現場が語る「保育士の配置基準」問題 わたしたちが今改善するべきと考える理由
子ども一人ひとりに向き合える環境を目指して現場が取り組んでいること
保育士の配置基準問題については、70年以上変わらぬ基準に対して改善が求められてきました。今回は2023年3月2日に、国や自治体の配置基準よりも独自に手厚い人員配置を実現している2園の園長にお集まりいただき、現場の具体的工夫や今後の保育についての考えをお聞かせいただきました。
社会福祉法人精寿会 東川口鳩笛保育園 丸山 昌宏さま
社会福祉法人多摩福祉会 砧保育園 西田 健太さま
■独自の配置基準を定めるに至ったきっかけは
───本日はどうぞよろしくお願いいたします。2月にコドモンを導入いただいている施設のみなさまに保育士の配置基準問題に関するアンケート(https://newscast.jp/news/5885434)を取らせていただきました。今までアンケートは何度も実施してきているのですが、最も回答率が高く、関心の高さが伝わってまいりました。70年以上変わらぬ基準に対して改善が求められていますが、独自に手厚い人員配置をされているみなさまに、現場のご意見をお話しいただきたく本日はお集まりいただきました。まずは簡単な自己紹介からお願い致します。
砧保育園西田(以下西):はい、私は東京都の世田谷区にあります砧保育園で園長をしております、西田と申します。よろしくお願いいたします。
東川口鳩笛保育園丸山(以下丸):はい、私は埼玉県川口市にある東川口鳩笛保育園の園長をさせていただいております丸山といいます。よろしくお願いします。
───ありがとうございます。保育士の配置基準という社会課題については、今メディアでもだいぶ記事になっていて、一般の方にも知ってもらう機会がどんどん増えているところだと思っています。
今回のアンケートについてたくさんの園長先生、保育士のみなさまにご回答いただいて、貴重なご意見をたくさんいただきました。今日は改めて色々なお話をお聞かせいただければと思っています。本日お集まり頂いている2つの保育園では、独自に手厚い保育士の配置基準を定めていらっしゃっていると思うのですが、国の基準よりも手厚い配置基準にしたのは、いつからでしょうか。またその基準を変えるに至ったきっかけがあれば、そちらについてお話しください。
丸:東川口鳩笛保育園は2015年頃から手厚くしています。きっかけとしては、この保育業界って、自己犠牲の精神で先生たちが働いているので、 オンとオフの切り替えがほとんどできていないというのを知ったのがきっかけでした。実は、私自身が約10年ほど前に教育産業とか保育産業とは全く無縁の異業種から保育園の事務方として転職したんです。スタートは外部からきた人間だったので、「保育園の配置基準を国が決めているのであればできて当たり前」というのが、まず最初の考えでしたね。
その後、2013年頃に都内にある養成校の先生と話すきっかけがありまして「保育園の経営や運用をするのであれば勉強しなさい」というアドバイスを頂きました。そして3年間ぐらい夜間の養成校に通い実習もして保育士免許と幼稚園教諭免許を取得し、保育士という仕事について深く知ることができました。その中でも休憩が取れない環境や、持ち帰って家で書類を作るというのが当たり前という概念の環境をなんとかして変えたいと強く思いました。そこで、地道に採用につながるように各養成校などと関係構築をさせてもらった結果、2015年に5・6人の新卒採用がうまくいったんです。そこから直接雇用ができないというような悪循環から抜け出すことができたと思ってます。ちなみに東川口鳩笛保育園は60人規模で、そんなに大きい保育園ではないです。その中で5、6人の採用は結構私の中で大きなターニングポイントになったのかなと思います。
───ありがとうございます。全く別の業界から保育業界に飛び込まれたということで、 問題点もよりクリアに見えるのかなと今のお話を伺って思いました。西田様はいかがでしょうか。
