近畿大学・京都府立桂高校・小川珈琲によるプロジェクト コーヒー抽出残渣を用いた循環型農業の確立に向け共同研究を実施

2023-07-24 14:30
近畿大学農学部の実験圃場での実習の様子。近畿大学農学部の学生(後列)と桂高等学校の生徒(前列)

近畿大学農学部の実験圃場での実習の様子。近畿大学農学部の学生(後列)と桂高等学校の生徒(前列)

近畿大学農学部(奈良県奈良市)と京都府立桂高等学校農業科(京都府京都市)は、平成28年度(2016年度)から、コーヒー抽出残渣(コーヒーかす)を活用した循環型農業の確立をめざして高大連携プロジェクトを実施しています。
令和5年(2023年)8月1日(火)・3日(木)・7日(月)・8日(火)、近畿大学農学部の実験圃場において、大学生と高校生が協力し、小川珈琲株式会社(京都府京都市、以下 小川珈琲)提供のコーヒー抽出残渣を活用した堆肥で栽培しているトウモロコシの生育調査を行います。

【本件のポイント】
●近畿大学農学部と京都府立桂高校農業科が協力し、小川珈琲から提供されたコーヒー抽出残渣を活用して育てた農作物の生育調査を実施
●コーヒー抽出残渣を用いてきのこを栽培し、その廃菌床をトウモロコシ栽培の肥料に利用
●大学生と高校生が共同研究に取り組み、それぞれのキャリア教育にも貢献

【本件の内容】
本プロジェクトは、京都府立桂高等学校農業科が立案し、近畿大学農学部の学生と協力して、コーヒー抽出残渣を活用した循環型農業の研究を行うものです。今年度で開始から7年目となり、持続可能な循環型農業や関連する学術分野の発展のみならず、学生・生徒のキャリア教育にも貢献しています。近畿大学農学部の学生は、高校生と一緒に研究することで、後進の指導方法や仕事に対する責任感を身につけることができます。また、桂高等学校の生徒は、早くから大学の研究に携わることで、大学進学を見据えた学習意欲の向上に繋がっています。
今回の実習では、大学生と高校生が協力し、小川珈琲から提供されたコーヒー抽出残渣を活用して栽培しているトウモロコシなどの農作物の生育調査と圃場整備を行います。コーヒー抽出残渣を活用した農作物の育成調査は、品種を変えながら数年にわたり続けており、現在行っているトウモロコシの栽培は今年で3年目となります。

【生育調査】
日時 :令和5年(2023年)8月1日(火)・3日(木)・7日(月)・8日(火)
    各日10:00~12:00(予定)
    ※ 天候や作物の生育状況によって、
      日程が変更もしくは中止になる場合があります。
場所 :近畿大学奈良キャンパス 実験圃場、きのこ棟
    (奈良県奈良市中町3327-204、近鉄奈良線「富雄駅」からバス約10分)
参加者:近畿大学農学部 学生6人、京都府立桂高等学校 生徒4人
内容 :トウモロコシの生育調査、圃場の整備

