IOWN(R) APNで九州大学病院と別府病院をつなぎ、 手術支援ロボットの遠隔操作を実証
~髪の毛の10分の1以下の細さの糸で血管をつなぐ手術を、110km離れた場所から~
国立大学法人九州大学(以下 九州大学)、一般社団法人日本外科学会(以下 日本外科学会)、F.MED株式会社(以下 F.MED)、NTTドコモビジネス株式会社(旧 NTTコミュニケーションズ株式会社、以下 NTTドコモビジネス)、NTTイノベーティブデバイス株式会社(以下 NTTイノベーティブデバイス)、株式会社セラン(以下 セラン)は、約110km離れた九州大学病院(福岡市東区)と九州大学病院別府病院(大分県別府市)を低遅延・高速大容量通信を実現するネットワーク「IOWN(R) APN」で接続し、九州大学が開発中のマイクロサージェリー用手術支援ロボットの遠隔操作について実証実験(以下 本実証)を開始します。
本実証では、IOWN(R) APNを活用した手術支援ロボットの遠隔操作に加え、手術映像上に描いた指示が臓器の動きや画面の拡大に合わせて追従する「アノテーション技術」を活用した遠隔指導についても検証します。なお、IOWN(R) APNを活用したマイクロサージェリー用手術支援ロボットの遠隔操作実証は世界初の取り組みです。※
これらの実証を通じて、地域による医療格差の解消につながる医療提供体制の実現をめざします。
※2026年8月31日現在。九州大学研究グループ調べ。国内外の学術論文、企業・研究機関等による公開情報を調査した範囲において。
本実証は、総務省「令和8年度 地域社会DX推進パッケージ事業(先進的通信システム活用タイプ)」に採択されて実施するものです。実証期間は2026年度から2027年度までの2年間です。

研究者からひとこと:
遠隔手術は通信の質がすべてです。今回、九州大学で開発されたマイクロサージェリーのロボットとIOWN(R) APNを使い遠隔手術を行うシミュレーションを行います。世界のロボット開発に一石を投じる試みです。
(九州大学病院 先端医工学診療部 教授 沖 英次)

(参考図1)九州大学病院の医師が110km離れた別府病院の手術支援ロボットを
IOWN(R) APNという通信技術で操作します。
参考資料
IOWN(R) APNを活用したマイクロサージェリーロボットの遠隔操作実証について
1.IOWN(R) APNとは
IOWN(R) APNとは、NTT株式会社が提唱するオールフォトニクスネットワーク(APN)の一環で、従来の電気信号ではなく光信号を用いて超低遅延かつ高速大容量通信を実現する次世代のネットワーク技術です。遠隔地からロボットを操作する場合、高精細な映像を伝送するとともに、操作者の動きを遅れなく反映する通信品質が求められます。IOWN(R) APNは、このような要求に対応する通信基盤として期待されています。
その特長を活かし、遠隔医療やロボットの遠隔操作など、「離れた場所をあたかも近くにあるかのようにつなぐ」技術への活用が期待されています。
2.本実証の概要
本実証では、「手術支援ロボットの遠隔操作」と「アノテーションによる遠隔指導」の2つを組み合わせて実証します。
(1)手術支援ロボットの遠隔操作
九州大学発のベンチャー企業であるF.MEDが開発したマイクロサージェリー用の手術支援ロボットを遠隔操作できる仕様に発展させ、九州大学病院から別府病院に設置したロボットを操作し、細い血管の縫合操作が可能であるかを検証します。
この操作には、非常に厳しい通信条件が求められます。糸や血管壁の質感を正しく見分けるには、映像を圧縮せずに送る必要があり、ロボットの操作には往復0.005秒以下の応答が求められます。本実証では、IOWN(R) APNの大容量・低遅延という特長を活用し、遠隔操作に必要な通信品質を検証します。
本実証においては、NTTドコモビジネスが提供する「docomo business APN Plus(R)」を用いて2026年度に映像伝送の基礎検証を実施し、2027年度に手術支援ロボットの遠隔操作について検証を行います。
NTTイノベーティブデバイスは映像伝送装置「MediaRouterX(R)」等を提供します。なお、本実証の実施にあたり、NTT株式会社がIOWN(R) APNおよび遠隔手術支援に関する技術協力を行っています。