西:はい、私のほうは明確なきっかけがあったというよりは、2009年から世田谷区の委託を受けて運営をしているという性質がありまして、委託を受けた時点から今の手厚い配置基準で変わらずやってきていて、そもそもしっかり人手を確保して運営するという法人の理念もありました。そしてこの間、2013年ごろから保育の形態を変えて3・4・5歳児の異年齢保育を開始したという経過があります。16〜7名の3・4・5歳児の1クラスを常勤職員2名でそれが3クラス、プラス幼児主任という現場にもしっかり入っていく立場の主任もいる、ということで実質今7対1ぐらいの水準でやってきています。保育所の運営費は人件費が7~8割という認識で、最低限法人運営や施設整備等に必要な分以外は、しっかり子どもと労働者にお金を還元するという理念で予算を立てていて、今の手厚い配置基準を実現しています。また、正規職員だけでなく、有期契約職員を雇用した際に申請できる各種補助金の活用もして人手を確保しています。子どもたちにとってはやっぱりもっと人手が必要だという認識はあるんですけれども、逆に現状人手を減らさざるを得ない財政問題もあり、本当に財源の枠というのが決まった中で、どういうふうに運営をしていくのかという葛藤をしながらやってきているというところが実際ですね。
■個々の保育士の保育の質があがり、人権を尊重する保育が実現できた手応え
───では、手厚い人員配置によってどんなプラスの効果があったのか、その変化をみなさまのお言葉で教えていただけると嬉しいです。
丸:そうですね、人員配置を変えるまでは休憩もしっかり取れず、特に制作物の持ち帰りは当たり前という文化だったのですが、 ワークライフバランスというものが保育園の中でも実現できつつあるのかなと思っています。ただ、突発的なお休みが入ってしまうと、休憩が難しい時もあります。今は有休消化率にすごく力を入れています。年度内に付与された有給は必ず消化してうまく使いながら、ストレスをため込まないようにということを現場の先生たちには徹底してますね。
それと同時に保育士も人間なので保育中に感情のコントロールが難しい場面があると思います。そういった場面では必ず近くにいる保育士に声をかけて「まず頭を一旦切り替えてから保育に戻りなさい」という話もさせてもらってます。2016年頃から配置基準を変えると同時に同時にICTを取り入れて、業務改善が相当でき上がりました。相乗効果で2019年頃からクラス単位でのノンコンタクトタイムを実施をしたり、キャリアップ研修を実施してほぼ全員が処遇改善手当の要件を満たすところまで持ってこれました。結果として、 個々の保育の質をあげられるような環境作りができたのかなと思ってます。
西:有給消化率すごく羨ましいですね(笑)。うちの園は休日保育の振替休日がどうしても入ってきてしまうので、なかなか有給消化が進まないところが非常に悩ましいと思いながら聞いていました。
配置基準を手厚くしたことでよかったことは、持ち帰り仕事だったり、勤務時間内に事務仕事を含め終わらせるところがだいぶできてるかなと思っています。日本の保育の考え方って、30対1で子どもたちを見られるっていうのが前提の考え方になっていると思うんですよね。30対1って不可能なんですけど、何をもって子どもを見られていると捉えるか、というところの価値観がだいぶ違うなとは感じています。
今からこうするよと指示を出して、みんなが一緒のことをばーっとやって、その状態が1人で見られているよね、それが保育の力量だよね、という価値観がまだまだ多いかなと思うんですけど、世界の保育の考え方っていうのは、「できるだけ一人ひとりの子どもたちが尊重されて、人権を守られた生活の場であるように」ということがすごく強調して言われてきている中で、 一斉的な保育ではなくて、一人ひとりのいろんな気持ちに日々寄り添えるような保育を目指していくべきだな、とすごく思っています。やはり手厚い人員配置ができることで、みんなと違うことをしたいお子さんがいた時に寄り添えたり、子どもが興味関心を抱いた時にしっかりと言葉としても拾えたり、表情から今こういう気持ちなのかなと気持ちの動きまで拾えるような保育っていうのを目指してやってきているので、追求してやれているというふうには考えています。ただそれでもフォローしきれない場面があったり、どれだけの配置があれば人権を尊重した保育が実現できるのかも考え合って、それをさらに発信していく必要があると自分自身は思っているんですね。
今の基準じゃそこまでできるはずがないというのは保育業界の共通認識になってきてるかなとは思うんですけど、世界水準の保育を目指していくというところでは、日本はまだ取り残されてる部分があると思いますので、諸外国からも色々学びながら、 本当に子どもたちが大切される社会や保育の場を実現していくために、まずは自分たちがどこまで求めるかを明確にしていくという点は非常に課題として感じています。