【近畿大学農学部と桂高校農業科による高大連携プロジェクト】
日本はコーヒーの輸入大国であり、とりわけ京都市は一人当たりのコーヒー消費量が国内で最も多いとされています。コーヒーを抽出した後の残渣は生ごみとともに廃棄物として処理され、有効活用をめざした研究も行われており、さらなる活用が求められています。一方、コーヒー生産国では土壌管理が行き届かず、今後、コーヒーの生産量は減少すると懸念されています。
本プロジェクトでは、これらの問題を解決すべく、コーヒー抽出残渣を農業資材とした循環型農業の確立を目指して研究に取り組んでいます。
先行研究では、京都のコーヒー老舗企業である小川珈琲から提供されたコーヒー抽出残渣を菌床基材(以下、コーヒー菌床)として、食用きのこの菌床栽培を実施しました。エノキタケとヒラタケのさまざまな菌株を用いて栽培試験を行ったところ、菌株間で収量の違いはあるものの、いずれのきのこもコーヒー菌床で栽培可能であることが分かりました(図1)。なお、栽培したきのこは桂高校の校内で販売するとともに、小川珈琲ではメニュー開発時に使用しました。
次に、きのこを収穫した後の廃菌床(以下、コーヒー廃菌床)を、二次発酵と乾燥の工程を経て堆肥化し、トウモロコシの栽培試験を行いました。その結果、コーヒー廃菌床で栽培したトウモロコシは、追肥を行わずとも、化成肥料で栽培したトウモロコシと同等の収量が得られました(図2)。また、コーヒー廃菌床の化学成分を分析した結果、コーヒー廃菌床は窒素とリン酸を豊富に含み、堆肥として有効であることが分かりました。
さらに、トウモロコシを栽培した後の土壌の細菌叢を解析したところ、コーヒー廃菌床を投入した土壌でのみ、クロストリジウムやシアノバクテリアなどの窒素固定菌が増加していることがわかりました。また、脱窒や病気の原因となる菌であるシュードモナスが減少していました。これらの結果から、コーヒー廃菌床は作物の生育に適した土壌環境を作り出していると考えられます。
なお、本研究は、令和3年度(2021年度)一般社団法人ヤンマー資源循環支援機構の研究助成を受けて実施しました。

図1 コーヒー菌床で栽培したエノキタケ(右)とヒラタケ(左)(左)、図2 化成肥料(白色矢印)とコーヒー廃菌床(黄色矢印)で栽培したトウモロコシ(右)

図1 コーヒー菌床で栽培したエノキタケ(右)とヒラタケ(左)(左)、図2 化成肥料(白色矢印)とコーヒー廃菌床(黄色矢印)で栽培したトウモロコシ(右)

【今後の展望】
エノキタケやヒラタケの菌糸は、コーヒー残渣に含まれるすべての有機化合物(カフェインなど)を分解できるわけではないため、コーヒー廃菌床をトウモロコシのような作物の栽培初期の農業資材とした場合、発芽や初期生育が阻害されることがわかっています。しかし、エノキタケやヒラタケのなかでも、コーヒー菌床に適した有機化合物の分解能の高い、または生育が旺盛な菌株では問題が解決できると予想されるため、今後さまざまな菌株を用いて調査を行います。
ヒラタケは世界で最も広く食べられているきのこであることから、本循環型農業システムは多くのコーヒー生産国に導入できると考えられます。そのため、本循環型農業システムの確立は、今後のコーヒー生産の安定化に寄与するものであると期待されます。

【研究体制】
近畿大学農学部農業生産科学科育種学研究室
1980年代に、世界で初めて純白系エノキタケ(品種名:中野JA)を育成。各遺伝子がどの染色体のどのあたりに存在するかを表す連鎖地図の作成や、突然変異体の解析など、きのこの研究分野では珍しい遺伝学的手法を用いた研究を実施しています。また、全国の研究機関で有数のきのこ栽培施設を有しています。

京都府立桂高等学校農業科
職業系専門学科設置校として、平成25年(2013年)4月~平成30年(2018年)3月の期間、京都府内初となるスーパーサイエンスハイスクール「SSH」に指定されました。また、令和2年(2020年)4月~令和5年(2023年)3月の期間には、「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」の事業特例校として指定されました。「未来の研究者を育成するTAFS(Training in Agriculture for Future Specialists)プログラム」を展開しています。なお、本研究課題で、これまでに以下のような賞を受賞しています。
・第70回近畿学校農業クラブ連盟大会プロジェクト発表Ⅱ類 最優秀賞 全国大会出場
・第12回毎日地球未来賞 SDGs未来賞
・第10回高校生ビジネスプラン・グランプリ ベスト100
・令和3年度気候変動アクション環境大臣表彰 ユース・アワード(奨励賞)
・令和3年度(第19回)京都環境賞 特別賞(環境担い手賞)
・第64回日本学生科学賞 京都府最優秀賞
・第2回関西SDGsユース・アイデアコンテスト 優秀賞 他

【関連リンク】
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

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