乾燥の季節に負けない肌へ、スイカの力 ~皮膚のバリア機能を助け、乾燥対策に新たな可能性を示す研究成果~

●種子用スイカエキスにリノール酸刺激したヒト皮脂腺細胞株SZ95細胞における皮脂合成促進効果を確認した。
●活性成分として、コニフェリルアルコールを同定した。
【概要】
三重大学大学院生物資源学研究科 伊藤智広 准教授、近畿大学農学部水産学科 福田隆志 教授、株式会社萩原農場(奈良県磯城郡田原本町 代表取締役社長 萩原斗志弘)の研究グループは、種子用スイカ(Citrullus mucosospermus (Fursa))から単離したコニフェリルアルコールが、ヒト皮脂腺細胞株SZ95細胞における皮脂合成促進効果を示すことを発見しました。種子用スイカは、白い果肉色、甘くない果肉、乾燥耐性を有する、株式会社萩原農場が独自に育成した品種です。これらの研究成果から、種子用スイカを利用した化粧品原料の開発を進めたいと考えています。
本研究成果は、2025年8月2日付のオンライン版「Molecules」(30巻、https://doi.org/10.3390/molecules30163360)に掲載され、2025年8月26日から29日に開催された日本食品科学工学会第72回大会にて発表されました。
【背景】
近年、乾燥肌は季節的な現象にとどまらず、生活環境や気候変動、過度な洗浄習慣などにより全年齢層で増加しています。乾燥肌は単なる水分不足ではなく、皮膚バリア機能(注1)の低下を伴う生理的異常です。皮膚バリアは角質細胞・角質細胞間脂質・皮脂膜から成り、外的刺激を防ぎ水分蒸散を抑制します。中でもセラミドをはじめとする皮膚バリア構成成分の中で皮脂腺由来の皮脂は、皮脂膜を形成しバリア機能の維持に不可欠です。しかし、加齢やホルモン変化、ストレスなどにより皮脂分泌が減少すると、皮脂膜が脆弱化し水分蒸散や炎症が進む悪循環が生じます。このような背景から、皮脂分泌の正常化や皮脂膜再構築を通じて皮膚バリアを強化し、乾燥肌を根本的に改善する研究が注目を集めています。
【研究内容】
中国ではスイカの種子部をナッツのように食す文化があり、種子部のみを食すスイカ品種が存在し"打瓜"と呼ばれています。研究材料に用いた種子用スイカ(Citrullus mucosospermus (Fursa))は、遺伝的には栽培種に近く、株式会社萩原農場が独自に育成した、野生種にみられる形質(甘くない果肉、白い果肉色、比較的大きな種子、強い乾燥耐性)を有するスイカ品種です(図1)。本研究ではこの種子用スイカからフェニルアラニンやチロシンを基質として合成されるモノリグノールであるコニフェリン、p-クマリルアルコール、およびコニフェリルアルコールの含有を単離し(図2A)、リノール酸にて刺激したヒト皮脂腺細胞における皮脂合成促進効果をOil Red O染色法(注2)にて検証しました。その結果、コニフェリルアルコールに濃度依存的な皮脂合成促進効果を確認し、脂肪滴の量および拡大を顕微鏡観察でも確認することができました(図2B)。さらに、リピドーム解析(注3)により定量した各種脂質成分では、リノール酸を構成成分とする脂質含量が有意に増加しました。この結果からコニフェリルアルコールは、皮脂合成の原料となるリノール酸の取り込みを促進し、皮脂合成に利用していることが推察されました。

(A)1:コニフェリン、2:p-クマリルアルコール、3:コニフェリルアルコール
(B)Oil Red O染色SZ95細胞の顕微鏡観察像
【今後の展望】
種子用スイカに含まれるコニフェリルアルコールは、皮脂合成を促進し皮膚バリア機能を改善する可能性をもつ天然成分であることがわかりました。今後はその分子作用機構(皮脂腺の脂質合成経路(SREBP-1c(注4)、PPARγ(注5))の活性化)の解明や、外用剤・サプリメントとしての応用研究が期待されます。さらに、種子資源を有効活用することは、SDGs3「すべての人に健康と福祉を」の実現に寄与するだけでなく、SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、SDGs12「つくる責任つかう責任」、SDGs15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献し、持続可能なバイオ資源利用の新しいモデルとなることが期待できます。
【用語解説】
(注1)皮膚バリア機能:角質層や皮脂膜が外的刺激や病原体の侵入を防ぎ、水分の蒸発を抑えることで、体内環境を安定に保つ重要な防御機能。
(注2)Oil Red O染色:中性脂肪や脂質滴を赤く染める脂質特異的染色法であり、細胞や組織中の脂肪蓄積を可視化・定量化するために用いられる。
(注3)リピドーム解析:生体内に存在する多様な脂質分子を網羅的に検出・定量し、その組成や変動から代謝状態や疾患メカニズムを明らかにする解析手法。
(注4)SREBP-1c(Sterol Regulatory Element-Binding Protein 1c):脂肪酸やトリグリセリド合成に関与する転写因子で、インスリン刺激により活性化され、脂質代謝やエネルギー恒常性の調節に重要な役割を担う。
(注5)PPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptorγ):脂肪細胞の分化や脂質貯蔵を促進する核内受容体型転写因子で、インスリン感受性の調節にも関与し、糖脂質代謝や炎症制御に重要な役割を果たす。
【論文情報】
掲載誌 :Molecules 30(16), 3360;
DOI :https://doi.org/10.3390/molecules30163360
掲載日 :2025年8月2日
論文タイトル:Seed Watermelon(Citrullus mucosospermus(Fursa))-Derived Coniferyl Alcohol as a Functional Ingredient in Remedies for Dry Skin: Evidence of Facilitated Lipogenesis in Human Sebocytes.
著者 :Shingo Fujita, Shoki Inoue, Christos C. Zouboulis, Takashi Fukuda, Toshiharu Hashizume, Tomohiro Itoh.
【学会発表情報】
学会名 :日本食品科学工学会第72回大会
発表日 :2025年8月29日(口頭およびポスター発表)
発表タイトル:種子用スイカから単離したコニフェリルアルコールのヒト皮脂腺細胞株SZ95細胞における皮脂合成促進作用
発表者 :藤田信吾, 井上翔貴, 福田隆志, 橋詰利治, 伊藤智広
【関連リンク】
農学部 水産学科 教授 福田隆志(フクダタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2068-fukuda-takashi.html