───ありがとうございます。配置基準を増やすことで人権を尊重した保育をとおっしゃってましたが、具体的にどういった場面でどんなことが実現できそうでしょうか。
西:はい、みんなで体育やろうよとか散歩行こうとかカリキュラム的にみんなでやる活動を計画する時に、 みんながそこに参加できるわけではないっていう状況があったりするんですよね。それやりたくない、今はこっちをやっていたいと主張されるお子さんが数名出てくるケースがある。 それに対してわがまま言ってないでやるのが正しいみたいなことが今までの保育だとありえちゃうと思うんですよ。子どものせいにして、そう思えない子が悪いみたいな価値観ですね。子どもを大人の都合に合わせて誘導してしまうようなケースが生まれがちかなと思うんですけど。ただ現実問題として保育士としてもその子が1人で別のことをやるってなっても見られないという状況は起こってしまいます。じゃあどうするかで、計画を柔軟に考えてその子もやりたいと思える保育を作ろうっていうのも1つの考え方だし、じゃあそこにもう1人単純に保育士がいれば、今はやりたくないんだよね、じゃあ最後までしっかり遊んでからやりたいと思ったら戻ろうかっていう、受け止められる幅がやっぱり全然違ってくると思います。
例えばお散歩に出かけてもっと遊んでたいのに、もうご飯の時間だから帰らなきゃいけないというときに、行き帰りは不審者対策で最低でも2名体制が必要で、さらにあともう1人いれば、まだ帰りたくない子どもたちを受け止めて、落ち着いてから帰ることもできるようになると思います。
今結構地域の目も、最近の不適切保育や虐待の報道でかなり厳しくなってきていて、わーってなってる子に対して、時間に追われてちょっと強引に引っ張りながら帰るみたいなところを不適切保育じゃないかと言われたり、本当に厳しくなりました。
───たしかにそういった報道がとても多いですね。
どこの園でも聞く話です。子どもに寄り添いたいけど寄り添い切れない、配置の貧しさが結果不適切保育に繋がってるっていうのは確実にあると思います。一人ひとりに寄り添えるだけの配置基準があれば、そういう不適切保育も少なくなってくるかなと思いますね。
■ICT化による業務改善や保育士一人ひとりの保育能力UPなどまだまだやれることがある、それでも配置基準の改善は必要
───配置基準を実際の業務に見合った適正な状態にするために、 1番の課題と感じられているところはなんでしょうか。また実際に国や自治体基準よりも手厚い配置基準を実現するために行った工夫の部分があれば教えていただければと思います。
丸:ここ西田さん難しいですよね、、、ストレートに言ってしまうと国の法律なので。
西:そうですね、やっぱり限界があるんですよね。
丸:私は2つ考えがあって、1つ目は昨年末くらいから虐待が多くマスコミに取り上げられている中でインフルエンサーの方たちがメディアを中心に配置基準の見直しについて言及をし始めてくれています。発信力が低い側からすると、非常にありがたい話だと思っています。2025年を境に園児数は減少していくことを考えると、日本政府がどこまで取り組めるのか疑問は正直ありますが、この点については発信力の強い方々を応援したりメディアによる世論の醸成などを待つだけなのかなと思います。
でも、2、30年前には今の基準でも保育できていたんですよね。じゃあ何が変わったのかなと考えると、行政監査がすごくしっかり機能し始めていて書類を適切にチェックするようになってきています。結果として、現場の仕事量は増えてきているということ。あとは、東川口鳩笛保育園では稀なのですが、核家族が増えてきた中で保育園への過度な期待が見受けられる保護者からの要求、又はクレーム対応というのが増えているという課題は多くの地域であると思います。
2つ目として、私は今の配置基準でどう適正な状態にできるかっていうのを考えて工夫していきました。配置基準が変わらないのであればICT化で業務の省力化をしたり、各業務の見直しをしてあるべき姿に近づけていくのが重要だと思っています。子どもの成長発達に大きく寄与しないものに関してはシンプルに慣習を見直して、その分生まれた時間を直接的に子どもたちに関わる部分として増やして、主体性を育む取り組みを行っていくようなイメージです。
