ENEOSが国内初製造のカーボンニュートラル化に貢献する合成燃料で実装走行を実施
2023年5月28日(日)、ENEOS株式会社は、富士スピードウェイ内のトヨタ交通安全センターモビリタにおいて、国内初製造となる合成燃料を、実際の車両に充填した走行デモンストレーション式典を実施しました。
ENEOSは、脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー由来の水素(以下、CO2フリー水素)と、工場等から回収したCO2や、将来的には大気中から回収されたCO2より製造される液体燃料の開発に取り組んでいます。走行デモンストレーションに使用した合成燃料について、ENEOS常務執行役員 藤山優一郎は、「原料となるのはCO2です。このCO2を、CO2フリー水素と触媒反応させて製造します。走行時に出るCO2を、製造段階で相殺できるため、製品ライフサイクル全体においてカーボンニュートラル化に貢献できます」と解説しました。
会場では実物の合成燃料を展示。合成燃料は硫黄化合物、窒素化合物、重金属等を有さない環境にやさしい燃料であり、水のように透き通っています。合成燃料について藤山は、「ピュアなCO2と水素から作っている、非常にピュアな油となります」と説明。その一方で、「従来のガソリンと合成燃料はCO2の出どころが違うだけで、化学物質としては同じ構造であり、同じように自動車を走らせることができます」と強調しました。さらに、合成燃料は、エネルギー密度にも優れていること、既存インフラ設備を活用できること、液体燃料であるため貯蔵・輸送も容易など、さまざまな利点を有しています。
合成燃料はもはや夢ではない
式典では、まず、ENEOS代表取締役社長 社長執行役員の齊藤猛が登壇し、挨拶を行いました。「去る5月11日、私共ENEOSグループは、エネルギー・素材の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現との両立に向けて挑戦することを長期ビジョンとして宣言いたしました。人類の歴史の中でも大きなチャレンジとなるこの課題を、私たちENEOSは、“今日の当たり前”を支え、“明日の当たり前”をリードするという決意のもと、着実に成し遂げていきます。脱炭素・循環型社会という“明日の当たり前”の実現は単一のエネルギーのみでは成し遂げられません。エネルギーの用途や利用する場所に応じまして、それぞれの最適化を追求していく必要があります。私たちはさまざまな選択肢を社会にご提供するべく準備しています。ENEOSで現在、合成燃料の製造のスケールアップを検討しており、本日は私どもが製造した国産の合成燃料を、後ほど自動車に給油、ならぬ、給“合成燃料”して走行デモンストレーションを行います。あわせてカーボンニュートラル化社会に向けた、ENEOSの本気を感じ取っていただければ幸いです」
燃料革命、産業革命、環境革命の1日
その後、来賓の衆議院・参議院議員の先生方からお言葉を賜りました。以下、式典でのご挨拶、デモ・体験走行後に行われた囲み取材のコメントを要約してご紹介します。
「『カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟』(以下、『合成燃料を推進する議員連盟』)会長の甘利明でございます。我々はこの日を一日千秋の思いで待っていました。今日のこの日は燃料革命のスタートの日であり、20世紀が生んだ最大の発明品のひとつである内燃機関エンジンに新しい息吹を吹き込む産業革命のスタートの日でもあり、さらに地球環境保全法を地に着いたかたちで推進する環境革命の日でもあります。地球環境保全のためにEVを進めていくことは必須課題ですが、同時に2050年になってもこの地球を走っている自動車、とくに中古車の大宗は内燃機関エンジンが占めるわけです。地球環境に貢献するために、合成燃料は必須のアイテムです。合成燃料の社会実装をできるだけ前倒しにできるよう、今後も、一致団結して進めて参りたいと思います」(衆議院議員 甘利明氏)
「合成燃料に関しては、これまでも方々から、社会実装・商用化がタイミングとして遅すぎるのではないかと言われてきました。これをリーズナブルなかたちで1日も早く実践しようというのが、甘利先生が会長を務める『合成燃料を推進する議員連盟』です。社会実装を実現するためには、e-fuel(合成燃料の別称で、CO2と水素から製造される燃料)が本当に使えるものだということを世の中に示す必要があります。それが今日です。」(衆議院議員 山際大志郎氏)
「合成燃料については、当選をさせていただいて以来、私の政治課題のひとつです。今日、富士スピードウェイで、しかもレースが行われている最中に、合成燃料のデモンストレーションが行われるということに、心から感謝を申し上げます。
