自分たちの世代でそれを終わらせないといけない。アニメ制作の未来を語る「日本アニメの新時代を拓くクリエイターたち」開催レポート|第12回 新千歳空港国際アニメーション映画祭
新千歳空港ターミナルビルを舞台に11月21日(金)より5日間に渡り開催した「第12回新千歳空港国際アニメーション映画祭」。11月23日(日)「日本アニメの新時代を拓くクリエイターたち」と題し、3名のクリエイター(山本健 氏、斎藤圭一郎 氏、刈谷暢秀 氏)をお招きしたトークプログラムを開催しました。
聞き手は本映画祭プログラム・アドバイザーの田中大裕です。

ゲストプロフィール

山本 健
アニメーション監督・演出家、アニメーター。Production I.Gを経て、現在はフリーランス。監督作品にEve〈約束〉MV(2020)、Webシリーズ「雪ほどきし二藍」(2022)、長編映画『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(2024)。現在、暁佳奈による同名小説を原作としたTVシリーズ「春夏秋冬代行者 春の舞」を制作中。

斎藤圭一郎
演出家・アニメーター。2016年、アニメーターとしてキャリアスタート。2019年 OVA『ACCA13区監察課 Regards』にて初監督(共同)。2022年、「ぼっち・ざ・ろっく!」にてTVシリーズ初監督。2023年TVシリーズ「葬送のフリーレン」監督。2024年、劇場総集編『ぼっち・ざ・ろっく!Re:/Re:Re:』監督。2026年1月「葬送のフリーレン第2期」(監督協力)放送予定。

刈谷暢秀
演出家・アニメーター。スタジオカラー出身。2019年 OVA『ACCA13区監察課 Regards』原画、2020年TVシリーズ「Sonny Boy」原画・作画監督、2020年ゲームPV「アズールレーン3周年記念PV」、2022年TVシリーズ「ぼっち・ざ・ろっく!」、2023年TVシリーズ「葬送のフリーレン」2025年TVシリーズ「その着せ替え人形は恋をするSeason 2」に絵コンテ・演出として参加。
新しい才能との出会い・発見方法
まずアニメーション業界を志すきっかけについての質問からプログラムがスタートしました。山本さんは大学のアニメサークルで出会った敏腕のアニメーターの先輩(渡邊啓一郎さん)に感化されてアニメ制作に興味を持ったと語りました。また斎藤さんは京都精華大学のアニメーション学科出身で、元々は漫画家志望でしたが、アニメーションの面白さに気づいて進路を変えたと話されました。刈谷さんは子供の頃から絵を描くことが好きで、大学のアニメサークルでアニメ業界とのつながりを得て、具体的なキャリアイメージを持つようになったと振り返りました。

同年代のアニメーターである3人がお互いの存在をどのように認識するようになったか、またクリエイターたちが新しい才能をどのように発見しているのか問われると、斎藤さんはXやVimeoなどのSNSや動画共有サービスで新しい才能を探しているとのこと。山本さんは放送中のアニメをなるべく沢山見ることで新しい表現を探していると話し、また大学の卒業制作上映などに足を運んだ際に新しい才能と出会うこともあと付け加えました。
山本さんは斎藤さんを大学の卒業制作で、斎藤さんは山本さんをSNSで知ったと言います。刈谷さんは山本さんを大学のサークルの先輩として知っており、サークルのリーダー的存在であった渡邊啓一郎さんが「山本くんは天才だ」とずっと言っていたが、当時の自分にはあんまりよくわかってなかったと大学時代のエピソードを明かし、「でも、自分も業界に入って、彼の仕事を見ていると本当に素晴らしいんで、やっぱり当時から天才だったのかも」と語ると、会場からは笑いが起こりました。
同世代のアニメーターとして ー日本のアニメ制作の課題と展望
同世代クリエイターの共通点について山本さんは、デジタル化の中で試行錯誤してきた上の世代の成果を見ながら課題に取り組んできたのが自分たちの世代だと表現しました。また『攻殻機動隊』やスタジオジブリ作品など、さらに上の世代の仕事も例に上げ「大ベテランのすごい世代がまだ現役で活躍しているけど、上の世代の働きにいつまでも頼っていてはいけないという感覚もある」と言いました。
斎藤さんは、自分たちの世代の原体験となった平成初期のアニメの質感を再現しようという気分が同世代にはある気がしていて、自分もかつてはそうした表現を追求していた部分があるものの、今では「やり尽くした感」があり、「今度はノスタルジーから脱却したものを作りたいという話をしたばかり」と、同世代のクリエイターとのエピソードを話しました。
刈谷さんは斎藤さんの言うノスタルジーやアニメの「俗っぽさ」も魅力に感じていると呼応し、技術的に高いレベルの作品がどんどん生まれていることは素晴らしいとしつつも「子どもの頃に見た“玉石混交”のアニメが好きだし、そういう気持ちはどこかでずっと持っておきたい」と日本アニメの雑多さゆえの魅力も強調しました。