───そこを工夫して削ったとしても、今の配置基準では厳しいでしょうか。
丸:削っても厳しいです。能力的な話で幼児クラスなどでは15人の子どもを1人で見られる保育士もいれば、難しい保育士もいます。だから、まずは保育士一人ひとりの保育の能力を上げていく取り組みが必要だと思います。そして各保育園の中での業務改善もした上で、さらに配置基準の改善も必要だ、というふうに考えています。
国の配置基準では運営は可能でも、保育士1人への仕事の負荷は相当大きく、子どもの主体性を育む保育の実現は望めません。だからこそ東川口鳩笛保育園では余裕のある人員配置にはなっています。現時点での人員配置を実現した方法は、法人として間接的にかかるコストをスリムにし、その分を人への投資に充てるように努力しています。東川口鳩笛保育園が1法人1保育園というメリットは大きいです。複数の保育園などを運営されている法人や株式会社は、人事(採用)部、法務部、など法人運営スタッフや資料作成などを担当する事務員の採用が必要かと予想されます。それが東川口鳩笛保育園では不要なので間接的にかかる人件費がありません。それに加えて、養成校等と独自の採用ルートの関係構築をしてきたことにより、人材紹介を使用する際に発生する採用費用は発生していません。あとは、外部講師に頼らずに保育士の質を上げながら自分たちでフラッシュカードや歌唱指導、リトミック、運動遊びなども実施して外部への委託費が発生しないように取り組んでいます。このように自分たちでできることをしながら、間接的なコストを可能な限りスリムにすることを目標にしています。削減した分を法人としてプールするのではなく、直接的に子どもたちに関わる保育士、質を上げるための研修費用、子どもたちの制作に必要な材料など、環境を整備する目的で使っていくことを第一に考えています。法人としても間接費用を削減した分、人への投資ができ、保育士も研修を受けることにより新たな知識を得ることができ、人も配置基準以上に増えれば余裕が生まれると考えれば、法人と保育士間でwin-winな関係ができると考えています。しかし、行政から保育園に委託費として支給される公定価格の地域区分が、近隣である東京23区は20%、さいたま市は15%あります。それに対し東川口鳩笛保育園がある川口市は6%と地域格差が激しいです。しかし、同じ東京都でも奥多摩町は6%、埼玉県の日高市では3%というところもあり、同じ都道府県内でも大きな格差があります。採用競争などにかかる費用はどの地域でもありますし、家賃以外の生活コストなど地域による差は少ないのですが、おそらく自治体による税収の差が出ているのかもしません。ですが、この格差の中で東京23区と川口市が同じように人員配置を手厚くすることは難しいです。財務的には人員配置を充実させる事は可能ですが、正直余裕はありません。
───西田様はいかがでしょうか。
西:はい、 私は率直に答えるとしたら、やっぱり財源のことなんですよね。保育士の所得自体も全産業平均で10万円程度低い中で、今の30対1という配置基準がベースにあって公定価格が決まっているので、その人数分がベースになって分配されている、人手を増やせば増やすほど、そのパイを分けなきゃいけないので、1人当たりの所得がまた減っちゃうというその悪循環というか、矛盾というか、 そういう状態がある。国としては、いやいや、これぐらいの年収になるようにお金あげてるじゃないか、と思うかもしれないのですが、いや、それは人手が足りない配置基準がベースになってるからなんですよねっていうところ自体の底上げをしていかないことには、一人ひとりの保育士の所得に関することも改善されないかなと思っています。丸山先生がおっしゃったように、保育士がいかにリフレッシュしながら、ゆとりを持って自分をいい状態に保ちながら、保育にあたれるかどうかって、それこそ本当に保育の質に直結すると思うんですよ。お子さんがわーってなった時に、ちょっと聞いてあげられるゆとりを持った状態の中で、 仕事をしていくっていうのが、子どもに直接還っていくことにもなるので、保育士自身がゆとりを持った生活を送れる環境を整えるというところでは、本当にお休みをしっかり確保するとか、ノンコタクトタイムをしっかり確保することや、財政的にも、安定した生活を送っているっていうことも、すごく大事になってくるかな、と思っています。