地方創生☆政策アイデアコンテスト2021 大学生以上一般の部 地方創生担当大臣賞受賞  株式会社ビジネスクロス&株式会社M.アヴァンス「国産杏仁オイルが日本一のあんずの里を守る」

地方創生☆政策アイデアコンテストは、地域経済分析システム(RESAS:リーサス)やV-RESASを活用した課題分析に基づくさまざまな政策アイデアを募集しています。

2021年度の大学生以上一般の部において地方創生担当大臣賞を受賞したのは、中小企業診断士の集団である株式会社ビジネスクロスと、杏仁(あんずの種の核)の専門メーカー・株式会社M.アヴァンスの合同チームです。
長野県千曲市の特産品であるあんずから種を活用し、国産杏仁オイルを生産して地方創生に取り組もうとするプロジェクトメンバーのみなさんに、当コンテストへの応募のきっかけや受賞後の活動についてお話を伺いました。

地方創生☆政策アイデアコンテスト2021へ応募したきっかけ

今回の取材では、株式会社ビジネスクロスから代表の宮崎博孝さん、中小企業診断士の木内清人さん、そして株式会社M.アヴァンスからは代表の岸江美寿保さん、プロジェクト責任者である國平貴弘さんの4名にお話を伺っています。プロジェクトチームが発足し、コンテスト応募に至るまでにはさまざまな道のりがありました。

両社がチームアップするまでの軌跡

――まず、ビジネスクロス様と株式会社M.アヴァンス様がタッグを組むことになったきっかけを教えてください。

宮崎(株式会社ビジネスクロス 代表・中小企業診断士)「岸江社長とは金融機関からの紹介で知り合いました。我々ビジネスクロスは中小企業診断士のグループで、岸江社長の積極的な経営姿勢を応援したいと以前から思っていました。」

岸江(株式会社M.アヴァンス 代表)「我々は20年近く、中国産の原料を使って杏仁の製品を自社開発してきました。その中で、国産の杏仁をぜひとも実現したいという思いがありました。」

國平(株式会社M.アヴァンス プロジェクト責任者)「杏仁にはシアン化合物という天然の毒物が含まれるのですが、それを除去する技術を探していたときにある論文を見つけました。その論文を書かれた方のいる長野県工業技術総合センターへお話を聞きにいき、最初は『食用の杏仁を国産のあんずから取れないか』というところからスタートしたんです。」

岸江「地元のみなさんからお話を伺うなかで、杏仁は日本では販売もできずすべて破棄されているという衝撃的な話を聞かされました。何とかならないか宮崎さんと木内さんにご相談し、最終的に国産杏仁オイルというプロジェクトになりました。」

2020年度 発表時の様子

それぞれの企業の強みをマッチングさせてコンテストに臨んだ

――どのような役割分担で当コンテストに臨まれたのでしょうか?

國平「弊社はもともと中国産杏仁を使ったオイルを販売しており、食用の杏仁についても技術的な専門性を持っています。アイデアの根本の部分を弊社から提案し、調査やプレゼンを含めた資料作成などはビジネスクロスさんにお任せするという形でした。今後は国産杏仁と中国産杏仁の成分の違いを分析したり、どのように絞ればより良い製品になるかを追求したり、そういった実現に向けての技術的なところは長野県工業技術総合センターの方々とも相談しながら弊社でやっていきたいです。」

――木内さんは当コンテストに毎年ご参加いただいており、昨年度も一昨年度も最終審査会まで残られていますね。

木内(株式会社ビジネスクロス 中小企業診断士)「今回で7回目の応募です。第1回のときは長野県の諏訪湖周辺を周遊する観光バスについてのアイデアを出し、優秀賞をいただきました。」

木内「中小企業診断士として、地元や関わりのある地域を応援したいと思っています。我々は東京の企業ですが、外部ならではの視点で地域を活性化するアイデアを出せればという思いで毎年応募してきました。今回はアイデアと実現性の両方が評価され、受賞に至ったのかなと思っています。」