さらにアニメーション業界の課題に話が及ぶと、山本さんは「アニメーションの産業が拡大することで “よくわからない企画 ” が通りづらくなっている」と指摘し、ヒットが求められるアニメばかりになってしまう状況を懸念しました。また、ソフトウェアの発展はあるもののデジタルでの制作環境が進展して20年以上経つにもかかわらず制作方法自体は根本的にはあまり変化していないことも課題として挙げ「より幅広い表現を模索する必要があるかもしれない」と続けて投げかけました。
斎藤さんはその意見に同調し、さらに「アニメ業界の収益が一部の作品に集中し、格差が広がっている」ことを指摘。メディアが伝えるほどには「アニメ業界全体が盛り上がっているとは思えない」という見解を示しました。
刈谷さんは「作り手も視聴者もコンテンツが多すぎて時間が足りない」と話し、限られた時間の中で新しい表現を吟味したり、作品を見てもらう難しさに言及しました。
また斎藤さんはアニメ業界の“教育問題”も指摘。アニメーターの世界は「見て学ぶ」という職人的な美意識がいまだに根強く、現場の実践的な技能を次世代に継承するための体系的な教育システムが確立されていないと言います。斎藤さんは「自分たちの世代でそれを終わらせないと」と話し、次世代の育成が急務であると訴えました。
「いつまでも若手でいたいのだけど、そうもいかないですね」と苦笑する3人に、アニメ業界に限らず似たような状況があるからか会場では頷いている人も多くいました。

3人のアニメーターが語る今後の展望
最後に3名の今後の展望について田中さんから質問がありました。
山本さんは、映画祭に来ることでいろいろな表現に触れられることはとても有意義だったと振り返り、インディペンデントで活動するクリエイターも増えている中、「お金も絡み、色んな要素が混在している“コラージュのようなもの”が商業アニメであり、それは好きなところでもあるけれども、自分の中の純粋な、クリアな表現みたいなものを追求したオリジナル映画を一度はやってみたい気持ちもあります」と述べました。
斎藤さんは、従来のアニメーション制作において押山清高監督や宮崎駿監督など才能のあるクリエイターがトップダウンで現場を牽引していく形が理想とされやすいなか、「自分はその属人性から離れてみる」ことに興味があると言います。価値観を共有する水平的なチーム作りから始まり、作品がどのように出来上がって観客に届くのかまで考えたものづくりの在り方を模索したいと語りました。
刈谷さんは、幅広いターゲットに向けた作品に関わりたい気持ちと、自分自身が見たいと思う作品を作りたい欲求の両方があると述べました。
3人それぞれの視点から語られた次世代のアニメ制作の未来のお話しに、会場からは惜しみない拍手が送られました。
新千歳空港国際アニメーション映画祭
国内外の話題作など招待作品の上映はもちろん、多様な未来につながるアニメーションの体験を提供する70以上のプログラムを展開。ゲストと観客が密接に交流できる独自の場を活かし、アニメーションの意義を拡張するような新しい価値を生み出す「遊び場」として、エネルギーを持ち帰ることができる文化交流拠点の創造を目指しています。
「第12回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」
開催日時:2025年11月21日(金)〜25日(火) 5日間
場所:新千歳空港ターミナルビル(新千歳空港シアターほか)








