[奈文研コラム]史跡の再整備と維持管理-平城宮跡の兵部省の修繕工事
兵部省の修繕工事
現在、平城宮跡では兵部省の建物を部分復元した施設の工事が進められています。これは文化庁が2023年度から実施している修繕工事です(冒頭写真)。
兵部省を含む平城宮東区朝堂院の南側地域では、1980年代から1990年代にかけて発掘調査が行われました。
奈良時代の兵部省は、武官の人事、全国の兵士と兵器・軍事施設などの管理などを行い、全国の軍事と情報通信網を統括する大きな役割を担っていました。発掘調査によって、一辺約73mのほぼ正方形の区画内に、8棟の瓦葺き礎石建物が左右対称に配置されていたことがわかりました。
建物のほか、門、塀などの規模や形式も推定され、1990年度に地上1.2mの高さまで部分的に復元されました。
それから30年以上が経過し、木柱の腐朽や舗装部分の損傷など、経年劣化が進行していました。2023年度の修繕工事では、みやと通り西側を対象に、63本の木柱の交換、建物および築地塀の壁の洗浄・再吹付、舗装の修繕などが行われました。2024年度は東側において同様の工事が11月から進められており、3月末に完成して全体がきれいになる予定です。奈文研では、今後の整備にいかすため、この工事に際して木柱の腐朽や舗装の劣化状況などを調査しています。
公園施設の長寿命化
近年、日本の社会課題として施設の長寿命化が注目されています。公園の分野では、2012年に国土交通省が公園施設の計画的な維持管理のための指針を策定しました。その背景として、社会資本ストックの老朽化が急速に進行しており、厳しい財政事情の下で適切に維持管理を行っていくことが、施設管理者にとって重要な課題となっていることが説明されています。
これからの史跡の整備・管理の方向性
史跡の整備においても、施設の長寿命化や植栽管理などが大きな課題として全国的に認識されるようになってきました。例えば、全国各地の史跡整備の担当者が毎年参加する全国遺跡環境整備会議が2024年10月に栃木県下野市で開かれましたが、そこでは、史跡に整備された復元建物やその他施設の老朽化の状況、それらの耐久性や管理の効率性を考慮した再整備に関する事例報告が行われました。また、飛鳥・奈良・平安時代の遺跡の担当者を対象に実施されたアンケートでは、123件の回答のうち、再整備を実施済または実施中が11件、事業化を検討中(または必要を感じている)が58件に上りました。今後、全国の多くの遺跡においても大規模な修繕工事が行われることが予想されます。さらに、今後の改善策に関する自由記述回答では、施設の劣化・老朽化とともに、維持管理・植栽管理に関する回答が多くあり、全体的に維持管理(維持しやすさ、更新しやすい素材の利用)への関心も高くなっていることがうかがえました。
史跡の計画的な整備・管理は、今後ますます重要となります。そのためには、実情に合った整備・管理方針の検討、耐久性に優れ、更新しやすい材料や構造の採用、効率的な管理の仕組みづくりなどが必要とされるでしょう。
(参考文献)
奈良文化財研究所『平城宮発掘調査報告ⅩⅥ 兵部省地区の調査』奈良文化財研究所学報第70冊、2005。
(文化遺産部上席研究員 中島 義晴)