教えて清水先生!!住まいの相談室 ーマンションの価格は下がることはないの?(第5回:その物件は「期待」に支えられすぎていないか)|PropTech-Lab

清水 千弘・PropTech-Lab 所長
一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て、現職に至る。

皆さん、こんにちは。
株式会社property technologiesが設立した不動産テック研究・開発組織 『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』所長の清水千弘です。

前回(第4回)までで、あなたの頭の中には見取り図ができました。住宅価格が動くのは、家賃だけではなく、金利(割引率)と期待で大きく変わる。そして「高騰」は、家賃が上がったというより、ユーザーコストが軽く見える方向に動き、買う人が増えて価格が押し上げられる局面で起きやすい。

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では、いよいよ核心に入ります。
あなたがいま検討しているこの物件は、「期待」に支えられすぎていないでしょうか。

“必要な期待”を見える化する:家賃・ユーザーコスト・売却の三点検

ここで言う「期待に支えられすぎ」とは、乱暴に言えば、現実の家賃や保有コストだけでは説明しにくい価格になっていて、その差を“将来の値上がり”や“都合の良い売却”で埋めている状態です。値上がりが起きれば問題は表に出ません。でも期待が少しでも揺らぐと、あなたの想定していた出口(売却)や家計の余裕が、急に苦しくなります。第2回で見た「数百万円単位の振れ」は、まさにその形で現れます。

では、どうやって見抜くのか。
コツは一つです。

「この価格を正当化するために、どんな期待が必要なのか」
それを『見える化』する。

今日は、そのための三点検を紹介します。
①家賃との距離(ユーザーコスト)
②売却の必要条件(簡易DCF)
③売れる前提の質(期待の中身)
の3つです。

点検①:家賃との距離を測る(ユーザーコストで“必要な期待”を逆算する)

第3回で、住宅には二つの価格があると言いました。
「住む価格=家賃」と「持つ価格=ユーザーコスト」です。
ベンチマークでは両者は一致します。ここが第一の点検ポイントです。

あなたが検討している物件について、まずは“いま”の条件で、ざっくりとユーザーコストを置いてみましょう。細かい税制は後で足せます。ここでは骨格だけで十分です。

ユーザーコスト率(ざっくり) = 金利(資金コスト) + 維持費(管理・税) + 減価(劣化) − 期待値上がり率

この式が意味するのは、「金利が低いほど」「値上がり期待が強いほど」持つ負担は軽く見える、ということでした。ここで便利なのが、“逆算”です。 つまり、あなたが今見ている価格を、家賃と釣り合わせるには、どれくらいの値上がり期待が必要なのかを計算してしまうのです。さて、ここまでで何か質問はありますか?

はい、質問です。その『逆算する』というのが少しイメージしづらいのですが、具体的にどうやって計算するのでしょうか?

では、具体的な数字を当てはめて解説しましょう。

たとえば、あなたが検討しているマンションの価格が 6,000万円、同じ条件で賃貸に住むなら家賃は月 18万円(年216万円)だとしましょう。維持費+税+保険などを年1%、減価(劣化)を年1%、資金コスト(金利)を年2%と置きます(合計4%)。すると、値上がり期待がゼロなら、ユーザーコストは年4%×6,000万円=年240万円、月にすると20万円です。家賃18万円より少し高い。ここまでは直感と近いと思います。

では、この差(20万円−18万円=2万円)を埋めるには、どれくらい値上がり期待が必要でしょうか。年240万円のユーザーコストから、年216万円まで下げる必要があります。差は年24万円。6,000万円の24万円は0.4%です。つまり、「家賃18万円と釣り合うには、年0.4%くらいの値上がりが必要」という逆算になります。

ここで大切なのは、0.4%が正しいかどうかではありません。この価格は、年0.4%程度の値上がり期待を前提にして“成立している”、という事実が見えることです。あなたはこの前提に同意できますか?同意できる根拠は何ですか?もし同意できないなら、この物件は「期待に寄りかかっている度合い」が高い、ということになります。

さらに、同じ計算を「金利が1%上がった世界」で考えてみます。資金コストが2%→3%になると、合計は5%になります。すると、家賃と釣り合うのに必要な値上がり期待は 0.4%+1%=1.4% に増えます。つまり、金利が上がると、同じ物件でも「必要な期待」が一段重くなります。

これが第2回で扱った金利リスクの核心です。金利が上がると、住宅は「持つ負担」が増えます。その負担を相殺するには、より強い値上がり期待が必要になる。期待のハードルが上がるのです。期待のハードルが上がった瞬間に、「買う理由」が薄くなる人が増え、価格が弱くなりやすい。ここまでが、点検①の狙いです。
この物件が成立するために必要な値上がり期待(%)を、あなたは言えますか?
言えないなら、それは“期待に飲まれている”サインです。言えるなら、あなたはすでに一段冷静です。

点検②:売却の必要条件を出す(簡易DCFで“出口の難しさ”を見える化する)

点検②は出口、つまり売却です。多くの人は「住み替えはまだ先」と思います。でも現実には、転勤、家族構成の変化、親の介護、子どもの進学などで、10年単位で売却を考えることは珍しくありません。出口の条件が弱いと、期待が崩れたときに一番つらい形で表面化します。
ここではDCFを“教育用”に、できるだけ簡単な形にします。発想はこうです。

「この価格で買って、何年住むとすると、将来いくらで売れれば“だいたい釣り合う”のか」

たとえば、あなたが 8,000万円のマンションを検討していて、同等の賃貸に住むなら家賃は月 25万円(年300万円)だとします。あなたは10年住むつもりだとしましょう。ここで、家を買うことによって得る“住む便益”は、単純化すると「家賃を払わなくて済む」ことです(本当は持ち家にも管理費などがあるので後で調整しますが、まず骨格だけ)。

