飛鳥池遺跡と保存科学―出土品の重要文化財指定と50周年を祝う特別講演会

奈良文化財研究所 コラム作寶樓(さほろう)vol.299

2025-05-23 17:00

 「文化財の保存」と聞いて、どんなイメージが浮かぶでしょうか? 博物館に並ぶ金属器や古文書を保護する展示ケース、あるいは遺跡に建てられた覆屋(おおいや)かもしれません。実はその裏には、遺跡から出土したものを後世に守り伝えていくための、さまざまな科学的な工夫や研究があるのです。

 今回、私たち保存修復科学研究室の研究員4名が登壇する公開講演会「飛鳥池遺跡と保存科学」では、そうした"文化財の守り方"を科学的視点からご紹介します。遺跡の現地保存から素材別の保存処理、そして科学分析を駆使した研究まで、幅広いテーマを通じて、文化財と科学のつながりを感じていただければ幸いです。

 この講演会は、史跡飛鳥池工房遺跡の出土品が重要文化財に指定されたことを記念し、また、奈良文化財研究所の飛鳥資料館と埋蔵文化財センターの設立50周年を祝う特別な機会として開催されるものです。ここでは、当日の内容を少しだけご紹介したいと思います。

"その場で残す"という挑戦―露出展示のいま

 6月21日(土)開催の奈良文化財研究所主催公開講演会「飛鳥池遺跡と保存科学」では、埋蔵文化財センター・保存修復科学研究室の私たち4人が、それぞれの立場から文化財の保存に関する取り組みをお話しします。

 最初の講演は、「飛鳥池工房遺跡にも見られる遺跡の露出展示保存の課題と展望」と題して、遺構をそのまま公開する"露出展示"の現状と課題、そして今後の展望についてお話しします。保存と公開のバランスをいかに取るか----自然の影響を受けやすい遺跡現地での展示だからこそ、日々向き合っている悩みや工夫を、具体的な事例を交えてご紹介したいと思います。

公開講演会のご案内

木や金属も守れるの?素材ごとの保存の知恵

 続いて、木製品の保存をテーマにした講演「木製遺物の保存処理-手のひらサイズから身の丈サイズまで」では、水分を多く含んだ状態で出土する木製品を、どのようにして形を崩さず安定化させるかという保存処理の工夫をご紹介します。木簡のような小さなものから、建築部材のような大型の遺物まで、それぞれに合わせた処理技術とその裏にある設備や研究についても紹介致します。

 また、「古代の輝きはなぜくすむ?-飛鳥池遺跡と金属製文化財」では、銅製の鋳物や装飾具など、古代のきらびやかな金属遺物に注目。長い年月の中で"くすみ"や"サビ"が進むしくみをひもときながら、どうすればその姿を未来に伝えられるのか―"時間のいたずら"とたたかう保存科学の現場を紹介致します。

時を超えて伝わる富本銭、飛鳥池遺跡で出土した日本最古の公的な貨幣です

ガラスの出現が語る、古代日本の技術革新

 そして最後は、「飛鳥池遺跡におけるガラス生産-国産ガラスの誕生」。飛鳥池遺跡は、飛鳥時代にガラスが日本で生産されていたことを示す重要な遺跡です。出土したガラス玉の分析を通して、古代日本のガラス技術の成立と発展、そしてそこから見えてくる社会の姿について、丁寧にひもといていきます。重要文化財に指定された出土品の背景にある"ものづくり"の技術と歴史を、ぜひ感じていただきたいと思います。

透明感のあるガラス玉は当時の先端技術の証

(埋蔵文化財センター保存修復科学研究室長 脇谷草一郎)
(埋蔵文化財センター主任研究員 松田 和貴)
(埋蔵文化財センター主任研究員 柳田 明進)
(都城発掘調査部主任研究員 田村 朋美)

第132回奈良文化財研究所公開講演会のお知らせ

詳細はこちらよりご確認ください。
https://www.nabunken.go.jp/fukyu/event2025.html

【申込み方法】
こちらの申込フォームよりお申し込みください。
https://e9cbd0f5.form.kintoneapp.com/public/koenkai202506
※申込期間は、申込フォームより6/4(水)24時までとなります。

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