「研究室の『知』を、親子の『笑顔』に変えるまで」─医学的エビデンス×AIで挑む、家庭内デジタルトラブルの解決策

【ReGACY×東京科学大学】インタビューvol.2

2026-01-13 14:00

話手紹介

小林七彩
宮崎県出身。東京科学大学サイバー精神医学講座所属。診察室だけでは手の届かないこどもと家族をテクノロジーで救うべく、テクノロジー×医学的エビデンスを融合した家庭支援プロジェクト「つながるNEST」を開発中。

後藤太郎
2024年に ReGACY Innovation Groupに入社。研究開発型スタートアップの起業支援などアカデミア発研究シーズの社会実装支援に従事。

「夜遅くまでゲームをしている」「スマホを取り上げたら暴力を振るわれた」──。

スマートフォンの普及に伴い、家庭内で起きる子どものデジタル行動に関するトラブルは年々深刻化している。 東京都主催「TOKYO SUTEAM」事業において、ReGACY Innovation Groupが支援するのは、この現代病とも言える課題に挑むサイバー精神医学講座の小林七彩先生だ。
小林先生が開発中の「つながるNEST」は、医学的根拠に基づき、AIが親子の対話をサポートするLINEサービスである。診察室だけでは救いきれない家庭のSOSに、テクノロジーはどう寄り添えるのか。医師としての原体験と、事業化への決意を聞いた。

■ 診察室だけでは、崩壊寸前の家庭を救えない

後藤: 本日はよろしくお願いします。まずは改めて、小林先生が取り組まれている事業「つながるNEST」の概要について教えていただけますか。
小林: よろしくお願いします。「つながるNEST」は、子どものネットやゲーム利用に悩むご家族のために、AIが「子どもへの声かけ」や「関わり方」を具体的にアドバイスしてくれるLINEサービスです。
現代の家庭では、スマホやゲームを巡って「やめなさい!」「うっせぇ!」といった激しい衝突が日常的に起きています。ひどい場合には、暴力や不登校、親御さん自身のメンタル不調にまで発展してしまうケースも少なくありません。 依存症支援においては、頭ごなしに否定するのではなく、「なぜその子がネットやゲームに向かうのか」という背景理解が非常に重要です。ネットが現実からの逃げ場となっている側面もあるため、「こうすると実生活もうまくいくかもしれないよ」と、そっと背中を押すような支援が必要なのです。
後藤: ありがとうございます。この事業を着想された背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
小林: 私は精神科医として診療にあたっていますが、診察室に来られる子どもはごく一部です。また、月1〜2回の面談よりも、毎日家庭で浴びる親御さんの言葉のほうが、子どもにとっては圧倒的に影響力が大きいのです。
しかし現状では、家庭内で昼夜問わずトラブルが起きているのに、専門家に相談できるのは数週間後──。これは親御さんにとって本当に苦しい状況です。また、ネット・ゲームに詳しい相談機関は地域差が大きく、高校生以下を診る精神科医も全国的に少ないため、よほど事態が深刻化しないと相談にたどり着けない構造があります。
本当に必要なのは「早期発見・早期介入」です。「少し気になるけれど、相談に行くほどではない」という段階で気軽に使えて、声かけの工夫や特性への理解が得られれば、家庭の衝突は大きく減らせます。「知っていれば防げること」は本当に多いのに、その知識に触れる機会が圧倒的に不足していることに、ずっと危機感を抱いてきました。 診察室の外でも、24時間365日、親御さんに寄り添える支援を作りたい。未来ある子どもたちの将来が「支援が行き届かない」という理由だけで閉ざされてしまう状況を放置したくない。この強い思いが、開発の原点です。
後藤: 臨床現場での切実な体験が原点なのですね。既存の制限アプリや、行政の相談窓口とは何が違うのでしょうか?
小林: 一般的なアプリは「利用時間を減らす」「ルールを決める」といった管理や制限が中心ですが、つながるNESTのアプローチは全く異なります。 最大の特徴は、科学的根拠に基づく家族支援モデル「CRAFT(クラフト)」をベースにしている点です。これは国際的にもスタンダードな手法で、「否定や批判、命令をしない」「Iメッセージ(私はこう思う、と伝える)を使う」といった原則があります。
つながるNESTでは、AIがこの原則に基づいて「今日は大変でしたね」と親御さんに寄り添いつつ、「次はこう伝えてみましょう」と、親子関係をこじらせないための具体的な“台本”を作ってくれます。もしその声かけがうまくいかなかったとしても、「では次はこうしてみましょう」と次の一手を即座に提示できる。 支援は試行錯誤の連続で、親御さんは孤独になりがちです。そのプロセスにリアルタイムで伴走し、一緒に次の一歩を考えてくれる点が、一番の強みだと思っています。

