ベタつかない、拭き取り不要な超音波診断用のゲルパッドを開発 今後臨床応用することで、検査時の患者満足度向上に期待

近畿大学医学部(大阪府堺市)放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)教授 門前一、同医学部講師 植原拓也らを中心とした研究グループは、ゴム製品メーカーである早川ゴム株式会社(広島県福山市)との共同研究により、超音波診断※1 に用いる液体超音波ゼリーの代替となる、新しい固形超音波診断用ゲルパッドを開発しました。従来の超音波ゼリーは特有のベタつきがあり、拭き取りが必要なため患者が不快に感じるという課題がありましたが、この新しい固形ゲルパッドは、60分以上乾燥しないため追加塗布も不要で、試用テストでは患者満足度が有意に向上しました。また、肝心な超音波検査においても、従来の液体超音波ゼリーと同等の品質であることを確認しました。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)1月12日(月・祝)19:00(日本時間)に、国際的な科学学術誌"Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)"に掲載されました。
【本件のポイント】
●新しい固形超音波診断用ゲルパッドを開発し、従来品で課題であったベタつきを解消、衣服や髪の付着を抑制
●開発したゲルパッドは60分以上乾燥せず、長時間の検査でも安定した品質の画像を撮影可能
●試用テストにおいて、従来品と比較して患者満足度が大きく向上することを確認
【本件の背景】
超音波診断は、低侵襲で信頼性の高い画像診断法として広く普及しています。超音波診断では、超音波を発信し、体内から返ってくる反射(エコー)を受信する探触子(プローブ)と皮膚の間の空気を除去し、超音波を効率的に伝達するために、ゲルまたは液体媒体が必要不可欠です。現在、医療現場では液体超音波ゼリーが広く使用されていますが、以下のような課題が指摘されています。
●患者の不快感 :衣服や髪の毛に付着する場合がある
●検査後の拭き取り作業:患者・医療従事者双方に負担
●乾燥の問題 :約15分で乾燥しはじめ、長時間の検査では追加塗布が必要
これらの課題を解決するため、近年、ゼラチンを用いた固形ゲルパッドも開発されていますが、保湿性能の維持や管理・保管の煩雑さに改善の余地があり、さらに別の素材を用いたゲルの開発が求められていました。
【本件の内容】
研究グループは、現在医療現場で使用されている液体超音波ゲルの課題解決のため、「タマリンドシードガム※2」を主成分とする新しい固形超音波診断用ゲルパッドを開発しました。「タマリンドシードガム」は、マメ科の常緑樹であるタマリンドの種子を分離精製して得られる食品・化粧品分野で使用実績のある天然多糖類で、優れた保水性と生体適合性を持つことが知られています。
開発したゲルパッドについて、健康な協力者4名を対象に従来の液体超音波ゼリーとの比較評価を実施しました。その結果、研究グループが開発した「タマリンドシードガム」を主成分とするゲルパッドは、従来の超音波ゼリーが抱えていた「ベタつき」「乾燥」「拭き取りの手間」といった課題を解決し、自己保湿機能により60分以上乾燥せず追加塗布が不要で画質劣化もなく、患者満足度が大きく向上することが確認されました。画像品質も従来のゼリーと同等で、3種類ある超音波診断用のプローブすべてにおいて使用可能であることも明らかにしました。
【論文掲載】
掲載誌:Scientific Reports(インパクトファクター3.9@2024)
論文名:Feasibility Study of a Newly Developed Solid Gel Pad Containing Tamarind Seed Gum for Diagnostic Ultrasonography in Human Subjects
(タマリンドシードガムを用いた超音波診断用ゲルパッドの新規開発と臨床応用可能性の検討)
著者 :植原拓也1、門前一1,2*、氏福恵美3、松尾幸憲1、渡辺裕3 *責任著者
所属 :1 近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)、2 近畿大学大学院医学研究科医学物理学専攻、3 わたなべ湖西クリニック
【本件の詳細】
研究グループは、タマリンドシードガム(0.1~5.0重量%)、多価アルコール(25.0~70.0重量%)、水(30.0~70.0重量%)から構成される新しい固形超音波診断用ゲルパッドを開発し、健康な協力者4名を対象に、従来の液体超音波ゼリーとの比較評価を実施しました。
開発したゲルパッドの特長は以下の4点です。
- 熱安定性:臨床温度範囲において、粘弾性挙動(粘りと弾力のバランス)が安定しており、一定の性能を発揮
- 制御された離漿液(りしょうえき):表面に適度な水分がにじみ出るよう調整しており、超音波の伝達効率を最適化