なので、一人ひとりの保育士が大事にされるような配置基準という視点もすごく私としては意識をするところで、適正な給料がもらえるような仕組みを作っていただきたいなとすごく思っています。また、話にもでましたが、川口市でも1歳児5対1、3歳児15対1で、 世田谷区でも1歳児は独自に5対1の基準にしていたり、東京都全般でも3歳児が20対1から15対1になったのですが、お金を持っている自治体や行政区によって子どもたちの受けられる保育に格差が生まれてるっていう状況はあると思うんですよね。国が動かないことには、日本全体の保育がよくなっていかないっていうのは、現実問題あるので改善を本当に強く求めたいというふうに思っています。大人がまずゆとりを持った生活をしないと、子どもたちにも、それは還っていかないよなっていうのは、すごく保育現場を見ていて感じるところですね。
今回こういう機会をいただいたので、少しでもそういう機運が高まる1つのきっかけになればと思って話をさせていただければと手をあげたんですけれども、諸外国に習って、日本も整備していっていただけたらと思っていますね。お子さんのいろんな欲求を満たしていってあげられるような人手が必要で、必ずしも職員でなくても、思いっきり遊んでくれる、例えば不登校のお兄ちゃん、お姉ちゃんが園に遊びにきてくれたとしたら、やっぱりそれだけでもかなり満たされることにも繋がっていくんじゃないかとか、地域のおじいちゃん、おばあちゃんにきてもらって、昔遊びを教えてもらったりとか、そういうふうに地域の中に保育園を開いていく中で、気持ちに寄り添えるような保育園を作っていきたいと考えているので、そんなことも計画したいと思っています。
───ありがとうございます。不登校のお兄ちゃん、お姉ちゃんが保育園にいてくれたら、保育園の子どもたちも喜ぶし、逆に居場所になったら子どもたちからパワーをもらえると思うので、是非実現していただきたいと思って聞いておりました。やっぱり財源が1番の課題だとおっしゃってましたけれども、人を多く配置するとしたら、1人当たりのお給料が減ることを覚悟の上でやらなきゃならないという、制度の問題があるということですね。少子化で2025年に保育園利用園児数のピークを迎えるだろうということで、その後は減少していく見込み。そのー方で、未就園児いわゆる無園児の、定期受け入れのモデル事業など新しい動きも出ています。少子化で子どもが減ることで配置基準は適正化されていくのではないかという論調や、例えば保育園は共働きの家庭などの事情のある子どものためのものと考えられていたけれど、全ての子どもが通えるようにしたほうがいいのではないか、など様々な意見があり、すごく変化の時を迎えているのかなと思うんですけれど、そういった動きも踏まえた上で保育の現場から、今後の保育はどうなっていくんだろうというところについてはいかがでしょうか。
丸:無園児の問題ですよね。実は今年度に川口市の公募事業があって、そこでもやはり無園児のトピックを取り扱いました。それでいろんなことを考えたんですけど、無園児の家庭や子どもたちは社会から取り残されてしまっているケースが多いと思います。じゃあどうやれば保育園として、そういう子どもたちを救えるのか、 適切な保育を供給できるのか、と考えたときに相手側からコンタクトをしてきてくれれば動けるようになるんですけど、保育園側からどうやってコンタクトを取るんだろうって。あまり手がないんですよね。でも、子どもってほとんどが病院で生まれるはずなので、病院のソーシャルワーカーや地域の保健センターと保育園が連携しながら、 さっきの基準配置の話に戻るんですけど、基準配置上はこういう子だったら受け入れられますよとか、ここの保育園は看護師さんがいないんで、医療ケアはできないです、ってのを明確にしてあげられれば、保護者が困った時に保育園にコンタクトを取ってくれるかなとはちょっと思っているんです。行政が保育園と病院、保健師さん、ソーシャルワーカーさんとうまく連携しながら地域ぐるみで一体となって、子どもたちを育てていけるような環境になれるといいのかなと思ってます。医療ケアが必要な場合は特にハードルが高いんですけど、そこは行政がしっかりとコントロールをしながらやっていくのがポイントになってくるのかなと思います。