8種類の色素性皮膚病変を高精度で判別 診断根拠を可視化するAIを開発、医療現場への導入に期待

2026-08-07 15:00
学校法人近畿大学
AIが「どこを見て診断したか」を示すヒートマップ

AIが「どこを見て診断したか」を示すヒートマップ

近畿大学医学部(大阪府堺市)皮膚科学教室主任教授 大塚篤司、近畿大学病院(大阪府堺市)皮膚科専攻医・近畿大学大学院医学研究科医学系専攻博士課程 飯沼紀実らの研究グループは、京都大学(京都府京都市)、札幌医科大学(北海道札幌市)、広島大学(広島県東広島市)と共同で、通常のカメラで撮影した一般的な皮膚の画像から、8種類の色素性皮膚病変※1(しみ・ほくろ・皮膚がんなど)を自動で見分ける人工知能(AI)を開発しました。
これまでAIによる画像診断は、精度が高くても判断理由がブラックボックスであることが、医療現場で使用するうえでの障壁でした。今回開発したAIは、皮膚写真の「どこに注目して」AIが診断したのかを、色の濃淡で示すヒートマップ※2 として描き出し、見分けた「理由」を人が目で見て確認することが可能です。本研究は、高い診断精度だけでなく、判断根拠を「説明できること」を同時に実現した点に意義があります。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)7月23日(木)に、エルゼビア社が米国皮膚科学会(AAD)とともに発行する皮膚科学の国際的な学術雑誌"JAAD International"に掲載されました。

【本件のポイント】
●8種類の色素性皮膚病変を見分けるAIを開発し、95.9%の診断精度を確認
●AIがどこを見て色素性病変を診断したかヒートマップで描き、診断根拠を可視化
●開発したAIは、医師がAIの判断の妥当性を確認できるため、皮膚の色素病変の診断支援ツールとして医療現場への導入が期待される

【本件の背景】
しみ、ほくろ、脂漏性角化症などの色素性皮膚病変は、皮膚科の診療で非常によく見られる症例です。ところが、これらの色素性病変は悪性黒色腫(メラノーマ)や、基底細胞がんといった皮膚がんと見た目が類似しており、画像だけで診断するのは専門医でも容易ではありません。確実に見分けるためには、ダーモスコープという皮膚の拡大鏡を用いた「ダーモスコピー※3」という検査が推奨されていますが、皮膚科以外の診療現場では常備されていることが少なく、いつも使用できるとは限りません。
近年、AIによる皮膚画像診断の研究が進み、専門医に匹敵する精度の高さが報告されるようになりました。しかし、精度が高いAIほど内部の判断が複雑になり、「なぜその診断に至ったのか」が人には分かりにくいという「ブラックボックス問題」が、医療現場への導入の障壁となってきました。そこで研究グループは、日本人の色素性病変に対応し、かつ診断の根拠を目で見て確かめられる「説明できるAI※4」の実現に取り組みました。

