近畿大学とNTTデータ、マネロン防止・経済安全保障対策への貿易デジタルデータ活用について共同研究をスタート ~産官学連携の取り組み推進により、新たな業界共通プラットフォームの構築を目指す~
学校法人近畿大学(大阪府東大阪市/以下、「近畿大学」)と株式会社NTTデータ(東京都江東区/以下、「NTTデータ」)は、マネー・ローンダリング注1 防止や経済安全保障対策(以下「マネロン等対策」)における貿易デジタルデータの活用に関する共同研究を、2024年11月より開始します。
本共同研究では、近畿大学経営学部商学科教授 花木正孝が専門的な知見を生かし、マネロン等対策に関わる国内外コンプライアンスに関する実務上の課題や、貿易金融業務におけるデジタル化による改善ニーズを特定します。NTTデータは、これまで手がけてきた貿易情報連携プラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」注2 など貿易プラットフォーム構築の知見を生かし、金融機関や輸出入企業、財務省・金融庁等の関連政府機関におけるマネロン等対策への貿易デジタルデータの活用について評価を行います。また、これまで金融機関のマネー・ローンダリング対策ソリューションを提供してきたNTTデータ ルウィーブ株式会社注3 とも連携し、貿易取引を悪用した不正な資金移動(Trade-Based Money Laundering、以下「TBML」)対策業務に必要なシステム機能を検討します。
評価の過程では、輸出入企業、金融機関、政府機関等のステークホルダーと共同研究の成果を共有し、産官学連携によるマネロン等対策を推進します。将来的には、貿易デジタルデータを活用した新たな業界共通プラットフォームの構築など、安心・安全な社会の実現に向けた活動を進めていきます。
【共同研究の背景】
犯罪組織やテロ組織がその活動資金を獲得する手口は日々巧妙化・高度化しています。特にグローバル化が進む中で、TBMLについては、国際的にもその動向が注視されています。
TBML対策は一般的なマネロン等対策と比べて非常に難易度が高く、送金元や送金先の確認だけでなく、貿易取引における航路や寄港地、商品価格の妥当性確認など、多くの観点でリスクを確認する必要があります。また、契約から支払い・発送までの複雑なプロセスや偽装された貿易取引を特定するのは困難であり、さらなる実務上の課題となっています。
また、経済安全保障の領域でも、経済安全保障法の成立・施行に伴い、技術流出の防止や国民生活維持の観点から、重要物資の特定輸出先のスクリーニング(選別)強化など規制が強化される方向にあり、金融機関や政府機関における適正な貿易取引の確認の重要性は増しています。
一方で、貿易取引は書類ベースでのやりとりが中心であり、このため確認作業にかかる労力やその内容の実効性に関する課題も存在しています。書類ベースの貿易データは多くの異なる機関やシステムに散在しており、データの一元管理が難しいため、関連情報を効果的に集約・分析することも困難です。
これらの業務上の負担から、地方の中小金融機関などでは貿易金融業務から撤退する動きも出ており、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ(日本貿易振興機構)などが「新規輸出1万者支援プログラム」として取り組んでいる地方中小企業の輸出促進など、地域産業創生の観点からも大きな問題となっています。
【取り組み内容】
そこで、本共同研究では、TradeWaltzなどの貿易プラットフォームが保有するデジタルデータをマネロン等対策に活用し、貿易書類に記載されている項目が正確にデータ化されることで、金融機関等における確認作業の軽減や、マネロン等対策の実効性向上につながるかを評価・検証します。
また、これらの貿易データを一元管理し、政府機関を含めた関連情報を効果的に集約・分析するための業界共通プラットフォームの有効性についても、「TBMLデジタルデータ活用プラットフォーム」構想案の作成やステークホルダーへのヒアリングを通じて検証・確認します。
本共同研究における近畿大学とNTTデータの役割は以下の通りです。
近畿大学
TBMLに関わる金融機関、輸出入企業、政府機関の実務上の課題の洗い出し
貿易デジタルデータ活用によるマネロン等対策への改善効果の評価
貿易デジタルデータ活用に向けた業務面・法制面での課題の抽出
NTTデータ
貿易プラットフォームで保有するデジタルデータの活用方法に関する検証・評価
業界横断で利用する「TBMLデジタルデータ活用プラットフォーム」構築に向けたシステム構想の検討
近畿大学とNTTデータは、本共同研究の成果を2024年度中に取りまとめ、金融機関、輸出入企業、政府機関に対してその内容を広く共有することで、日本全体として今後のマネロン等対策に必要な対応についての議論を推進していきます。
【今後について】
貿易以外のマネロン等対策に関しても、暗号資産を使った不正送金、法人口座の悪用やロマンス詐欺対策など、新たな金融犯罪への対策が常に求められており、金融機関や政府機関は対策の最新化や継続的な改善が求められています。犯罪組織やテロリスト等による日本の金融システムの悪用を防ぐためには、個別企業や政府機関それぞれの対応にとどまらず、官民の迅速な情報共有や最新のデジタル技術の導入、グローバルな協力体制の確立など、官民一体となった対策が必要です。
近畿大学とNTTデータは、本共同研究をTBMLの領域から開始し、その成果を踏まえ貿易以外のマネー・ローンダリング防止においてもデジタルデータを活用した新たな対策の確立に取り組みを展開していくことを目指します。
今後も近畿大学とNTTデータは、貿易金融分野においてデジタルデータを活用した業界全体のDX化を推進し、日本の金融システムのさらなる高度化を通じて、安心・安全な国民生活の実現に貢献していきます。
(注1)マネー・ローンダリング:犯罪によって得られた資金を、その出所や真の所有者が分からないように合法的な資金に見せかけるための行為を指す。マネー・ローンダリングはテロ資金供与や組織犯罪の資金調達の手段として利用されることが多く、各国政府や金融機関はこれを防止するための対策を講じている。
(注2)TradeWaltz:貿易業務のデジタル化を推進するプラットフォームであり、輸出入に関わる情報共有や書類の電子保管を可能にし、貿易手続きの効率化と透明性の向上を図る目的で2020年に提供を開始。https://www.tradewaltz.com/
(注3)NTTデータ ルウィーブ株式会社:2000年頃からマネロン・テロ資金供与対策のシステム開発や金融機関へのシステム導入に携わり、国際的なマネー・ローンダリング防止のプロ集団を国内でいち早く養成し、米国CAMS(Association of Certified Anti-Money Laundering Specialists®)が認定するマネー・ローンダリング対策に関わる専門家の国際資格)の認定を受けた専門家を擁している。また、システムの提供のみならず、業務面を含めた運用管理プロセスの改革、国際水準が求めるリスクベースアプローチに基づく効果的なAML対応など、当局や金融機関、情報提供会社等と協力しながら日本のマネロン・テロ資金供与対策に貢献している。https://www.nttdata-luweave.com/
*商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です
【関連リンク】
経営学部 商学科 教授 花木正孝(ハナキマサタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1361-hanaki-masataka.html