『好きだから来て』は返金請求できる?改正風営法施行後も続く"色恋営業"トラブルを弁護士が解説

「付き合えると思って通い続けた」
「自分だけは特別だと信じていた」
──そんな恋愛感情を利用された結果、コンカフェやガールズバーで数十万円から数百万円を支払ってしまったという相談が、法律事務所にも寄せられています。
2025年に施行された改正風営法では、恋愛感情を利用した悪質な営業行為への規制が強化されました。しかし、「法律が変わったから返金される」というわけではありません。
本記事では、返金が認められるケース・認められないケースの違いや、消費者契約法・民法・改正風営法との関係について、弁護士が分かりやすく解説します。
- まず「何に払ったお金か」を切り分ける
返金の可否を考える前に、支払いを次の3つに分けてください。
店に支払った飲食代・指名料・ボトル代など … 店(事業者)との契約に基づく支払い
キャスト個人に渡した現金・プレゼント … 個人間の贈与
まだ払っていないツケ(売掛金) … 「返してもらう」ではなく「支払義務があるか」の問題
1と2では、検討する条文も交渉相手も異なります。まとめて「使った金を返せ」と伝えても話が進みにくいため、支払先ごとに整理することが出発点になります。
- 原則:好意を示す接客それ自体は、直ちに違法とはいえない
接客業において、客に好意的な言葉をかけたり、親密な雰囲気をつくったりする行為は、それ自体が違法とされているわけではありません。飲食や接客というサービスも現に提供されています。
そのため、「好きだと言われた」「二人きりで会う約束をした」といった事情があっても、それだけで契約が無効になったり、支払ったお金が不当利得になったりするとは考えにくいのが実情です。返金を求めるには、通常の営業の範囲を超えた事情を示す必要があります。
- 返還を求める余地がある4つの法律構成
① 消費者契約法の「デート商法」に関する規定
消費者契約法は、事業者が、客が恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ相手も同様の感情を抱いていると誤信していることを知りながら、これに乗じて「契約しなければ関係が破綻する」旨を告げ、それによって客が困惑して契約した場合に、契約の取消しを認めています(4条3項6号)。
なお、この規定は令和4年改正(2023年6月1日施行)により条文の号がずれており、現在も「4条3項4号」と紹介している解説が見受けられます。引用の際は注意が必要です。
取消しが認められれば、支払った代金は返還の対象になります。他方で、客の側は、取り消せる契約だと知らずに提供を受けていた場合、現に利益を受けている限度で返せば足ります(同法6条の2)。
ただし、この規定には「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件があり、一定の社会経験を重ねた成人については、適用のハードルが高くなる傾向があります。また、取消権は追認できる時から1年、契約時から5年で消滅します(同法7条1項)。
② 詐欺による取消し(民法96条1項)
交際する意思がないのに「付き合っている」と信じ込ませ、それを手段として支払わせたといえる場合には、詐欺を理由に意思表示を取り消し、不当利得の返還を求める余地があります(民法703条・704条)。もっとも、当初から欺く意図があったことの立証は容易ではありません。
③ 不法行為に基づく損害賠償(民法709条)
営業として社会的に許容される限度を明らかに超え、客の判断を著しくゆがめて出捐させたと評価できる場合には、不法行為として損害賠償を請求する構成も考えられます。店の関与の程度によって、店・キャストのいずれに請求するかも変わります。
④ 公序良俗違反(民法90条)
売春を前提とする約束など、契約内容そのものが公序良俗に反する場合は無効となり得ます。ただし、無効の効果は双方向に働き、既に渡したお金の返還が制限されることもあります(不法原因給付・民法708条)。この構成は必ずしも客側に有利とは限りません。
キャスト個人へのプレゼント・現金
これらは贈与にあたるのが通常です。書面によらない贈与でも、引き渡しが終わった部分については解除できません(民法549条・550条ただし書)。「気持ちとして渡したもの」は、原則として返還を求めにくいと考えられます。
- 2025年施行の改正風営法で何が変わったか
悪質ホストクラブ問題を受け、2025年5月28日公布の改正風営法(令和7年法律第45号)が同年6月28日から施行されました。主な内容は次のとおりです。
接待飲食営業を営む風俗営業者の遵守事項の追加(18条の3) … 料金についての虚偽・誤認を招く説明の禁止、客が恋愛感情等を抱き相手も同様と誤信していることに乗じ、「飲食しなければ関係が破綻する」「自分が降格・配置転換などの不利益を受ける」と告げて困惑させ飲食等をさせる行為の禁止、注文前の提供によって困惑させる行為の禁止