また、例えば海外の子どもたちを受け入れる際に、文化の違いや言葉の壁が出てくると思いますが、まずは行政が配置基準に余裕がある保育園に協力を求めて、1つモデルケースを作るのもいいのかなと思います。保育園側ができることやできないこと、行政支援が必要なこと、病院との連携が必要なこと、というのを明確にしながら進めれば、多分5年から10年ぐらいで実現は可能になるのかなと思います。あとインクルーシブ保育ですよね。いかにその子どもたちの現状や特性とちゃんと向き合いながら子どもの心を育てる。そして、最終的にその子どもたちが自分らしく幸せになることを追求するということが、今後の課題になってくるのかなと思いますね。で、やっぱり主体性を追求すると、今の配置基準ではたぶん実現は非常に難しい状況なので、やはり配置基準の改善っていうのは急務になるのかなと思ってます。
西:無園児のケースについて、本当に丸山さんのおっしゃるように、その園でいくら間口を開いてても、おそらく自分たちでコンタクトを取ってきてそこを利用するっていうのはかなり難しいと思います。そういう行動力がある方たちだったら、ある意味もう保育園に入っている状況かなと思います。なのでそこは行政がしっかりと繋ぐべきで、子ども家庭支援センターなどはハイリスク家庭との繋がりを持っていたりするので、紹介をするとかコーディネート的な役割を行政がしっかりと担ってほしいですね。私たちとしても、園にきている子たちだけが救われればいいっていうふうには全く思っていないですし、地域貢献としてしっかり力を出して、そういったご家庭を支えていきたいと思っています。
そういう側面と、また配置基準の話にちょっと戻っちゃうんですけど、少子化が進んでいく中で今の財源を確保しておけば、子どもたちがどんどん減っていく中で、お金は同じだけ保育園に確保されるという仕組みが整った時に、 自然と配置基準が改善されるだけの財源が確保されていくはずなんですよね。コロナ禍でお子さんの登園数がすごく減って、保育士たちもこの人数だったらこんなに寄り添える、保育できるんだってのをすごく実感したと思うんですよ。これぐらいの水準でやれたら保育の質も全然違うという手応えを感じたと思うんですね。普段大変でできないと言っていたことが、子どもの人数が減ればできるんだっていうのが現場の声としてもあったので、 財源をしっかり確保するという行政の覚悟があれば、子どもたちが自然に減ってくところでどんどん改善されていくはずなんですよね。今の財源をキープするだけでいい、そういう視点も踏まえて、考えていただけたらなって思いますね。
■子どもが育つことに厳しい社会の悪循環を断ち切って、よりよい未来を目指す
───ありがとうございます。最後に丸山さんに1点お伺いしたいのですが、先程15人の子どもを1人で見られる先生と難しい先生がいるっていう印象的なお話があったと思うんですけど、その能力の差って、どうやって生まれてくるのかなっていうのをすごく聞きたいなと思いまして。日々の仕事に追われて自分のキャリアアップもなかなか難しい状況にあるのかなとも思うのですが、そういった中で、その差が生まれるのは、どういったことなのかお伺いしたいです。
丸:これは深い話になりそうですね。養成校や近隣の大学、短大の先生とも話してるんですけど、そもそもこれから保育士を目指す学生の質が変わって、さらにいうと保護者の質も変わってきています。
3、40年前は特に理由もなく近所の人に夕飯を食べさせてもらったりとか、友達の家に気軽に泊まったりとかが私の子どもの頃は普通だったんですね。地域全体で育てているようなイメージでした。それが今は核家族が多くなり、地域との繋がりが少ない方も多くなってきています。SNSの情報はあっても実際に人としての助けがない中で育児をしているとストレスを感じる時もあります。そうすると保護者の質っていうのが変わってきて、保育園に対しての過剰ともいえる期待や要求につながっていると思います。
あとは今の保育士が受けてきた教育の質の違いもあると思いますが、保育士がマルチタスクで動けるかっていうのが重要だなと思っています。頭の中でちゃんと順序立てて、とんとんとんっといけるかどうか。先ほど西田先生のお話でも出たお散歩に行ったときに帰りたくないっていう子がいる。それに対してその先生の頭の中で同時に複数のことを処理できるか、先を見通してシミュレーションができるのかっていうのが重要になってきています。今の保育業界は膨大な仕事量と保護者対応に追われているので、処理能力によっては圧倒的な能力の差が生まれると思います。ただ、処理能力が高くても内容が伴っていなければおかしな結果につながりますし、処理が速いから保育力が高いとは言えませんが、処理能力や先を見通す力は一つの大事なファクターだと思っています。それを経験し学べるのが教育実習や保育実習だと思うので、学生は失敗を恐れずに実習で様々な経験をして欲しいと思っています。