■ TOKYO SUTEAMでの活動と成果

後藤: 弊社とタッグを組む中で、これまでの活動を振り返り、特に有用だった支援や成果についてお聞かせください。
小林: ReGACY様との討議の中では、特に「①顧客検証、②プロダクト開発、③実証先探索」の3点におけるご支援が非常に大きかったです。

① 医療機関に来る方の声は把握していましたが、「その手前の層(受診に至っていない家庭)」にどれくらいニーズがあるのかは未知数でした。そこで御社の社員の方々にご協力いただき、率直な負担感や使い心地をヒアリングできたことは、プロジェクトの方向性を決める上で大きな収穫でした。
② 始めはChatGPTの機能を使った簡易なプロトタイプから始め、ユーザーのデジタルリテラシーを確認しました。その後、ご紹介いただいたテックプレッソ株式会社様と連携し、LINE上でAIが会話できる本格的な仕組みを構築できました。「相談記録がタイムラインとして残り、後から振り返れる」機能は、研究参加者の方からも大変好評をいただいています。
③ 本来は学校や行政とも連携したかったのですが、壁もありました。そんな中、後藤さんがNPO法人などをリストアップして繋いでくださり、実際にNPO経由での申し込みも多数生まれました。 良いサービスを作っても、必要な人に届かなければ意味がありません。今後は公的機関だけでなく、ゲーム会社や通信会社なども巻き込み、「インターネットやゲームを悪者にせず、上手く付き合っていける人材を育てる」という視点でサービスを展開していきたいと考えています。

■ 3月までの「ラストスパート」で証明したいこと

後藤: 事業の骨格も固まり、いよいよ3月にかけて重要なフェーズに入ります。残りの期間、どのような活動を予定されていますか?
小林: ここからの数ヶ月は、私たちのサービスが「机上の空論」ではないことを証明する正念場になります。具体的には、実証実験(PoC)を通じて「本当に親子の行動変容が起きるのか」という医学的な検証を進めます。
また、すでに参加者の方から「研究が終わったらもう支援は受けられないのですか?」という切実な声をいただいています。依存症の回復には一般的に2年ほどかかると言われており、変化が生まれ始めたご家庭の支援を途切れさせるわけにはいきません。 継続して使える「実サービス」として社会実装するためにも、補助金申請などを含め、しっかりと資金獲得に向けた準備を進めていきます。
つながるNESTがあれば、医療機関ではお子さん自身の治療により専念できるようになりますし、相談業務に追われる教育・行政機関の方々にとっても強力なツールになるはずです。
後藤: まさに、事業化の成否を分ける重要な期間ですね。私としても、ここでの成果を最大化できるよう、自治体やNPOとのマッチング、資金獲得に向けた戦略立案など、全力でバックアップさせていただきます。最後に、今後の意気込みをお願いします。
小林: 私たちが目指しているのは、「『つながるNEST』のおかげで、家庭に笑顔が戻った」という成功事例を生み出すことです。 この3月までに「このサービスなら社会を変えられる」という確かな手応えを掴み、4月以降、その実績を持って一気に社会実装を加速させたいと考えています。
後藤: 「研究室発の技術が、日本の家族を救った」。そんな未来を必ず実現しましょう。本日はありがとうございました。

【本件に関する報道機関からのお問合せ先】
広報担当宛
連絡先:pr@regacy-innovation.com

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