肝動脈化学塞栓療法と免疫療法で難治性肝がんの治療効果が向上 免疫療法剤と血管新生阻害剤併用による肝細胞がんの予後延長に期待

近畿大学医学部(大阪府堺市)内科学教室(消化器内科部門)主任教授 工藤正俊らを中心とした国際共同研究グループは、腫瘍量が多く難治性で切除不能な非転移性肝細胞がん患者に対して、従来の治療法である肝動脈化学塞栓療法※1(TACE)に、免疫チェックポイント阻害剤※2 であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)と、血管新生阻害剤※3 であるベバシズマブ(商品名:アバスチン)を併用することで、TACEだけの治療と比較して無増悪生存期間※4 を有意に延長し、全生存期間※5 が改善する傾向を示すことを、世界で初めて多施設国際共同無作為化第3相試験※6 で明らかにしました。
本研究成果により、今後TACEとアテゾリズマブ・ベバシズマブを併用した手法が、切除不能な高腫瘍量の難治性・非転移性の肝細胞がん患者の標準治療となり、完治も可能になると期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)8月25日(火)に、The Lancet社が発行する消化器・肝臓分野に関する学術雑誌"The Lancet Gastroenterology and Hepatology(ザ ランセットガストロエンテロロジーアンドヘパトロジー)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●切除不能で、高腫瘍量の難治性・非転移性肝細胞がんの標準治療であるTACEに、免疫チェックポイント阻害剤(アテゾリズマブ)と血管新生阻害剤(ベバシズマブ)を併用することで、治療効果が高まることを世界で初めて証明
●本治療法はTACEのみの治療と比較して、高腫瘍量の肝がん患者の無増悪生存期間を延長し、全生存期間も改善傾向を示すことを確認
●本研究成果を元に画期的なこの併用療法が承認されれば、切除不能でかつ高腫瘍量の難治性・非転移性肝細胞がん患者の完治につながることが期待
【本件の背景】
切除不能で、遠隔転移や脈管浸潤がない非転移性肝細胞がん患者に対する治療では、カテーテルで抗がん剤と塞栓物質を注入してがん細胞の増殖を抑える、TACEという手法が昭和58年(1983年)に日本で開発され、瞬く間に世界の標準治療となりました。一方、肝細胞がんの薬物療法は、平成21年(2009年)ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)をはじめとして、平成30年(2018年)レンバチニブ(商品名:レンビマ)、令和2年(2020年)アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)+ベバシズマブ(商品名:アバスチン)、令和4年(2022年)デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)+トレメリムマブ(商品名:イジュド)などの有効な薬物が、次々に開発されています。TACEの効果には限界があるため、薬物療法を組み合わせたさまざまな治療が試されており、薬剤が開発されるたびに治療方針も大きく変化しつつあります。特に腫瘍量が多い患者(6-and-12スコア※7 でUp-to-6基準を超える腫瘍※8)は難治性で、TACEのみでは制御が困難でした。
これまで、非転移性肝細胞がん患者に対して薬物療法とTACEを組み合わせた臨床試験が6試験実施されましたが、近畿大学医学部を中心とする研究グループが行った、医師主導試験であるTACTICS試験※9 以外は全て失敗となりました。その後、研究グループはレンバチニブとTACEを組み合わせる治療法(LEN-TACE療法)をTACTICS-L試験で開発し、良好な治療効果を示すことを確認しました。この治療法は非常に効果が高いものの、令和2年(2020年)以降は切除不能肝細胞がんにおいても他のがんと同じく免疫チェックポイント阻害剤による治療が主流となり、第一選択の治療法となりつつあります。特にアテゾリズマブ+ベバシズマブは切除不能肝細胞がんの標準治療となっています。
そこで研究グループは、TACEにアテゾリズマブ+ベバシズマブを組み合わせることで、Up-to-6基準を超える高腫瘍量の難治性肝細胞がんに対しても、TACE単独よりさらに効果の増強が期待できるのではないか、という仮説を立てましたが、効果と安全性については未知数で、大規模な臨床試験での検証が望まれてきました。
【本件の内容】