少し前まで、自動車の未来はバッテリーが担うと考えられていましたが、GX、気候変動を考えた時にガソリンに代わる合成燃料の価値を、多くの人に知っていただく必要があります。合成燃料をみなさんに知っていただき、この分野で日本が世界をリードすべく、『合成燃料を推進する議員連盟』の一員として、これからもみなさんと一緒に汗をかいていきたいと思います」(文部科学大臣政務官兼復興大臣政務官、元F1ドライバー、衆議院議員 山本左近氏)
「経産省は、脱炭素事業を支援するグリーンイノベーション基金事業(以下、GI)を使って合成燃料の早期商用化に取り組んできました。そのトップランナーとして走ってくださっているのがENEOSさんです。ただ、実は正直言って、こんなに早くこの日を迎えることができるとは思っていませんでした。本当にうれしい1日です。
昨年9月から合成燃料の導入促進に向けた官民協議会を運営し、検討を行っています。そんな中(合成燃料における)国際的な競争は確実に高まっていて、5月16日に行われた協議会では、経産省として、合成燃料の商用化の目標をこれまで2040年から、2030年代前半に前倒しさせていただきました。もちろん実現には相当な努力が必要で、官民で力をあわせて頑張っていく必要があります。経産省もしっかりと後押ししていくことをお約束してお祝いのご挨拶に代えさせていただきます」(経済産業省副大臣兼内閣府副大臣、参議院議員 太田房江氏)
ブレンド比率10%の合成燃料で、デモ走行および体験走行を実施
式典終了後は、トヨタ自動車株式会社様のご協力のもと、プリウスPHVとGR86の2台の走行車両を使用しての走行会が実施されました。9リットルのガソリンが入っている車両に、ENEOSのイメージキャラクターであるエネゴリくんが運んできた合成燃料1リットルを充填。デモ走行および体験走行は、ドライバー、同乗者を変えて行われましたが、記念すべき最初の走行では、トヨタ自動車の執行役員社長・CEOの佐藤恒治氏がハンドルを握るプリウスに齊藤が同乗しました。走行後、「合成燃料が10%ということもありますが、通常の自動車の運転感覚とまったく変わりませんでした」と朗らかに語る佐藤社長を、齊藤は「さすがのドライビングテクニックでした」と讃えました。
元F1ドライバーの山本氏はドリフト走行を見せるなど、卓越したドライバーテクニックを披露。「非常にいいクルマだったと思います(笑)。いいクルマはいい燃料がなければ動きません。これまでと同じパフォーマンスを高回転域でも引き出してくれました。みなさまと一緒に、安全に、楽しく合成燃料で運転できることをとてもうれしく思います」と話しました。
デモ走行前の式典で、藤山は合成燃料の強みについて、「合成燃料は既存の石油製品に非常に近い成分で構成されており、また液体であるため、製油所設備、燃料の流通インフラおよび自動車や航空機等について全て既存のものをそのまま使用できる」とアピール。また、現在は1日あたり1バレル(ドラム缶1本分程度)の小規模プラントを建設中ですが、2027~28年度の運転を目標に、1日あたり300バレルを製造できる大規模パイロットプラントを作る計画があることを示唆しました。
2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立
ENEOS代表取締役 副社長執行役員の宮田知秀は、閉会の挨拶で、このように語っています。
「ENEOSとしましては、技術開発、実証を政府の支援のもとで今後も加速させていきたいと思います。一方で、社会実装化に向けては大きな課題があります。合成燃料の原料は水素とCO2です。水素は水の電気分解によって作られます。つまりグリーン水素が非常に大事で、このボリュームと、どれだけ競争力のある水素を確保できるかが重要になってきます。将来的には1日に1万バレルを作れるプラントを目指していくわけですが、これを実現するには、多くのみなさまのご理解、ご支援が必要です」
ENEOSにおける合成燃料のロードマップは、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立、その後、導入拡大・コスト低減を図り、その中で早期供給開始を目指します。まずは、合成燃料、バイオ燃料とガソリンを合わせた低炭素ガソリンから着手し、「低炭素ガソリンは2027年頃からの供給開始を目標としていますが、自動車メーカーの販売戦略なども考慮しつつ、前倒しできればと考えていいます」(齊藤)。
ENEOSは今後も液体燃料のカーボンニュートラル化の早期実現に向けて邁進していきます。