琵琶湖におけるワカサギの産卵時期の早期化を科学的に実証 ワカサギの資源変動予測や今後の湖沼調査の基礎となる成果

2026-09-09 10:00
学校法人近畿大学
ワカサギ産卵調査(左)ワカサギの産着卵(右)

ワカサギ産卵調査(左)ワカサギの産着卵(右)

近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)水産学専攻博士前期課程2年 成田一平(研究当時)、角田恭平(研究当時)、同博士後期課程3年 髙作圭汰、同博士後期課程1年 香田万里、同博士前期課程1年 武廣陽斗、滋賀県水産課(滋賀県大津市)石崎大介、京都大学フィールド科学教育研究センター(京都府舞鶴市)准教授 甲斐嘉晃、東北大学大学院農学研究科(宮城県仙台市)教授 池田実、近畿大学農学部(奈良県奈良市)教授 亀甲武志らの研究グループは、琵琶湖のワカサギ※1 の産卵時期が約25年前と比較して1~2カ月ほど早期化していることを科学的に明らかにしました。
産卵時期が早期化した要因として、「早期産卵の性質を有する個体の割合増加」「琵琶湖の冬季の水温上昇に対する環境適応」「産卵を促す河川水温の低下時期の早期化」の3点の可能性が考えられました。このような産卵時期の変化は、今後、全国各地の湖沼でも生じる可能性があります。本研究は、ワカサギの資源変動を予測し、適切な資源管理を考える上で重要な科学的知見であり、今後の全国的な湖沼調査の基礎となることが期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)9月9日(水)に、日本水産学会誌にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●琵琶湖における流入河川で産卵するワカサギの産卵時期の早期化を科学的に証明
●琵琶湖のワカサギの産卵時期が、約25年前と比べて約1~2カ月早期化していることが明らかに
●ワカサギの産卵時期の早期化を実証した世界初の成果であり、今後の資源変動予測や湖沼調査の基礎として期待

【本件の背景】
全国におけるワカサギの漁獲量は年間およそ1,000~2,000t、産出額は3~8億円で推移しており、河川や湖沼の漁業においてワカサギは重要な水産資源です。本研究の調査地である琵琶湖でも、平成5年(1993年)頃から漁獲量が急増して、漁業の対象種となりましたが、毎年の漁獲量には変動があり、近年は減少傾向にあります。しかし、琵琶湖におけるワカサギは移植由来の「国内移入種」※2 であるため、産卵親魚の保護や禁漁期間の設定などの資源管理策は実施されていません。
琵琶湖では明治43年(1910年)以降、約14億粒もの受精卵の移植※3 が試みられましたが、当時は定着に至りませんでした。現在の個体群は、昭和33年(1958年)に導水路の完成に伴って隣接する余呉湖から移動し、定着したものが起源とされています。
平成5年(1993年)の漁獲量増加を受け、平成7年(1995年)~平成9年(1997年)にかけて行われた調査では、産卵場※4 である琵琶湖流入河川での産着卵数の推移に加え、漁獲された親魚の生殖腺体指数(GSI)※5 の季節的変化が解析されました。その結果、当時の産卵時期は「2月下旬~4月上旬(盛期は3月上旬~下旬)」と推定されました。
一方で近年、琵琶湖の漁業関係者から「子持ちワカサギの漁獲や河川への遡上時期が早期化している」という声が上がっていました。しかし、平成9年(1997年)の調査以降、産卵時期の生殖腺体指数を含めた調査は行われておらず、産卵時期の現状は不明なままでした。本研究では、2シーズン(令和2年(2020年)~令和3年(2021年)、令和3年(2021年)~令和4年(2022年))にわたり産卵場での調査と生殖腺体指数(GSI)を組み合わせ、約25年前の結果と比較することで、産卵時期の早期化の実態について調査を行いました。

【本件の内容】
研究グループは、令和2年(2020年)~令和4年(2022年)に琵琶湖の流入河川および沿岸域でワカサギの産卵調査を実施しました。その結果、現在の産卵盛期は1月中旬~下旬であり、約25年前(平成7年(1995年)~平成9年(1997年))と比較して1~2カ月と大幅に早期化していることを明らかにしました。また、琵琶湖西部の沿岸域においても、流入河川と同様の1月中旬に産卵ピークを迎えることを実証しました。ワカサギの産卵期の長期変化を評価した事例は極めて少なく、本成果は、気候変動下における全国の湖沼でのワカサギの資源変動予測や、将来的に持続可能な資源管理策を構築する上での重要な基礎知見となります。

【論文掲載】
掲載誌:日本水産学会誌
論文名:琵琶湖におけるワカサギ産卵期の早期化
著者 :成田一平1、角田恭平1、髙作圭汰1、香田万里1、武廣陽斗1、石崎大介2、甲斐嘉晃3、
    池田実4、亀甲武志1*(*責任著者)
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 滋賀県水産課、
    3 京都大学フィールド科学教育研究センター、4 東北大学大学院農学研究科
URL :https://doi.org/10.2331/suisan.26-00017
DOI :10.2331/suisan.26-00017