禁止行為の新設(22条の2) … 料金の支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させる行為、威迫・誘惑して売春や性風俗店勤務などによる資金調達を要求する行為。違反には6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(53条)
無許可営業等の罰則強化 … 個人は5年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金
ここで押さえておきたいのは、風営法は行政上の取締法規であり、違反があったからといって、客に自動的に返金請求権が生じるわけではないという点です。ただし、違反にあたる働きかけがあった事実は、民事上の交渉や請求において意味を持ち得ます。
また、18条の3は接待飲食営業を営む風俗営業者を、22条の2は接待飲食営業を営む者を対象としています。接待を行っていない業態はそもそも対象外である一方、届出のみで実態として接待をしていれば、無許可営業という別の問題が生じます。
- それでも返金が難しいとされる理由
証拠の問題 … やり取りが残っていない、削除されているケースが多い。「関係が破綻する」といった具体的な言葉があったかどうかが要になります
やり取りが双方向であること … 客側からも好意を示していた場合、一方的に感情を利用されたと評価しにくくなります
要件のハードル … 消費者契約法の規定は要件が細かく、通常の営業トークとの線引きが問題になります
費用倒れ … 支払額に対して回収見込みが小さいと、手続の負担が上回ることがあります
- 求め方を誤ると、立場が入れ替わることがある
返金を求める行為そのものが、次のように評価されるおそれがあります。
店に居座って要求を続ける … 不退去罪(刑法130条後段)、威力業務妨害罪(同234条)
「警察に言う」「ネットに晒す」と告げて支払わせる … 脅迫罪(同222条)、恐喝罪(同249条)
SNSに店名・キャスト名を挙げて投稿する … 名誉毀損(同230条)、民事上の損害賠償
退店後もキャストへの連絡を続ける … 相手が拒んでいれば、ストーカー規制法上の問題となる可能性
正当な請求であっても、手段を誤ると自らが責任を問われる側になり得ます。
- 返金を検討するときの進め方
記録を保全する … DM・LINE・レシート・カード明細・来店日を、消さずに日付順で残す
支払いを整理する … 店への支払いか、キャスト個人への贈与かを分けて金額を出す
言われた言葉を特定する … 誰が、いつ、どのような文言で支払いを促したかを書き出す
窓口を一本化する … 直接交渉を続けず、書面でのやり取りに切り替える
相談先を使う … 消費者ホットライン(188)、警察相談専用電話(#9110)、弁護士
- 逆に「ツケを払え」と請求されている場合
売掛金の請求を受けている場合は、返金とは別の枠組みで、支払義務の有無・金額の妥当性・取立ての適法性を検討することになります。改正風営法により、支払わせる目的での威迫や、売春等による資金調達の要求は明確に禁止されました。取立ての態様に問題があるときは、記録を残したうえで早めに相談してください。
まとめ
「色恋営業だった」という理由だけで返金が認められることは多くない
検討の出発点は、店への支払いとキャスト個人への贈与を分けること
消費者契約法の取消し、詐欺取消し、不法行為などの構成があり得るが、いずれも要件と証拠が要になる
2025年施行の改正風営法は規制を強めたが、行政上の規制であり、直ちに返金請求権を生むものではない
求め方を誤ると、自らが責任を問われる側になり得る点に注意が必要
若井綜合法律事務所には、「恋愛感情を利用された」「営業だとは思わなかった」という相談が継続的に寄せられています。特に2025年の改正風営法施行後は、「法律が変わったので返金できますか」という問い合わせも増えています。しかし、実際には風営法違反と民事上の返金請求は別問題であり、誤解している方が少なくありません。
この記事の監修者
若井 亮(わかい りょう)
/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。
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当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。
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