【本件の内容】
研究グループは、日本国内の複数の医療機関から収集した979枚の臨床写真を用いて、8種類の色素性皮膚病変(後天性真皮メラノサイトーシス、基底細胞がん、雀卵斑(そばかす)、悪性黒色腫、ほくろ、脂漏性角化症、日光黒子、肝斑)を診断するAIを開発しました。複数の深層学習モデルを組み合わせるアンサンブル学習※5 を採用し、学習に使用していない196枚のテスト画像において、95.9%の診断精度を達成しました。また、ほくろと見分けづらく非常に悪性度の高いがんである悪性黒色腫について、テスト画像に含まれる20例は、すべて正しく判別することができました。
さらに、本研究ではGrad-CAM※6 を用いて、AIが診断の根拠とした領域をヒートマップとして可視化しました。その結果、AIは背景ではなく病変そのものに着目して診断していることが確認され、病変の種類によって注目する部位にも特徴があることが示されました。これにより、高い診断精度だけでなく、診断の根拠を医師が視覚的に確認できる「説明できるAI」の有用性を示しました。
本研究は、日本人の臨床写真を対象とした内部検証であり、今後は外部検証を進めることで、皮膚科専門医が少ない地域やダーモスコピーを使用できない環境での、診断支援ツールとしての活用が期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:JAAD International(インパクトファクター:6.5@2025)
論文名:An Explainable Deep Learning Model Classifies
    Eight Categories of Pigmented Skin Lesions on Clinical Photographs:
    A Multicenter Retrospective Internal Validation Study in Japan
    (説明可能なディープラーニングモデルによる臨床写真を用いた
     8カテゴリーの色素性皮膚病変の分類:日本における多施設共同後方視的内部妥当性検証研究)
著者 :飯沼紀実1、藤井一恭2*、中嶋千紗2、葛西健一郎3、入江浩之4、金友仁成5、栁原茂人5、
    佐藤さゆり6、宇原久6、竹田史章7、木村裕一8、永岡隆9、大塚篤司2 *責任著者
所属 :1 近畿大学病院皮膚科、2 近畿大学医学部皮膚科学教室、3 葛西形成外科、
    4 京都大学医学研究科皮膚科学教室、5 かねとも皮フ科クリニック、
    6 札幌医科大学医学部皮膚科学講座、7 広島大学デジタルものづくり教育研究センター、
    8 近畿大学情報学部情報学科、9 近畿大学生物理工学部生命情報工学科
URL :https://doi.org/10.1016/j.jdin.2026.07.002
DOI :10.1016/j.jdin.2026.07.002

【研究者のコメント】
大塚篤司(オオツカアツシ)
所属  :近畿大学医学部皮膚科学教室
職位  :主任教授
学位  :博士(医学)
コメント:色素性病変には良性のものと悪性のものが有り、その判別は臨床上とても重要です。今回は、ダーモスコープという特殊な医療機器を使わずとも、一般的なカメラで撮影した画像を高精度で判別できるAIを開発しました。今後、医療現場に普及することで、皮膚科専門医がいない地域での診断精度向上に寄与することが期待されます。

飯沼紀実(イイヌマキミ)
所属  :近畿大学病院皮膚科
職位  :専攻医
学位  :学士(医学)
コメント:本研究で最もこだわったのは、精度そのものよりも「AIがどこを見て、そう判断したのか」を示すことでした。ヒートマップは、AIの視線が確かに病変を捉えていること、そして、病気ごとに見ているポイントが違うことを教えてくれました。医師が根拠を確認できるAIであってこそ、安心して臨床の現場に届けられると考えています。

【用語解説】
※1 色素性皮膚病変:しみ・ほくろ・皮膚がんなど、皮膚に色(色素)の変化として現れる病変の総称。
※2 ヒートマップ:AIが画像を分類する際に、どの場所を重視したかを色の濃淡で表す代表的な可視化技術。
※3 ダーモスコピー:皮膚を拡大して観察する専用の拡大鏡を用いる検査法。色素性病変の見分けに役立つが、皮膚科以外では使えないことも多い。
※4 説明できるAI(Explainable AI):AIが何を根拠に判断したかを、人が確認できる形で示せるAIのこと。本研究では、AIが注目した場所を色で示すヒートマップを用いた。
※5 アンサンブル学習:複数のAIモデルの予測結果を組み合わせることで、診断精度や安定性を高める機械学習の手法。
※6 Grad-CAM:Gradient-weighted Class Activation Mappingの略。画像認識AIが「画像のどの部分を見てその判断をしたのか」をヒートマップで表す技術。

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 大塚篤司(オオツカアツシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2634-otsuka-atsushi.html
医学部 医学科 特命教授 藤井一恭(フジイカズヤス)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/3183-fujii-kazuyasu.html
医学部 医学科 特任准教授 中嶋千紗(ナカシマチサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2692-nakashima-chisa.html
情報学部 情報学科 教授 木村裕一(キムラユウイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/565-kimura-yuuichi.html
生物理工学部 生命情報工学科 准教授 永岡隆(ナガオカタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1345-nagaoka-takashi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/
近畿大学病院
https://www.med.kindai.ac.jp/