研究グループは、6-and-12スコアでUp-to-6基準を超える高腫瘍量の切除不能な非転移性肝細胞がん患者に対する効果と安全性を検証するため、進行肝細胞がんに対して標準治療となっているアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法にTACEを組み合わせ、中国と日本における多施設国際共同無作為化第3相試験を行いました。
なお、本試験の主要評価項目には、近畿大学医学部を中心とする研究グループが主導した過去のTACE併用試験(TACTICS試験やTACTICS-L試験)において有用性が実証された、TACE独自の無増悪生存期間が設定されました。
本試験では、2カ国の40施設から、Up-to-6基準を超える高腫瘍量でかつ切除不能な非転移性肝細胞がんでTACEが適応となる患者のうち、身体的な状態として活動に制限がない、もしくは軽作業や座って行う作業が可能で、肝障害の程度が軽微な342人を対象としました。患者は、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEまたはTACE単独のいずれかを受ける群に、1:1で無作為に割り付けました。
治療後の無増悪生存期間および全生存期間を調査した結果、無増悪生存期間の中央値は、TACE単独群で7.03カ月であるのに対し、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACE群では11.30カ月となり、無増悪生存期間が延長しました。また、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACE群では全生存期間も改善傾向を示しました。
結論として、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEによる治療は、TACE単独と比較して、切除不能な高腫瘍量の難治性・非転移性肝細胞がん患者の無増悪生存期間は有意かつ臨床的に意義のある延長を示し、全生存期間も改善する傾向を示しました。本研究成果により、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEによる治療は、切除不能な高腫瘍量の難治性かつ非転移性肝細胞がん患者の標準治療になり、完治させることも可能になると期待されます。
【論文掲載】
掲載誌:The Lancet Gastroenterology and Hepatology(インパクトファクター:39.1@2025)
論文名:On-demand transarterial chemoembolisation combined with atezolizumab and
bevacizumab in patients with untreated hepatocellular carcinoma (TALENTACE):
a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial
(切除不能肝細胞がんに対するアテゾリズマブ・ベバシズマブと
オンデマンド肝動脈化学塞栓療法との併用療法(TALENTACE):
多施設無作為化比較オープンラベル第3相試験)
著者 :工藤正俊1、小笠原定久2、Ruibao Liu3、Shanzhi Gu4、Kunyuan Wang5、Ming Zhao6、
Hongtao Hu7、Zhaoyu Liu8、Kecan Lin9、Jingfeng Liu10、Zhengyu Lin11、
Yonghong Zhang12、Tao Peng13、Jinhua Song14、上野誠15、Jiye Zhu16、Lidan Bai17、
Lin Tong17、Yanjun Shi17、Guohong Han18*、Jiahong Dong19* *共同筆頭著者
所属 :1 近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)、
2 千葉大学大学院医学研究院消化器内科学、
3 ハルビン医科大学がん病院放射線IVR科、
4 湖南省がん病院放射線IVR科、
5 南方医科大学南方医院感染症・肝臓病部門、
6 中山大学がんセンター低侵襲・IVR腫瘍科、
7 河南省がん病院(鄭州大学附属がん病院)放射線IVR科、
8 中国医科大学附属盛京医院放射線科、
9 福建医科大学孟超肝胆医院肝胆膵外科、
10 福建医科大学臨床腫瘍学部・福建省がん病院肝胆膵外科、
11 福建医科大学第一附属病院IVR科、
12 首都医科大学北京佑安医院IVRセンター、
13 広西医科大学第一附属病院肝胆膵外科、