- 自己回復性:空気に曝露された後も、表面の再保湿により音響特性を維持
- 最適な機械的柔軟性:構造的完全性と皮膚への適合性のバランスを実現
リニアプローブ(総頸動脈・甲状腺)、コンベックスプローブ(肝臓)、セクタプローブ(心臓の傍胸骨四腔断面)の3種類のプローブで超音波画像を取得し、以下の項目を5段階で評価しました。
●画像品質の評価:画像の鮮明度、診断能力
●患者満足度の評価:使用感、快適性
●経時的な画像品質の変化:開始時、15分後、30分後、45分後、60分後の画像品質
すべての検査部位(総頸動脈、甲状腺、肝臓、心臓)において、開発した固形ゲルパッドと従来のゼリーの間に、画像品質の差は認められませんでした。これにより、診断精度を損なうことなくこの固形ゲルパッドが使用できることが実証されました。
また、従来のゼリーのようなベタつきがないため、すべての検査部位において、新しい固形ゲルパッドを使用した場合の患者満足度は、従来のゼリーと比較して明らかに高い結果となりました。
さらに、開発した固形ゲルパッドは、60分間にわたり乾燥することなく、安定した画像品質を維持することが確認されました。従来のゼリーは約15分で乾燥し始めるのに対し、開発した固形ゲルパッドは自己保湿機能により長時間の検査でも追加塗布の必要はありません。これらは、リニアプローブ、コンベックスプローブ、セクタプローブのすべてのタイプで、さまざまな組織の深度において使用可能であることが確認されました。
【今後の展望】
研究グループは、開発したゲルパッドの臨床応用を目指し、さらなる改良と検証を進めています。短期的には、より大規模な臨床試験による有効性の検証や、小児・高齢者・肥満患者など多様な患者層での使用評価、長期間使用時の耐久性評価を行うことを目標としており、今後、医療機器メーカーとの連携による製品化を検討しています。
さらに、本研究成果は超音波診断にとどまらず、超音波ガイド下で行う穿刺・生検などの処置、理学療法や美容医療などの超音波治療、訪問診療における在宅医療、救急現場での迅速な診断、さらには保管や管理が容易で長期間使用できる特性をいかし、発展途上国での医療支援にも応用が期待されています。
【研究者のコメント】
氏名 :門前一(モンゼンハジメ)
所属 :近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)
近畿大学大学院医学研究科医学物理学専攻
職位 :教授
学位 :博士(保健衛生学)
コメント:超音波診断は、医療現場で日常的に行われる重要な検査です。しかし、従来のゼリーは患者さんの不快感や医療従事者の業務負担など、さまざまな課題がありました。今回開発した新しい固形ゲルパッドは、協力者から「プローブを当てた際の圧迫感が少ない」「痛みや不快感、くすぐったさを感じにくい」などのコメントもあり、これまでの課題を解決しながら、従来品と同等の診断精度を維持できることが実証されました。患者さんの快適性向上と医療の質の向上の両立を実現できる技術として、今後の臨床応用を期待しています。
氏名 :植原拓也(ウエハラタクヤ)
所属 :近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)
職位 :医学部講師
学位 :博士(医学)
コメント:臨床現場で超音波検査を実施する中で、患者さんからゼリーの臭いやベタつきについてご意見をいただくことがありました。本研究で開発したタマリンドシードガムを用いた固形ゲルパッドは、患者満足度が有意に向上しただけでなく、60分以上乾燥しないという優れた特性を持つことが確認されました。今後、製品化を進め、多くの医療機関で使用されることで、患者さんにとってより快適な医療の提供に貢献したいと考えています。
【研究支援】
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI)の支援を受けて実施されました(研究課題番号:25K19181)。
【用語解説】
※1 超音波診断(Ultrasonography:US):超音波(人間の耳に聞こえない高周波の音波)を体内に伝播させ、臓器や組織からの反射波を画像化する診断法。非侵襲的で、リアルタイムに体内の状態を観察できるため、さまざまな診療科で広く使用されている。
※2 タマリンドシードガム:マメ科の常緑樹、タマリンドの種子を分離精製して得られる天然多糖類。優れた保水性、増粘性、ゲル化特性を持ち、食品添加物や医薬品添加物として広く使用されている。生体適合性が高く、安全性も確認されている。
【関連リンク】
医学部 近畿大学病院 教授 門前一(モンゼンハジメ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1301-monzen-hajime.html
医学部 医学科 医学部講師 植原拓也(ウエハラタクヤ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2562-uehara-takuya.html

