試薬等に用いられるホタルルシフェリンの画期的な合成方法を開発 今後より安価で迅速な製造工程の確立に期待

ホタルルシフェリンの反応により発光するホタル
ホタルルシフェリンの反応により発光するホタル

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)理学科化学コース准教授 松本浩一と、近畿大学大学院総合理工学研究科 博士前期課程修了 村井絵美、同博士前期課程修了 藤木裕太、理工学部理学科化学コース4年 大久保奏空、および日本理化学工業株式会社(大阪府東大阪市)取締役(研究・技術部門担当)児玉英彦、同研究員 鈴間喜教、同研究員 赤井勇斗、同研究員 松本真らの研究グループは、ホタルが発光する際の中心的な化合物で、化学や医療など幅広い分野で活用されている「ホタルルシフェリン」を、わずか2工程で合成する新手法の開発に成功しました。
従来の方法では、高価な原料を用いて複数の工程を経て合成する必要がありましたが、本研究成果を用いて新しい合成方法を今後実用化できれば、より安価で迅速にさまざまな用途への応用が可能となります。
本研究成果について、令和6年(2024年)3月18日(月)から21日(木)に日本大学理工学部 船橋キャンパスで開催される「日本化学会 第104回春季年会」において、口頭発表を行います。

【本件のポイント】
●幅広い分野で活用されている発光物質「ホタルルシフェリン」を、安価な原料から少ない工程で合成することに成功
●より安価で迅速なホタルルシフェリンの製造工程の確立が今後期待できる、画期的な研究成果であり、国内の特許として権利化済み
●本研究成果を、「日本化学会 第104回春季年会」において口頭発表

【本件の背景】
ホタルの発光の元となる物質は、「ホタルルシフェリン(D-ルシフェリン)」と呼ばれる有機化合物で、生物発光物質です(図1)。ホタルルシフェリンは、化学発光と比較して効率が良く、大腸菌の衛生検査試薬やウイルスの検出試薬をはじめ、がん細胞などの生体内イメージングなど、幅広い分野で活用されています。
ホタルや甲虫は、この物質を体内で合成できますが、人工的に合成するには高価な原料や反応剤を用いて複数の工程を経る必要があり、試薬としては50mgで約7万円と高価であることが知られています。ホタルルシフェリンは、今後さらに活用が期待されるため、より安価な製造方法の確立が望まれていますが、先行研究において合成経路の改善はされているものの、高価な原料を使用する手法以外に大規模生産の方法はありません。

図1 ホタルルシフェリンの分子構造
図1 ホタルルシフェリンの分子構造

【本件の内容】
研究グループは、既存の合成方法で使用されている高価な「2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾール※1」ではなく、安価で入手が容易な「テトラクロロエチレン※2」を原料として選択し、アミノベンゼンチオール誘導体※3 とD-システイン※4 を順次反応させるだけで、ホタルルシフェリンを合成することに成功しました(図2)。
得られた化合物についてTLCプレート※5 を用いて分離し、HPLC※6 装置を用いて分析を行った結果、現段階では微量ですがホタルルシフェリンが合成できていることが確認できました。本研究によって、これまで多くの工程が必要だったホタルルシフェリンの合成が、わずか2工程で可能となり、画期的な成果と言えます。今後合成の効率および生成物の純度を高めることで、より安価で迅速なホタルルシフェリンの工業的な製造の確立が期待できます。
なお、本研究成果は、令和4年(2022年)12月14日に「D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体、並びにこれら化合物の前駆体、並びにこれらの製造方法」(出願番号:特許7194404、発明者:松本浩一他)として特許登録を行っています。

図2 今回開発したテトラクロロエチレンを原料とするホタルルシフェリンの合成方法
図2 今回開発したテトラクロロエチレンを原料とするホタルルシフェリンの合成方法

【学会発表】
学会名:日本化学会 第104回春季年会
日時 :令和6年(2024年)3月18日(月)~21日(木)
    ※ 本件の発表は3月20日(水・祝)9:10~9:20
場所 :日本大学理工学部 船橋キャンパス
    (千葉県船橋市習志野台7-24-1、
     東葉高速鉄道「船橋日大前駅」より徒歩約1分)
演題 :テトラクロロエチレンから2工程での
    ホタルルシフェリン合成の可能性の検討
発表者:近畿大学理工学部 理学科化学コース 准教授 松本浩一

【研究者のコメント】
松本浩一(まつもとこういち)
所属  :近畿大学理工学部 理学科 化学コース
職位  :准教授
学位  :博士(工学)
コメント:今回の研究は、研究室の学生が偶然別の反応を見つけたことをきっかけに、アイデア、着想に結びつきました。大学が得意とする基礎研究をベースにしながら民間企業との共同研究をうまく取り入れ、学生が何度もチャレンジを繰り返しながら4年の歳月を経て育て上げた成果です。現時点では、ごく微量の合成なので、サンプル提供などは難しいですが、基礎研究としては画期的な成果です。
そして、研究者のみならず、大学の管理部門、事務部門のサポートも成功の鍵であり、まさに「オール近大」の研究成果と考えています。今後も、理系が強い近畿大学と評価されるよう、基礎研究を大事にしつつ理学と工学、あるいは産学連携をベストミックスさせた、化学産業に直結するような基礎研究の成果を創出していきたいと考えています。

【用語解説】
※1 2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾール:一般的なホタルルシフェリンの合成で使用されている化合物の一つ(化学物質の識別番号:939-69-5)。500mgで2万円程度の高価な試薬で、ホタルルシフェリンの値段が高価になっている原因の一つになっている。
※2 テトラクロロエチレン:ドライクリーニングや金属洗浄の際に使用される有機溶剤の一種。油分を良く溶かす性質があり、揮発性が高い化合物である。テトラクロロエチレンに着目した分子変換はこれまでにもいくつか報告例がある。
※3 アミノベンゼンチオール誘導体:ベンゼン環にNH2基とSH基、およびその他の置換基を有する分子の名称。
※4 D-システイン:光学異性体であるL-システインは天然に存在するアミノ酸の一つ。髪の毛の中に多く含まれていることが知られている。
※5 TLCプレート:ガラスの板の上に微粒子のシリカゲルを塗布したもの。TLCプレートに反応後のサンプルを乗せ、有機溶媒で展開すると、化合物の種類により、吸着のされやすさ、移動速度の違いから分離できる。ペーパークロマトグラフィーも関連した技術。
※6 HPLC:高速液体クロマトグラフ法と言われる分析手法。微量のサンプルを溶媒に溶解させ、カラムといわれる分離部に導入することで、成分ごとに比率とともに分析する手法。製薬や化学系分野では汎用されている分析手法。

【関連リンク】
理工学部 理学科 准教授 松本浩一(マツモトコウイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/382-matsumoto-kouichi.html

理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/


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