ガラスにならない酸化アルミニウムを透明な非晶質の塊に ~5配位ピラミッドと6配位八面体からなる 超高密度構造と結晶を超える誘電率を高圧力で実現~
工学院大学(学長:今村 保忠、所在地:東京都新宿区/八王子市)と物質・材料研究機構(理事長:宝野 和博、所在地:茨城県つくば市、以下「NIMS」)を中心とする研究チームは、京都大学、名古屋大学、日本電子株式会社、東北大学、島根大学、岡本硝子株式会社をはじめ、国内複数機関との共同研究により、従来「ガラスにならない」と考えられてきた単一成分酸化物である酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)について、室温の高圧プロセスにより、ミリメートルサイズの透明な非晶質(アモルファス)の塊(バルク)を合成することに成功しました。
得られた試料が、高い熱伝導率や硬さを示すことに加え、誘電率が約11.3と、代表的な結晶相であるα‐Al2O3(サファイア)の誘電率(約10)を上回ることを示しました。

研究の要点
・酸化アルミニウム(アルミナ)を、室温・超高圧でミリメートル級の高密度なガラス状材料として形成
・硬さ・熱特性・電気特性を併せ持つ新非晶質材料として、電子・機械分野での材料選択肢拡大に期待
・高圧による緻密化を通じて性質を調整できる可能性を示し、構造制御による材料設計指針を提案
1.アルミナは化学的安定性や絶縁性に優れることから、電子材料やコーティングなどで広く用いられ、産業分野を支えている基幹材料です。一方で、ガラス科学の観点ではアルミナはガラス形成能を持たず、通常の溶融法ではガラス状態のアルミナ(非晶質アルミナ)を塊として得ることができませんでした。
2.今回、研究チームは、電気化学的に作製した多孔質非晶質アルミナ薄膜(アルマイト)に対して、室温で高圧(9.4 GPa:9万4千気圧)を印加することで、粒子界面や孔を消失させ、透明なバルク体へと一体化させました。固体核磁気共鳴分光、放射光X線回折、中性子回折、構造モデリングを組み合わせた解析により、非晶質アルミナの主要構造単位が、八面体から酸素頂点が一つ欠けたような5配位ピラミッド(AlO5)であること、加圧によってAlO5の変形とAlO6八面体の増加が進み、両者が稜共有で連結した、通常の非晶質には見られない高密度な構造が形成されることを明らかにしました。これにより、電場に対して応答しやすい局所構造が形成され、高い誘電率の発現につながるというモデルを提案しました。
3.本研究で示した「高圧力で、原子の配位環境(短距離構造)とその連結性(中距離構造)を制御し、物性を引き上げる」概念は、一般化できる可能性が高く、今後、誘電特性に加えて熱・機械特性を含む総合的な設計指針の確立を目指します。
4.本研究成果は、2026年4月7日に米国化学会「Journal of the American Chemical Society」に掲載されます。
●掲載誌:Journal of the American Chemical Society
●題目 :Bulk Amorphous Alumina: The Density-Driven Interplay of Pentahedral Pyramids and Octahedra for High Dielectric Permittivity
●著者 :Hideki Hashimoto, Yohei Onodera, Rei Okuno, Masashi Miyakawa, Hitoshi Yusa, Takashi Taniguchi, Sho Kakizawa, Shuya Sato, Takao Shimizu, Taro Kuwano, Takato Abe, Naoki Takata, Dasom Kim, Koji Yazawa, Kenzo Deguchi, Shinobu Ohki, Koji Kimoto, Shunsuke Shimizu, Yuto Okawara, Yuta Nishina, Aiko Shimada, Ryuichi Maekawa, Koji Ohara, Yuta Shuseki, Hidetoshi Morita, Tomoko Sato, Hiroyo Segawa, Hiroki Taniguchi, Atsunobu Masuno, Takeharu Yoshii, Koji Kawada, Toshinori Okura, Shinji Kohara
●DOI :https://doi.org/10.1021/jacs.5c22344
研究の背景
酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)は、高強度、化学安定性、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性などの優れた物性を併せ持ち、セラミックス基板、半導体製造装置部品、自動車排ガス触媒、工業用研磨材、耐火材などの幅広い産業分野で利用されています。アルミナの多くは原子が規則正しく配列した結晶ですが、一部は原子配列に規則性を持たない非晶質(アモルファス)(1)のアルミナです。アルミニウム金属を電気化学的に酸化すると薄膜状の多孔質非晶質アルミナが得られ、電子部品、コーティング材などとして利用されています。身近な日用品(やかん、鍋、弁当箱など)の表面にも耐食・耐久性向上を目的に非晶質アルミナ膜が形成されています(アルマイト処理)。一方、代表的な非晶質材料といえばガラス(2)(窓ガラスのような厚みのある塊(バルク)状態の非晶質物質)ですが、アルミナは古くから「ガラスにならない酸化物」とされ、従来の溶融法ではガラスを作ることはできません。そのため、非晶質アルミナの研究は薄膜・多孔体・ナノ粒子に限定され、緻密なバルク非晶質アルミナを合成することはできませんでした。
研究内容と成果
本研究では、電気化学的に作製した多孔質非晶質アルミナ薄膜に対して、室温で高圧力を印加し(高圧合成(3))、粒子界面および孔を消失させることで、ミリメートルサイズの緻密なバルク非晶質アルミナを合成しました。ダイヤモンドアンビルセルによるその場観察では、加圧に伴う粒子の粉砕・再配列と、一定圧力以上での粒子境界の消失が確認され、さらにベルト型高圧装置を用いて室温で高圧(9.4 GPa:9万4千気圧)を印加することによりバルク試料の合成に成功しました(図1)。

得られたバルク非晶質アルミナは、加圧による密度の上昇に加えて、ガラス状材料としては高い熱伝導率と硬さを示しました。さらに、誘電率(比誘電率)(4)が約11.3と高い値を示し、結晶のα‐Al2O3(サファイア)を上回りました(図2)。

誘電率の周波数依存性は小さく、室温付近では誘電損失(tanδ)が低いことから、高密度化により高速な分極応答が高められていることが示唆されました。
物性の起源となる構造を明らかにするため、27Al 固体核磁気共鳴分光法(NMR)、量子ビーム回折(5)(大型放射光施設SPring-8(BL04B2)の放射光X線回折およびJ-PARC・MLF(BL21)の中性子回折)を用いた実験と、回折データとNMRで得られた配位数(6)の比率を同時に再現する構造モデリングを実施しました。その結果、非晶質アルミナの主要構造単位が、一般的なガラスに見られる四面体(AlO4)や結晶に見られる八面体(AlO6)に加えて、「八面体から酸素頂点が一つ欠けたような歪んだピラミッド形状」の5配位多面体(AlO5)であることを見いだしました(図3左)。さらに加圧によってAlO6八面体が増え、AlO5ピラミッドがより歪むとともに、AlO5/AlO6が稜共有(7)で連結した結晶の様な高密度マトリクスが形成されることが示されました(図3右)。

研究チームは、この歪んだAlO5が電場に対して変形しやすい「不安定な局所構造単位」として働き、AlO6の増加との相乗効果で高い誘電応答をもたらすというモデルを提案しました。すなわち、今回の高誘電率は「組成」ではなく「密度による局所配位と中距離構造(稜共有マトリクス)の制御」によって実現された点に特徴があります。
今後の展開
本研究は、100年以上にわたり常識とされてきた「アルミナはガラスにならない」という限界を打ち破る挑戦から始まり、試行錯誤を重ねた結果、アルミナをガラス状の塊として得るという画期的な成果に到達しました。さらに、高圧による緻密化を通じて材料の構造を制御し、優れた物性を引き出せる可能性を示しました。これは最先端の高圧合成、物性計測、構造解析技術の高次元での連携により実現した成果であり、物質・材料探索に新機軸を打ち出すものです。今後は、本手法を一般化し、新規材料の合成を進めていきます。得られた知見が蓄積され、将来的な理論計算やデータサイエンスとの連携が進むことで、今までにない構造と物性を示す革新的な材料の発見・開発につながっていくことが期待されます。
用語解説
(1)非晶質(アモルファス)
結晶のような規則正しい原子配列(長距離秩序)を持たず、原子配列が乱れた固体。最近接原子間距離に相当する短距離では特徴的な構造単位(短距離秩序)を持つことが知られているが、複数の構造単位が連結し、短距離を超えたスケールに形成される中距離秩序が物性に強く影響することが近年の研究で報告されている。
(2)ガラス
