<腸の奥からの健康を考える研究会ウェビナー 事後レポート> ニューノーマル時代のヨーグルト ビフィズス菌×イヌリンの体内(腸内)発酵がもたらす効果 ~ 体内(腸内)発酵のメカニズムと免疫への影響 ~
腸の奥からの健康を考える研究会(座長:帝京平成大学 健康メディカル学部 教授 松井 輝明)は、感染症リスクが高まる秋冬に向けて、免疫および発酵に対する正しい理解促進を図るべく、メディアを対象としたオンラインセミナー「ニューノーマル時代のヨーグルト ビフィズス菌×イヌリンの体内(腸内)発酵がもたらす効果~体内(腸内)発酵のメカニズムと免疫への影響~」を2020年10月2日(金)に開催いたしました。
昨今、生活者の免疫への意識が高まり、発酵食品の需要が拡大しています。免疫力向上には発酵食品が良いというイメージが先行し、発酵食品全体が一括りにされる状況です。一方で、近年の腸内フローラ研究の進展により、免疫力を高めるには大腸内で腸内フローラにより作られる短鎖脂肪酸(※1)が重要で、摂取する菌とそのエサとなる水溶性食物繊維の掛け合わせで、短鎖脂肪酸産生量に大きな違いがあることがわかってきました。
(※1)短鎖脂肪酸とは…酢酸、プロピオン酸、酪酸などの人にとって有用な物質のこと。
本セミナーでは、本研究会の座長・松井 輝明から免疫における体内(腸内)発酵の重要性を解説するとともに、ゲストにお招きした株式会社メタジェンの福田 真嗣氏から、発酵食品の代表として位置づけられるヨーグルトを例に、(1)「一般的なヨーグルト」と、(2)「ビフィズス菌と水溶性食物繊維イヌリンを配合したヨーグルト」について、それぞれが腸内細菌叢や短鎖脂肪酸産生量にどのように影響するのかを比較検討したin vitro試験結果について解説。ニューノーマル時代のヨーグルトとはどのようなものか、またその特性について言及いただきました。
免疫力アップには、体内(腸内)発酵が重要
帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科 教授/腸の奥からの健康を考える研究会 座長 松井 輝明
セミナー前半では、本研究会の座長であり、帝京平成大学 健康メディカル学部 教授である松井 輝明が、免疫における体内(腸内)発酵の重要性に関して解説いたしました。
まず、「発酵とは、微生物が人間に有益な有機物を生成する過程のこと」とした上で、発酵食品の代表としてヨーグルトを挙げ、「ヨーグルトは、牛乳を発酵させたもので、牛乳に添加された乳酸菌が牛乳中の乳糖を発酵して乳酸をつくり出す。これと同じ現象が、私たちの体内(腸内)でも起こっており、大腸内で有用菌が水溶性食物繊維などを発酵し『短鎖脂肪酸』などの有用物質を作り出すことを“体内(腸内)発酵”と呼ぶ」と説明しました。
短鎖脂肪酸は、血液により全身に運ばれ、免疫細胞に働きかけることで免疫力を向上させることをはじめ、腸内の炎症抑制やその他、様々な健康効果があることを解説。さらに、短鎖脂肪酸を産生させるためには「(1)大腸で働く有用菌」と「(2)有用菌のエサとなる水溶性食物繊維」の摂取が重要だと強調しました。
・体内(腸内)発酵を起こすポイント(1) 大腸で働く有用菌
体内(腸内)発酵を促し、短鎖脂肪酸を作り出すポイントとして、大腸で働く有用菌について言及しました。「腸内細菌の多くは大腸に棲んでおり、有用菌や有害菌が日々勢力争いをしている。代表的な有用菌として知られる『ビフィズス菌』と『乳酸菌』は大きく性質が異なり、ビフィズス菌は大腸に棲息し短鎖脂肪酸を作り出す一方、乳酸菌は主に小腸に棲み乳酸を作り出す。さらに、日本人の腸内細菌叢は他国と比べてビフィズス菌の割合が高く、ビフィズス菌は日本人に適した菌である。」と解説しました。
・体内(腸内)発酵を起こすポイント(2) 有用菌のエサ=水溶性食物繊維
また、野菜に含まれる食物繊維の多くは有用菌のエサになりにくい不溶性食物繊維であるのに対し、有用菌のエサとなる水溶性食物繊維は根菜や海藻などに含まれていることを紹介。さらに、同じ水溶性食物繊維でも体内(腸内)発酵力(短鎖脂肪酸産生量)には違いがあり、世界で最もメジャーな水溶性食物繊維「イヌリン」の優れた体内(腸内)発酵力を他の水溶性食物繊維と比べて解説しました。さらに、インフルエンザに感染したマウス試験の結果を交えながら、「イヌリンは短鎖脂肪酸を多く産生し免疫力を高めるだけでなく、免疫暴走を制御し、生存率を向上させるという研究報告もある」と説明しました。
「ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルト」は、より大腸での発酵を促すニューノーマル時代のヨーグルト