東京にいながら地方の課題解決をすることの苦労と喜び

長野県千曲市の地方創生に関するアイデアで受賞した両社ですが、実はいずれも東京の会社であり、千曲市に縁のあるメンバーはいませんでした。東京の企業が地方の課題解決に取り組むことには、さまざまな苦労とそれを超える大きな喜びがありました。

東京・長野の距離に加え、コロナ禍ならではの苦労があった

――長野県千曲市、そしてあんずの種からとれる杏仁をテーマにした経緯を教えてください。

木内「あんずは千曲市の特産であり、市花・市木でもあります。岸江さんの事業ではあんずを使われており、千曲市を応援したい、あんずの里の危機をなんとかしたいという思いがあったので、みんなで助けようとなりました。」

岸江「まずは地元へ伺い、長野県工業技術総合センターさんやあんずの生産加工を行う森食品工業さんなどを訪問しました。千曲市の状況を知るなかであんずの種が捨てられてしまっている現実を目の当たりにし、何とかできないかというのが第一の課題でした。」

――その課題を解決するために両社それぞれで異なる関わり方をしてきたかと思いますが、どのような苦労がありましたか?

木内
「地元のことをよく知らないなかで、いかに情報収集をするかは苦労しました。」

國平
「コロナ禍ならではの苦労もありましたね。我々は東京の企業なので移動も大変ですし、地元の方と密にコミュニケーションを取ることについても懸念はありました。」

岸江「あとは一般的に、地方の方たちは昔からの慣習を大切にする一方で、新しく何かを始めるチャンスもあまりなかったのかなと肌で感じました。中国やヨーロッパでは杏仁の美容オイルや食用オイルを製品化していますが、なぜ日本では杏仁オイルを絞れないのか疑問でした。あんなにすばらしいあんずの里があるのに、なぜ杏仁が使えないのかというのが一番の原点だったんです。」

食用から美容オイルとしての活用にアイデアを方向転換

――そもそも、日本国内で杏仁を食用として使えないのはなぜなのでしょうか?

岸江「地元の方に教えていただいたのですが、大昔、千曲のあたりに四国からお姫様が嫁いでこられたときに持参金としてあんずの種を持ってきたそうです。城下にあんずを植え、その種である杏仁を越中富山の薬売りの方に『漢方薬』として売却していたんですね。そういう歴史があり、杏仁はすべて漢方薬だという認識なんです。ところが、いろんな成分の問題があるので、漢方薬は食品には使えない。あんずの種はすべて漢方薬に用いる杏仁(キョウニン)と認識されており、長野県の保健所にも相談しましたが、『食品として使うことはできない』と言われました。」

――そのような状況から、最終的には食用ではなく美容オイルとして活用し、さらには観光資源としても役立てようというアイデアに着地しています。どのようにしてアイデアを転換したのでしょうか?

國平「まずは、法律面やルール面の調査をしました。地元では何十年も前から『あんずの種は捨てるものだ』という固定概念がありましたが、もう一回調べ直してみようとなったんです。」

岸江「長野県工業技術総合センターの方がシアン化合物の除去技術について論文 を発表されたときも、最初は食用として使うために申請を出したそうです。でも却下されてしまい、『もうだめなんだ』という諦めムードがありました。ところが、杏仁オイルというのは実は雑貨扱いであり食品ではないんですね。雑貨扱いであれば活用ができるということで、こういったアイデアになりました。」

木内「化粧品として美容に使うオイルであれば、雑貨扱いなので国産の杏仁を使えます。本来は食用にも使える品種なので、今後は食用のオイルとしても活用していきたいですね。杏仁の専門メーカーであるM.アヴァンスさんには、杏仁豆腐などの原料も今後は国産に切り替えていきたいという思いがあります。」