【本件の詳細】
研究グループは、令和2年(2020年)~令和4年(2022年)の2シーズンにわたり、琵琶湖北部の流入河川(知内川・塩津大川)の下流部でワカサギの産卵調査を実施しました。併せて漁獲物の生殖腺体指数(GSI)のピーク時期を産卵盛期として解析し、産卵盛期が3月であった約25年前(平成7年(1995年)~平成9年(1997年))の知見と比較検証を行いました。
調査の結果、現在の琵琶湖流入河川におけるワカサギの産卵盛期は1月中旬から下旬であり、約25年前と比較して1~2カ月程度早期化していることが明らかになりました。この産卵時期の変化には、主に3つの要因が推察されます。まず、遺伝的要因です。琵琶湖の個体群は、早期産卵の性質を持つ霞ヶ浦産と晩期産卵の網走湖産を起源としており、定着の過程で霞ヶ浦由来の遺伝的要素を持つ個体の割合が増加した可能性が考えられます。次に環境適応の側面です。近年進行する琵琶湖の冬季から春季にかけての水温上昇により、遅い時期に孵化した仔魚は高水温に曝されて生存率が低下し、それらが淘汰されたことで産卵期が徐々に早まったと推測されます。最後に、河川水温が下降する時期そのものの早期化が、本種の産卵開始の時期を早めた可能性も考えられます。
さらに、近年産卵のため接岸したワカサギを採捕する「ワカサギ掬い」の遊漁者が急増している琵琶湖西部の沿岸域(鵜川(うかわ)・和邇川(わにがわ)河口付近)についても、令和7年(2025年)~令和8年(2026年)にかけて産着卵の計数調査を新たに実施しました。その結果、これらの沿岸では12月中旬からワカサギの産卵が確認され、流入河川と同様の1月中旬頃に産卵のピークを迎えることが明らかになりました。本研究は、将来の資源変動予測や資源管理策構築に不可欠な科学的知見であり、今後、気候変動下における全国の湖沼調査の基準となることが期待されます。

【研究者のコメント】
亀甲武志(きっこうたけし)
所属  :近畿大学大学院農学研究科
職位  :教授
学位  :博士(農学)
コメント:琵琶湖の漁業者からは、「ワカサギが卵を持つ時期や、産卵のために河川へ遡上する時期が昔より早くなっている」という話を以前からよく聞いていました。こうした現場の情報から、琵琶湖のワカサギでは産卵時期の早期化が起きている可能性が示唆されていました。しかし、琵琶湖のワカサギの産卵に関する調査は平成9年(1997年)以降実施されていなかったため、令和2年(2020年)から学生たちとともに産卵調査を開始しました。学生たちの努力の結果、琵琶湖流入河川におけるワカサギの産卵時期が過去と比べて早期化していることを確認できました。さらに、琵琶湖沿岸でも、流入河川とほぼ同じ時期にワカサギが産卵していることを明らかにしました。この成果は、ワカサギの産卵時期の早期化を実証した世界で初めての報告です。今後、地球温暖化の進行に伴ってワカサギの産卵時期がさらに変化することが予測されることから、本研究の成果は、全国の湖沼におけるワカサギの産卵時期の変化や資源変動を理解・予測する上で重要な基礎情報になると考えられます。

【用語解説】
※1 ワカサギ:ワカサギは、サケ目キュウリウオ科に属する魚類である。日本の内水面漁業において極めて重要な水産資源であり、食用としての価値だけでなく、冬のレジャーであるワカサギ釣りの対象魚としても高い人気を誇る。
※2 国内移入種:日本国内に自然分布している種のうち、本来生息していなかった国内の他地域へ、放流などによって持ち込まれた種のこと。琵琶湖のワカサギは、近隣の余呉湖へ移植された霞ヶ浦産や網走湖産の個体が流入・定着したものであると考えられる。
※3 受精卵の移植:ワカサギ資源の増殖は、北海道網走湖などの種卵産地からの受精卵を購入後、孵化させた仔魚の放流が一般的である。
※4 産卵場:ワカサギが産卵を行う場所。湖に流入する河川に遡上し、水深が浅く、流れがある場所の砂礫底の場所を選んで産卵する。沿岸では、波浪によって泥や藻が除かれた小石や砂利に産卵することが報告されている。
※5 生殖腺体指数(GSI):Gonadosomatic Index。魚の成熟度を測る指標の一つで、「生殖腺(精巣や卵巣)の重量 ÷ 体重 × 100」で算出される。値が高いほど生殖腺が発達しており、産卵直前の状態であることを示す。

【関連リンク】
農学部 水産学科 教授 亀甲武志(キッコウタケシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2466-kikko-takeshi.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/