AIから逆張り!日本でブルーカラー人材革命を実現へ
世界がAIに熱狂する今、あえて「人の手」にこだわるスタートアップがある。タイ・バンコクを拠点に急成長する「Ayasan」は、家事代行からベビーシッター、介護まで、AIでは代替できないサービスをアジア5カ国で展開。創業者・伊勢康太郎氏が掲げる「ブルーカラー革命」の真意とは
AIの進化によって、私たちの働き方は大きな転換点を迎えている。生成AIの普及により、これまで「安定」とされてきたホワイトカラーの仕事が次々と自動化される一方で、いま改めて注目を集めているのが、人にしか担えないブルーカラーの仕事だ。
そんな時代の流れに、あえて真正面から挑むスタートアップが、日本で存在感を高めつつある。家事代行やベビーシッター、清掃、介護といった生活インフラ領域に特化したプラットフォーム「Ayasan(アヤサン)」である。
Ayasanは、日本に住む外国人駐在員やその家族を中心に、英語対応の家事代行・ベビーシッターサービスを提供している。英語で完結するシンプルなインターフェース、ストレスのない予約体験、そして英語を話せる人材が自宅に来てくれる安心感。こうした体験設計が支持され、サービス開始以降、ユーザー数は毎月3倍という急成長を遂げている。
このスタートアップの特徴は、単なるマッチングサービスにとどまらない点にある。Ayasanが掲げているのは、「ホテルサービスの民主化」という明確な思想だ。
本来、ホテルで提供されているような高品質な清掃、接客、ホスピタリティは、一部の富裕層や宿泊客だけのものではなく、すべての家庭が日常的に享受できるべきではないか。Ayasanはそうした問題意識から、家事や清掃といった仕事を“誰でもできる作業”ではなく、ホスピタリティを伴う専門職として再定義してきた。
その思想を支えているのが、人材への徹底した投資である。事前面接、スキル評価、研修、品質管理を標準化し、日本式のサービス基準をオペレーションに組み込むことで、サービス品質のばらつきを抑えてきた。現在は家事代行・清掃に加え、ベビーシッターや高齢者介護まで領域を広げ、生活インフラ全体をカバーする存在へと進化している。
近年、同社が特に力を入れているのがテクノロジーへの投資だ。AIを活用した人材マッチングプラットフォームでは、スキルや経験だけでなく、言語、働き方の志向性、継続性といった要素までデータ化し、より精度の高い配置を実現している。
テクノロジーは人を置き換えるためのものではなく、人の価値を最大化するために使う──それがAyasanの一貫したスタンスだ。
創業者であり代表取締役を務める伊勢康太郎氏は、ホスピタリティ業界の出身である。アメリカの大学でホテル経営学を学び、ウォルト・ディズニーやマリオット・インターナショナルでの勤務を経験してきた。
「本来、ホテルで提供されているようなサービス体験は、もっと多くの人が日常的に受けられるべきだと思っていました」と伊勢氏は語る。
ホテル創業という夢は資金面で断念したものの、その代替として選んだ道が、人材を各家庭に派遣することで“ホテル品質を社会に開放する”というアプローチだった。Ayasanは、まさにホテルサービスの民主化を掲げて生まれたスタートアップなのである。
アメリカを中心に、AIによってホワイトカラーの仕事が減少する一方、ブルーカラーの価値が再評価される動きが加速している。分野によっては、ブルーカラー職のほうが安定的かつ高収入になるケースも珍しくなく、名門大学卒業後に現場仕事を選ぶ人材も現れ始めている。
日本でも、人手不足はすでに構造的な問題だ。特に清掃、介護、育児といった生活を支える分野では、需要が高まる一方で担い手が不足している。Ayasanは、こうした領域を「AIでは代替できない、人間に残された最後の仕事」と捉え、長期的な成長分野として真正面から向き合ってきた。
高齢化社会を見据え、同社は「Ayasan Cares」ブランドのもとで高齢者介護サービスや介護用品のオンライン販売も展開している。この分野は前年比で2倍の成長を記録しており、生活インフラ企業としての輪郭をより明確にしている。
「私たちが目指しているのは、単なる仕事の仲介ではありません」と伊勢氏は語る。
「働き手にとって、短期的な収入の場ではなく、スキルを積み上げ、誇りを持って働けるキャリアの土台をつくりたい。ホテルサービスの民主化とは、その価値を社会全体に広げていくことだと考えています」
AIが急速に進化する時代に、あえて“人の手”に賭ける。
Ayasanの挑戦は、ブルーカラーという言葉の意味そのものを塗り替え、日本における「仕事の価値」を問い直す試みでもある。
ブルーカラー人材革命は、すでに静かに、しかし確実に始まっている。