14 南京医科大学第一附属病院・江蘇省人民医院肝胆膵センター、
15 神奈川県立がんセンター消化器内科、
16 北京大学人民医院肝胆膵外科、
17 上海ロシュ・ファーマシューティカルズ メディカルアフェアーズ、
18 西安国際医学センター病院・西北大学肝疾患・IVR科、
19 清華大学医学部・清華大学長庚病院肝胆膵センター/
教育部デジタル・インテリジェンス肝臓病学重点研究室
URL :https://doi.org/10.1016/S2468-1253%2826%2900212-8
DOI :10.1016/S2468-1253(26)00212-8
【本件の詳細】
本研究は、切除不能で塞栓療法が適応となる肝細胞がん患者において、標準治療であるTACEにアテゾリズマブ・ベバシズマブを追加した併用療法と、TACE単独療法を比較検討することを目的としました。アテゾリズマブ+ベバシズマブは、日本を含む世界中で国際共同第3相臨床試験の結果により切除不能肝細胞がんに対して承認されている薬剤であり、この併用療法は良好な効果が確認されています。また、臨床的には対照群に比べて統計学的に有意で、かつ臨床的に意義のある全生存期間の延長効果も認められている薬剤です。
本試験(TALENTACE)では、中国と日本の2カ国の40施設において、切除不能で塞栓療法適応の肝細胞がんで、パフォーマンスステータス※10 が0または1、Child-Pugh分類※11 がAである患者を対象としました。患者は、地域(日本 対 中国)、過去のTACE歴、腫瘍マーカーAFP400ng/mL以上かAFP400ng/mL未満か、軽度な門脈浸潤(Vp1、2)の有無により層別化され、TACE+アテゾリズマブ・ベバシズマブまたはTACEのみのいずれかを受ける2群に無作為に割り付けました(1:1)。主要評価項目は、近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)主任教授 工藤正俊らにより開発された、TACE特有の無増悪生存期間(TACE-PFS)とし、安全性は無作為に割り付けられ、いずれかの試験治療を少なくとも1回受けた全参加者において評価しました。
その結果、342人の患者が登録され、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACE(n=171)、またはTACE単独(n=171)に無作為に割り付けられ、全員が少なくとも1回の試験薬投与を受けました。年齢中央値は62歳、342人中66人(19%)が女性、276人(81%)が男性でした。
治療後のTACE-PFSの中央値は、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACE群で11.30カ月、TACE単独群で7.03カ月となりました(ハザード比[HR]0.71[95%CI 0.56-0.92];p=0.009)。全生存期間は第1回中間解析時点では評価不能でしたが、TACE単独に比べ良好な傾向が見られました。グレード3以上の治療関連有害事象は、併用群61%、TACE単独群40%であり、併用群で多い結果となりました。最も多かったのは血小板減少14%、高血圧14%、塞栓後症候群13%でした。治療関連有害事象による死亡は、併用群5例、TACE単独群3例に認められ、新たな安全性シグナルは確認されませんでした。
なお、死亡の発生率が極めて低く、死亡リスクの低減効果を判断するには十分ではないため、現在引き続き全生存期間についてはフォローアップを継続しています。
結論としてアテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEによる治療は、TACE単独と比較して、切除不能で塞栓療法が適応となる肝細胞がん患者のTACE-PFSを、有意にかつ臨床的に意義のある延長効果を示し、全生存期間も改善する傾向を示しました。本試験の結果、アテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEは切除不能な高腫瘍量の難治性肝細胞がん患者の標準治療になることが期待されます。
【研究者のコメント】
工藤正俊(クドウマサトシ)
所属 :近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)
職位 :主任教授
学位 :博士(医学)