――今回のプロジェクトが、その第一歩になるということですね。

國平「最終的な目標は食用でも使えるようにすることです。廃棄されていた種を活用することで農家さんも資金的に潤い、農家の減少やあんずの木の減少も抑え、あんずの里を守っていくという一連の地域振興につながります。地方創生の道筋が見えてくるのではないかということで、方向転換しました。」

宮崎氏「SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、これまで産業廃棄物として処理費用をかけて捨てていたあんずの種を有価物にできるという提案ができ、結果的に良かったなと思っています。」

地方創生担当大臣賞を受賞し、実現に向けて動き出す

未利用資源であった千曲市のあんずの種を活用し、杏仁オイルを観光資源としても役立てるというアイデアは、大学生以上一般の部においてみごと地方創生担当大臣賞を受賞しました。

受賞後の地元の反応は

――最初にこのアイデアについて地元の方とお話されたときはどんな反応だったのでしょうか?

國平「最初に地元の方にお話を伺いに行ったとき、あんずの木がたくさん植えられている場所を案内していただいたんです。そこで人口減少や農業事業者の高齢化によってあんずの木が減っていると伺い、『それはもったいないですよね、どうにかしたいですよね』というコンセプトの共有ができました。コロナ禍で苦労もしたんですが、地元の方たちにも最初から温かく迎えていただきましたし、ご協力が本当にありがたかったです。」

――実際に受賞されて地元の方々も喜ばれたでしょうね。

岸江「すごく喜んでくれました。テーマのプレゼン資料や受賞の写真などを送りましたし、市長さんや県知事さんにも受賞の報告をしました。みなさん非常に喜んでくれて、今後にも期待を持っていただいています。今回のアイデアでは、ただ杏仁を絞って使うだけではなく地元の観光にも有効に使えるという提案をしています。3月末から始まるあんず祭りが、地元へのアピールのスタートかなと思っています。」

アイデアの実現に向けてのスケジュールと課題

――今後は、アイデアの実現に向けてどのようなスケジュールを考えておられるのでしょうか。

岸江「長野県工業技術総合センターさんを通して長野県ともつながりができましたし、森食品工業さんからも『杏仁の種を提供します』と言っていただきました。具体的にはあんずの種ができるのが6月で、絞り始めるのが10月、試作第一号は年内にできあがると期待しています。」

――実現に向けて課題などはありますか?

岸江「我々は地元にまだ完全には根付いていないので、東京から出向くことの温度差をクリアしていかなくてはいけないですね。地元に出張所や会社を作るなど、具体的に考えていこうと思っています。」

木内「岸江さんがおっしゃったとおり、現地とのコミュニケーションを具体的にどうするかが一番の課題です。あと、種の供給は決まっていますが、その後どこでどうやって絞るか。それは課題というよりどう事業化していくかのステップだと思っています。」

受賞者からのメッセージ

――最後に、地方創生☆政策アイデアコンテスト2022への応募を検討されている方に向けてメッセージをいただけますか?

木内「このコンテストは応援したい地域についてしっかりと考え、地元の強みや今までの経緯、現状を理解する非常に良い機会だと思います。何年かやり続けることによって結果が出る、あるいは評価してもらえると思います。」

宮崎「コンテストの前提条件には『RESASを使う』とありますが、実際にRESASで調べると各地で人口減少が大きな課題になっていることがわかります。ほかの応募者の発表でも人口減少に対して観光を解決策にあげるところが多く、一定のパターンになっていると感じました。あとは、特に高校生・中学生以下の部に顕著ですが、マネタイズの部分が思い浮かばず苦労されているようでした。このコンテストはそういった実現性が評価対象になっているので、そのあたりを応援してあげる仕組みがあった方がいいかなと思います。」

岸江「コンテストを通して、地方創生のあり方を考えさせられました。単なる机上論ではなく、実際にこれから地方自治体とどう取り組んでいくかが、期待されているところなのではないかと思います。」

――ありがとうございました。

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