(参考図2)九州大学で開発中のマイクロサージェリーロボット

(参考図3)本実証が対象とする手技の精度
(2)手術映像を追いかける「アノテーション」による遠隔指導(インターネット回線を使用)
九州大学が開発し特許を取得した技術で、指導する医師が手術映像の上に描いた線やマークが、臓器の動きや画面の拡大に合わせて自動的に追いかけます。これにより、これまでのオンライン指導では難しかった「どこを、どのように」という具体的な指示ができます。
セランは、この技術を手術室に置いたままにできる装置として実装します。映像を送る装置、双方向の音声、そして手術中の電源操作を1つのボタンにまとめた「ONEボタン電源装置」を一体化し、医療スタッフに負担をかけることなく、短時間で利用を開始できるようにします。
このアノテーションによる遠隔指導の仕組みは、専用の光回線を必要としません。インターネット回線があれば全国どの手術室でも導入でき、2年目には接続をより簡単にする機能も開発します。アノテーション技術による遠隔指導は専門医の知見を広く共有し、外科医の教育・育成を支援することで、医療水準の向上に寄与します。
3.各機関の役割
・九州大学:代表機関として実証全体を統括。臨床評価および指導医の提供、アノテーション技術の提供。
・日本外科学会:ガイドラインとの整合性の確保、責任の整理に関する協議、保険適用に向けた協議。
・F.MED:手術支援ロボットの開発・供給、遠隔仕様の実用機の開発、薬事承認申請。
・NTTドコモビジネス:「docomo business APN Plus(R)」の提供、通信基盤の構築、通信品質検証。
・NTTイノベーティブデバイス:映像伝送装置「MediaRouterX(R)」等の提供と映像を回線に載せる技術支援。
・セラン:アノテーションシステムの構築・運用設計、ONEボタン電源装置の開発、全国展開の支援。

(参考図4)実証の実施体制
用語解説
マイクロサージェリー:手術用の顕微鏡を使い、直径1ミリ以下の血管・神経・リンパ管などを縫い合わせる外科手技。がん切除後の再建手術や、切断した指をつなぐ手術などに用いられます。
12-0(じゅうにゼロ)の縫合糸:手術用の糸の太さを表す規格。12-0は直径0.001~0.009ミリで、現在使われている最も細い部類の糸です(髪の毛の太さは約0.15ミリ)。
アノテーション:手術映像の上に、指導する医師が線やマークを描き込むこと。本実証で用いる技術は、描いた線が臓器の動きに合わせて自動的に移動・拡大します。九州大学が特許を保有しています。
別紙
関係者コメント
一般社団法人日本外科学会 理事長 武冨 紹信
「外科医の減少と高齢化は、外科医療の持続性に関わる構造的な課題です。とりわけマイクロサージェリーのような高難度手技は、熟練医による直接指導なしには継承が困難であり、遠隔手術のみならず、実践的な教育手法の確立は学会としても重要なテーマと位置づけています。遠隔手術とその指導を安全に、かつ持続的に社会実装するための道筋を、関係者とともに描いてまいります。」
F.MED株式会社 取締役CTO 小栗 晋
「私たちが開発しているロボットは、12-0という髪の毛の10分の1以下の細さの糸を扱い、直径1ミリ以下の血管をつなぐためのものです。既存の手術支援ロボットが対象としてこなかった領域であり、開発には長い時間を要しました。今回の実証で挑むのは、この精度を遠隔でも損なわずに実現できるかという次の課題です。四肢の切断など一刻を争う症例において、専門医が現地へ向かう時間を待たずに手術を始められれば、患者さんのその後の人生は大きく変わります。IOWNという通信基盤を得たことで、その実現がはじめて現実的な射程に入りました。」
NTTドコモビジネス株式会社 執行役員 九州支社長 吉田優子
「本実証ではIOWN(R)構想に基づくAPN技術を取り入れた大容量・低遅延な通信サービスである『docomo business APN Plus(R)』を提供しております。本実証は福岡と別府の医療機関を結び、遠隔手術を想定した国内でも先駆的な取り組みであり、九州から医療の未来を切り拓くことに、地域に根ざす通信事業者として大きな意義を感じています。今後は実証にとどまらずIOWN(R)を活用した地域医療を支えるICTプラットフォーム提供を推進し、誰もが質の高い医療を受けられる社会の実現に貢献してまいります。」
NTTイノベーティブデバイス株式会社 取締役 第四事業部長 山田 智広
「当社のMediaRouterX(R)は、光回線を活用した高品質・低遅延な映像伝送を支える通信装置です。今回の実証では、APN回線を介して、手術の4K立体映像を低遅延かつ安定的に伝送する役割を担います。今回の実証を機に、遠隔医療の社会実装に向けた技術的有効性を示すとともに、将来的にはMediaRouterX(R)をはじめとする当社の映像伝送ソリューションが、遠隔医療のみならず幅広い分野で活用され、様々な社会課題解決に貢献できることを期待しています。」
株式会社セラン 代表取締役 掛田 憲吾
「IOWN(R)による遠隔ロボット手術は、医療の到達点を引き上げる取り組みです。一方で、専用の光回線をすぐに敷ける施設は限られています。私たちが担うのは、インターネット回線さえあれば、どの手術室でも専門医の指導を受けられる仕組みを、導入しやすい価格で届けることです。ロボットが高度手術を遠隔で実現するのであれば、アノテーションシステムはその手前にある日々の手術を専門医の目で支える役割を果たします。F.MEDのロボットと組み合わせることで、遠隔手術の未来は一部の先進施設のものではなく、地域医療の日常になると考えています。」
※沖 英次 教授のコメントは、「研究者からひとこと」に掲載しています。