コメント:非転移性で塞栓療法が適する高腫瘍量の難治性肝細胞がん患者さんにおける、免疫療法併用による治療効果の改善については未だ承認されている薬剤はなく、長らく未解決の臨床的課題(Unmet clinical needs)でありさまざまな臨床試験が進行中です。TALENTACE試験は、我々の開発したTACE-PFSをエンドポイントにして計画された多施設国際共同無作為化第3相試験です。TACEにアテゾリズマブ・ベバシズマブを加えることにより、TACE単独よりもさらに良好な結果が期待できると考えました。主要評価項目はTACE特有のTACE-PFSですが、私が提案した試験デザインは、(1)TACTICS試験やTACTICS-L試験で用いたTACE-PFSを主要評価項目とすること、(2)高腫瘍量の6-and-12スコアが6より大きい高腫瘍量の切除不能肝細胞がん患者のみを対象とすること、の2点でした。
まず(1)については、RECIST-PDでプロトコール治療を中止すると後治療の影響を大きく受け全生存期間の差を検出できなくなるため、RECIST-PDになっても治療を継続できるTACE-PFSを採用する方が全生存期間延長効果を示せると考えたことです。(2)の腫瘍量については、「個数の少ない小型肝がん」はTACEのみでも制御が可能であるのに対し「個数が多数で大型の肝がん」ではTACEにアテゾリズマブ・ベバシズマブを加えた方がTACE-PFSを延長できるのではないか、と考えました。このような工夫により、全生存期間にも差を出しやすくなると考えて試験をデザインしました。
結果的にこのような試験デザインの工夫により、TALENTACE試験はpositive試験となり、The Lancet Gastroenterology and Hepatologyに掲載されることになりました。このアテゾリズマブ・ベバシズマブ+TACEが承認され、実臨床で腫瘍が縮小した場合には、切除・Ablationなどの根治的治療を積極的に行うことで、非転移性肝細胞がんで塞栓療法が適する患者さんにおいても治癒をもたらすことができると期待しています。
【用語解説】
※1 肝動脈化学塞栓療法:transarterial chemoembolization(TACE)という。カテーテルで抗がん剤と血液の流れを止め、腫瘍への養分などの供給を断つ塞栓物質を注入して、がん細胞の増殖を抑える手法。
※2 免疫チェックポイント阻害剤:免疫細胞の力を保ち、がん細胞を攻撃する治療薬。
※3 血管新生阻害剤:血管新生に不可欠な因子である血管内皮増殖因子が、血管内皮増殖因子受容体に結合することを阻害し、血管内皮細胞の遊走、増殖を抑制し、血管新生を阻害する治療薬。
※4 無増悪生存期間:治療中や治療後に、がんが進行せず安定した状態の期間。
※5 全生存期間:抗がん剤の臨床試験において、試験登録日もしくは治療開始日から生存した期間のことを示す。亡くなった原因ががんであるかどうかに関係なく、がん以外の病気や交通事故などで亡くなっても、統計上は同じ死亡として取り扱われる。
※6 多施設国際共同無作為化第3相試験:臨床試験のうち、第1相(少数の健康な成人を対象)、第2相(少数の患者を対象)を経て、国内外の医療機関に罹る大人数の患者をランダムにグループ分けして効果を検証する国際共同臨床試験。
※7 6-and-12スコア:最も大きながんの直径(cm)と、がんの個数を足し算した合計値で、患者を分類するスコア。肝細胞がん患者において、TACEが適応できる患者を簡便に特定し、治療後の予後を予測するために開発された指標。
※8 Up-to-6基準を超える腫瘍:6-and-12スコアでは、6以下(良好なグループ)、6超~12以下(中等度の腫瘍負荷グループ)、12超(高度の腫瘍負荷グループ)に分類され、Up-to-6基準を超える場合は、がんのサイズが大きくなったり個数が増えたりした患者を示す。
※9 TACTICS試験:TACEとソラフェニブの併用療法と、TACEのみを比較した第2相試験。Transarterial Chemoembolisation Therapy in Combination with Sorafenib as Compared with TACE Alone in Patients with Hepatocellular Carcinomaの略。主要評価項目としてTACE-PFSを用いた最初の試験。
※10 パフォーマンスステータス:全身状態の指標の一つで、日常生活における患者の制限の程度を5段階に分類したもの。
※11 Child-Pugh分類:肝臓の残された機能(肝予備能)を評価する分類法。この評価に基づき、治療法を決定する。
【関連リンク】
医学部 医学科 医学部・病院統括副学長・教授 工藤正俊(クドウマサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html