mimicry):病原体由来の抗原とヒトのタンパク質が分子レベルで似ている場合、病原体に対する免疫反応によって作られた抗体が自己の組織を誤って攻撃する現象(自己免疫反応)。本研究では、HPVワクチン抗原とヒトタンパク質の間に、自己免疫反応を引き起こし得る分子相同性は認められなかった。
※2 エピトープ:抗体や免疫細胞が抗原を認識する際に結合する部位。タンパク質中の特定のアミノ酸配列や立体構造がエピトープとなる。アミノ酸配列の場合、抗体が認識しうる最小のアミノ酸の文字列となる。自己免疫反応が起こるためには、病原体由来のエピトープとヒトのエピトープが免疫学的に意味のある形で一致している必要がある。一方、立体構造上においては、HPVワクチンはヒトタンパク質と類似性はない。
※3 交差反応性自己抗体:本来は病原体に対して作られたが、構造の類似性などによりヒト自身のタンパク質にも反応してしまう抗体のこと。

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 松村謙臣(マツムラノリオミ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2124-matsumura-noriomi.html
医学部 医学科 教授 角田郁生(ツノダイクオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1503-tsunoda-ikuo.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/