株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授 福田 真嗣氏
セミナー後半では、株式会社メタジェンの代表取締役社長CEOであり、慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授でもある福田 真嗣氏が、短鎖脂肪酸が免疫力に影響するメカニズムについて解説しました。「病原体の感染を防御するのは粘膜免疫。それを担うのが“IgA抗体”。その特徴は、全身の粘膜で作用し、細菌やウイルスの侵入を防ぐ役割がある。また、抗原特異性が広く、様々なウイルスに結合することが可能である。IgA抗体を増やすには短鎖脂肪酸が大腸内でつくられることが重要で、短鎖脂肪酸を増やすには腸内細菌のエサになるMACs(水溶性食物繊維やオリゴ糖などの腸内細菌のエサになる炭水化物群の総称)などの摂取が大きく関連している。」と説明しました。
また、福田氏が監修して帝人株式会社が実施したin vitro腸内細菌叢培養試験についても解説がありました。ヨーグルトの製造に必要な乳酸菌のみが含まれる「普通のヨーグルト」と、乳酸菌の他に大腸で働くビフィズス菌や、そのエサとなる水溶性食物繊維イヌリンを添加した「ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルト」で、短鎖脂肪酸産生量や腸内細菌叢への影響を比較したところ、ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルトの方が普通のヨーグルトよりも、酢酸量や総短鎖脂肪酸量が有意に増加し、さらに大腸で働く有用菌であるビフィズス菌も有意に増加したと解説しました。
福田氏は試験結果について、「ビフィズス菌とイヌリンを添加したヨーグルトの方が普通のヨーグルトよりも腸内細菌叢での発酵を促すことが、今回のin vitro腸内細菌叢培養試験でわかった。これがヒトの腸内でも起きるかどうかは臨床試験を実施する必要があるが、腸内細菌叢の状態は人によって異なるため、乳酸菌のみが含まれる普通のヨーグルトの摂取では効果を十分に得られない人でも、ビフィズス菌とイヌリンが添加されたヨーグルトを摂取することによって、その効果を得られる人の割合は増えると考えられる。ヨーグルトに免疫力が求められ、短鎖脂肪酸を増やすことの重要性が今後一層増していくことが想定される中、普通のヨーグルトに入っている乳酸菌に加えてビフィズス菌やイヌリンなどの腸内細菌のエサ(MACs)を摂取できるものが、ニューノーマル時代のヨーグルトと言えるだろう」と見解を述べました。
登壇者プロフィール
●松井 輝明(まつい・てるあき)
帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科 教授
腸の奥からの健康を考える研究会 座長
日本大学医学部卒業。医学博士。1999年 日本大学板橋病院消化器外来医長就任。2000年 日本大学医学部講師、2012年 准教授。2013年 帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授就任、現在に至る。
2001年 厚生労働省薬事食品衛生審議会専門委員、2003年 内閣府食品安全委員会専門委員、2000年 日本高齢消化器病学会理事、2015年 日本消化吸収学会理事。
消化器一般、機能性食品の臨床応用を専門に研究。
●福田 真嗣(ふくだ・しんじ) 氏
株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO
慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任教授
2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を終了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2019年より同特任教授。2016年より筑波大学医学医療系客員教授、2017年より神奈川県立産業技術総合研究所グループリーダー、2019年よりマレーシア工科大学客員教授、JST ERATO副研究総括を兼任。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、第1回バイオサイエンスグランプリにて、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「もっとよくわかる!腸内細菌叢 健康と疾患を司る“もう一つの臓器”」(羊土社)。