非晶質の中でもガラス転移を示す物質。ガラスは通常、溶融した酸化物の液体を急速に冷却(急冷)することで得られる。ガラスとなる物質は、急冷の過程で、過冷却液体(凝固点以下の温度でも液体の状態)から原子配列が乱れたまま凍結したガラス状態に転移(ガラス転移)し、ガラス転移する温度付近では、粘度、熱膨張係数、比熱が大きく変化する。非晶質アルミナには現時点でガラス転移が観測されていないため、本研究で合成した試料をアルミナガラスとは呼ばずにバルク非晶質アルミナと呼んでいる。
(3)高圧合成
ギガパスカル(GPa:1万気圧)級の高圧を試料に印加して原子配列を再配列させ、密度や局所構造を変化させることで新しい構造・物性を持った材料を得る手法。本研究では、NIMSの超高圧制御グループのダイヤモンドアンビルセルを用いてバルク化の様子をその場観察で確認し、ベルト型高圧発生装置を用いた室温での加圧(9.4 GPa:9万4千気圧)によってバルク非晶質アルミナを合成した。
(4)誘電率(比誘電率)
電場を印加したときに材料がどれだけ分極しやすいか、また電気を蓄えやすいかを表す指標。コンデンサ材料などで重要である。
(5)量子ビーム回折
量子ビームとは、光子、電子、陽子、中性子などの量子性を持つ粒子や波の集団が同じ方向になすビーム状の流れであり、量子ビームが物質に照射されると、原子との相互作用によって回折現象が起こり、得られた回折パターンから物質の中の原子配列(構造)を調べることが可能となる。非晶質の乱れた構造を解析するためには高強度・高エネルギーの量子ビームを利用できる大型実験施設の利用が必須であり、本研究では高輝度光科学研究センターが運営する大型放射光施設SPring-8と大強度陽子加速器施設J-PARCのパルス中性子源MLFを用いた量子ビーム回折実験を実施した。
(6)配位数
特定の中心原子に結合・隣接している原子やイオンの数。本研究ではAl原子の周囲に結合するO原子の数を解析した。4配位は四面体、6配位は八面体に対応し、5配位はその中間的な多面体(本研究ではピラミッド形状)として現れる。
(7)稜共有
多面体同士が「辺(稜)」を共有して連結する構造。頂点共有より高密度になりやすく、局所的に結晶相に近い連結様式をとる場合がある。一般のガラスは頂点共有で連結しているが、非晶質アルミナでは多数の稜共有が存在することが特徴である。
謝辞
本研究は、工学院大学先進工学部応用化学科の橋本 英樹准教授と大倉 利典教授、NIMSマテリアル基盤研究センターの小野寺 陽平主任研究員とナノアーキテクトニクス材料研究センターの宮川 仁主任研究員らの研究チームが中心となって、京都大学大学院工学研究科の増野 敦信特定教授、名古屋大学大学院工学研究科の高田 尚記教授、日本電子株式会社の矢澤 宏次氏、東北大学多元物質科学研究所の吉井 丈晴准教授、島根大学材料エネルギー学部の尾原 幸治教授、岡本硝子株式会社の川田 耕司主席技師をはじめとする国内複数機関(岡山大学、東京理科大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK))の研究者らと連携して実施されました。
本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ〔未来材料〕物質探索空間の拡大による未来材料の創製(JPMJPR22Q7、JPMJPR22Q4、JPMJPR23QA)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP19H05790、JP19K05648、JP22K04950、JP23K17711、JP24K17502、JP24K01167)、JSPS 学術変革領域研究(A)「超秩序構造が創造する物性科学」(JP20H05879、JP20H05880、JP20H05881、JP20H05878)、各種民間財団の支援を受けて実施されました。本研究の一部は世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の支援を受けました。NMR測定は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM:Advanced Research Infrastructure for Materials and Nanotechnology in Japan)」の支援(JPMXP1222NM0090、JPMXP1223NM0075、JPMXP1224NM0114)を受けて、放射光実験は高輝度光科学研究センターによるSPring-8 BL04B2(2022B1363、2023A1344、2023B1237、2024B1527)にて、中性子回折実験はJ-PARC・MLFのBL21の長期課題(2022L0202)で実施しました。