西:保護者や学生の質が変わってきてるという話、社会や教育が自分で考える力が育つ環境を作ってきていないっていうことだと思うんですよ。すごく危機感を覚えていて。自分たちさえもそういう環境の中で育ってきてしまったと思う部分もありますし、やっぱり大人がそういう子どもたちを作り出してしまっているんじゃないかなっていう気がするんですよね。
今、学校の先生たちの労働環境の悪さも、保育士と同じように取り上げられるようになりましたよね。
本当になり手がない状態の中で、教員の質の担保も難しい、その中で学校という構造の中にはまらない子たちが、どんどん不登校になっていくっていうのが今すごく加速度的に早まってるのかなと思っています。教育をどう考えていくかっていうのは、すごく大きなテーマで、保育とその後の教育をつなぐ「架け橋プログラム」が正式に制度として進められていますが、じゃあ本当にその学校が子どもたちにとって、生き甲斐があって、輝ける場所で、安心して大人を信頼しながら、自分の力を伸ばしていける場所になってないことには、そこにうまく架け橋を作ったところで、 結局その先ってどうなってくんだろうっていう不安は正直すごく感じています。カリキュラムの統一みたいなことだけがすごく強調されているんですが、現実の子どもたちの姿を全然反映してない中身なんじゃないかなというふうに感じるんですよね。
本当に子どもが育つことに厳しい社会っていうのができあがってしまっていて、なかなか力をつけられないまま社会に出ていく、そして、保護者になるっていう悪循環が生まれているのではないか、そうならないようにどうすればよいのか、すごく大きな話ですけどね。危機感を抱きながら、少しずつでもよくしていきたいと思っています。
3月2日に公開した保育士の配置基準問題に関するアンケート結果はこちら
【調査レポート】保育士の配置基準問題 80%が「配置基準の改善は不適切保育の減少に寄与」と回答
https://newscast.jp/news/5885434
【株式会社コドモン 会社概要】
◆所在地:東京都港区三田3丁目13−16 三田43MTビル 3F
◆資本金:68,250,000円
◆代表者:代表取締役 小池義則
◆WEB:https://www.codmon.co.jp/
◆事業内容:子どもを取り巻く環境をより良くするための事業を手掛け、働く人にとっても働きやすい組織づくりを体現。子育てに優しい社会に変わるよう多角的に環境整備を行い、社会に貢献する。
◎こども施設職員の労働環境を整え、保育・教育の質向上を支える子育てインフラとしての保育ICTシステム「コドモン」の開発・提供。2023年2月末時点で、全国約14,000施設、職員約27万人が利用。全国約348の自治体で導入および実証実験の導入が決定。導入施設数・自治体導入施設数・契約自治体数でシェア1位(※)
◎保育士採用を支援するウェブサービス「ホイシル(https://www.hoicil.com/)」の提供。こども施設が簡単に施設の魅力を発信でき、保育学生や再就職希望者が採用情報にアクセスしやすいような情報提供を行う。
その他、保育園向け写真ネット販売「コドモンプリント(https://www.codmon.com/print/)」こども施設を対象とした専門のECサイト「コドモンストア(https://store.codmon.com/)」、現場で働く保育者の資質や専門性向上を目的としたオンライン研修サービス「コドモンカレッジ(https://college.codmon.com/)」、こども施設職員への福利厚生サービス「せんせいプライム」などを展開。※(2023年1月株式会社東京商工リサーチ調べ)
<<お問い合わせ・ご質問等>>
株式会社コドモン 広報
press@codmon.co.jp
080-7303-6026/080-4466-6738
TEL: 03-6459-4318 FAX: 050-3737-7471