割引率を年2%とすると、10年間の「家賃300万円」を現在価値に直した合計は、およそ 300万円×8.98=2,694万円程度です。つまり、あなたは10年間で、現在価値で約2,700万円ぶんの住まいサービスを受け取る。
残りは何か。残りは売却で回収する必要があります。
8,000万円−2,694万円=約5,306万円。これが「売却代金の現在価値」として必要な金額です。
10年後のお金は割り引かれるので、10年後の売却価格に戻すと、
約5,306万円×(1.02)^10 ≒ 5,306万円×1.219 ≒ 6,470万円です。

つまりこの単純化した計算が言うのは、「この家を8,000万円で買い、10年住むなら、10年後に約6,470万円で売れれば、ざっくり釣り合う」ということです。 ここに、維持費・税・修繕・仲介手数料などを入れると、必要売却価格はもう少し上がります。 逆に、家賃が上がるなら下がることもあります。ただ、ここでの目的は細部の精密さではなく、出口の要求水準を見える化することです。

あなたはこの「10年後6,470万円」という水準をどう感じますか。「十分あり得る」と思うなら、その根拠は何ですか。「難しそうだ」と思うなら、その理由は何ですか。この問いに答えられるかどうかが、点検②です。

そして、ここでも「金利1%上昇」の世界を置くと、必要売却価格のハードルが上がります。割引率が3%になると、将来の売却代金の現在価値は小さく評価されるため、より高い売却価格が必要になる。つまり、金利は出口にも効くのです。第2回の“ダブルパンチ”の話がここでつながります。

点検③:「売れる前提」の質を確かめる(期待の根拠を問い直す)

点検①と②で、必要な期待が数値として見えるようになります。ここで最後にやるべきは、期待の中身の検品です。期待には「質」があります。

期待の質、ですか?

ええ。危ない期待は、こういう形です。
「最近上がっているから、きっと上がる」「みんなが買っているから、自分も」「不動産は結局強いらしい」――これは“期待の根拠”が、過去の値動きに寄りかかっています。相場の上ではよくあることですが、期待が崩れるときには、こういう期待ほど脆いです。

一方で比較的質の高い期待は、「条件の変化」に根拠があります。 たとえば、交通利便の改善、実需(暮らしたい人)の厚み、周辺の供給制約、建物管理の良さ、将来も選ばれやすい間取り・立地などです。これらは未来の不確実性をゼロにはしませんが、「売りやすさ」を支える要素になりやすいです。

あなたがこの物件を「10年後にも売れる」と思うなら、次の問いに答えてみてください。
 ▢10年後の買い手は誰か?(どんな家族像/単身/シニア/投資家?)
 ▢その買い手は何を重視するか?(駅距離、広さ、学区、管理、災害、眺望…)
 ▢この物件はそれに応えるか?
 ▢建物は10年分“古くなる”が、それでも魅力が残るか?
 ▢管理と修繕は、魅力を維持できそうか?

この問いに言葉で答えられないとき、あなたの期待は“空気”に近い可能性があります。言葉で答えられるとき、期待は少しだけ「検証可能」になります。ここが大きな差です。

まとめ:第5回のゴールは「必要な期待」を言葉にすること

第5回でやったことは、予測ではありません。
「この価格を成立させるために必要な期待」を見える化し、その期待にあなたが同意できるかを確かめる、という作業でした。

点検①で、家賃とユーザーコストから「必要な値上がり期待」を逆算する。
点検②で、簡易DCFから「必要な売却条件」を見える化する。
点検③で、その期待の“根拠の質”を言葉で検品する。

ここまでできれば、あなたはもう「相場の空気」だけでは動かされません。

次回(第6回)は、この分析を踏まえて、最後の一歩――
“住む価値”としての納得と、“投資リスク”の許容をどう両立させるのかを、あなたの行動に落とし込む回です。ここで連載は、判断の形になります。

次回も、ぜひ一緒に考えていきましょう。お楽しみに。


『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』について

『PropTech-Lab』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新たな基準や簡便さ、価値観を醸成し、提供することを目指します。市場のニーズに応え、価格高騰のスパイラルを抑制し、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう努めてまいります。

『PropTech-Lab』 所長 清水 千弘 について

一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授、社会科学高等研究院都市空間不動産解析研究センター・センター長。1994年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中退。東京大学博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授等を歴任。
2022年1月より、当社グループ参画。社外取締役を経て、2024年7月より、当社研究・開発組織『PropTech-Lab』所長に就任。

<専門分野> 指数理論 / 応用計量経済学 /多変量解析

株式会社property technologies(プロパティ・テクノロジーズ)について

「UNLOCK YOUR POSSIBILITIES. ~テクノロジーで人生の可能性を解き放つ~」というミッションを掲げています。年間36,000件超の不動産価格査定実績やグループ累計約15,000戸の不動産販売で培ったリアルな取引データ・ノウハウを背景に、「リアル(住まい)×テクノロジー」で実現する「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来に向け、手軽でお客様にとって利便性の高い不動産取引を提供しています。

<会社概要>
会社名:株式会社property technologies
代表者:代表取締役社長 濱中 雄大
URL:https://pptc.co.jp/
本社:東京都渋谷区本町3-12-1 住友不動産西新宿ビル6号館12階
設立:2020年11月16日
上場:東京証券取引所グロース市場(5527)


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