[奈文研コラム]建築の歴史の証言者
2023-10-02 09:00
古い建築において、建築年代はその建築を理解する上で重要な情報です。年代を判断する方法には様々なものがありますが、最も有力な指標の一つとして、棟札と呼ばれる札があります。棟札は木製が多く、建物の造営や修理の際、工事の経緯や年月日、建築主や工匠などを記し、屋根裏の部材に釘などで打ち付けることが一般的です。外形は縦長で、上端が角型のものや山型のものが大半ですが、中には横長の棟札や、上部が装飾的な形の棟札もあります。
今回は奈良文化財研究所が調査した、高野山にある壇上伽藍・金堂の万延元年(1860)棟札を紹介します(図1)。高野山の棟札は全長約40㎝~90㎝が多い中、この棟札は約1m90㎝もあります。高野山の棟札の中では最大で、私の身長よりもかなり大きなものです。壇上伽藍・金堂は高野山の中でも重要で、格の高い建物であるからと思われます。また、通常、施工者は棟梁などの名前のみが書かれることが一般的ですが、壇上伽藍・金堂の棟札では、「彫物師」「銅瓦延師」「銅瓦葺師」「金物師」「塗師方」「彩色師」「仏工」「仏画師」「石工」「木挽頭」「日雇頭」「車力頭」として計24名の職人の名前が書かれており、高野山の棟札の中でも特に情報量が多いことも特徴です。このように、棟札にたくさんの情報があると、年代を知るための指標としてのみではなく、当時どのような施工者が造営に携わったのか、どのような工事をおこなったのかも知ることができます。
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