法隆寺献納宝物の伎楽面「呉女」・「迦楼羅」の復元模造が完成! 東京国立博物館「総合文化展」および「正倉院の世界展」で初公開 (呉女:11/24までの金・土、迦楼羅:11/24まで)

~現存最古の伎楽面、飛鳥時代当時の鮮やかな姿がよみがえる~

国立文化財機構 文化財活用センターでは、企業や各種団体と連携して、先端的な技術による文化財の複製を製作しています。完成した複製は展示・教育普及事業・展示イベントで公開活用するほか、他施設機関や企業団体へお貸し出しをして、鑑賞者の文化財に対する理解を深めることに役立てていただいています。

このたび、新たに完成し公開されるのは、東京国立博物館所蔵の法隆寺献納宝物の伎楽面「呉女」・「迦楼羅」(重要文化財)の復元模造2点です。7世紀に作られた原作品では失われてしまった部分を、東京国立博物館による調査・研究に基づき、最新の計測技術と松久宗琳佛所(京都市中京区)の伝統技術を駆使して、約1,400年前に作られた伎楽面の本来の姿を復元。かたちや色など精巧な復元を試みた模造の完成により、鑑賞者がより直感的、かつ体験的に楽しんでいただける機会をご提供できることとなりました。

それぞれ、東京国立博物館総合文化展(呉女:10/8~11/24の金・土、法隆寺宝物館)および御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」(迦楼羅:11/6~11/24、平成館)で初公開されます。

画像1. 伎楽面 復元模造(左:「呉女」高376×幅330mm、右:「迦楼羅」高371×幅225mm)

法隆寺献納宝物 伎楽面「呉女」・「迦楼羅」の復元模造

画像1. 法隆寺献納宝物 伎楽面 復元模造
(左:「呉女」高376×幅330mm、右:「迦楼羅」高371×幅225mm)

画像1. 伎楽面 復元模造(左:「呉女」高376×幅330mm、右:「迦楼羅」高371×幅225mm)

制作期間 :2018年10月1日(月)~2019年7月18日(木)
制作者  :株式会社松久宗琳佛所
制作手法 :3Dプリンターにより原型を制作し、これに基づき木材を彫刻。
      天然顔料により彩色。
材質・技法:クスノキ製 彩色、金具は金銅製。

学術的考証に基づいた復元模造「呉女」・「迦楼羅」のここに注目!

  1. 最先端の計測技術と職人による伝統技法の融合による成果
  2. 原作品の欠損部分について、断片や古写真により形状を復元
  3. 木製の面だけでなく、失われた金具も調査成果に基づきながら再現
  4. 制作当時の華やかな彩色を、調査成果により再現

■注目ポイント1:最先端の計測技術と職人による伝統技法の融合

東京国立博物館保存修復課調査分析室がX線CTによる調査で構造と形状の調査を行い、調査データに基づき、樹脂原型を製作。
この原型をもとに日本の伝統彫刻に精通した松久宗琳佛所がクスノキ材を彫刻。

画像2. YXLON社製ターンテーブル回転型X線CTシステムによる構造と形状の調査

画像2. YXLON社製ターンテーブル回転型X線CTシステムによる構造と形状の調査

画像3. 呉女面のX線CT撮影調査画像

画像3. 呉女面のX線CT撮影調査画像

■注目ポイント2:欠損部分を断片や古写真により復元

今回の復元模造では、欠損箇所の復元も積極的に行った。
呉女面については、『法隆寺大鏡』12輯(1934年)掲載の古写真や同時代の絵画・彫刻を参考に額と鼻を再現した。
迦楼羅面については、明治初年に法隆寺から流出したとみられるトサカ部分断片がドイツ・ミュンヘン五大陸博物館(旧ミュンヘン州立民族学博物館)に所蔵されており、その調査データに基づいて再現した。

画像4. 呉女面 額などの再現時に参照した『法隆寺大鏡』12輯に掲載の古写真

画像4. 呉女面 額などの再現時に参照した『法隆寺大鏡』12輯に掲載の古写真

画像5. 迦楼羅面 トサカ部分の再現作業

画像5. 迦楼羅面 トサカ部分の再現作業

■注目ポイント3:失われた金具について、調査成果に基づきながら再現

呉女面の頭部を飾っていた考えられる笄形髪飾りと宝珠形金具を、もともと原品に付属していたものとみられる法隆寺所蔵の金具を調査し、銅にアマルガム鍍金をする古代技術によって再現した。
迦楼羅面のくちばしにくわえられた珠には、金銅製の環金具が打ち込まれており、ここにもなんらかの装飾があったと考えられる。今回一つの可能性として、同じく献納宝物に伝えらえられる鎖付き金銅鈴を再現し、吊り下げた。

画像6. 迦楼羅面 鎖付金銅鈴 (飛鳥時代・7世紀) 東京国立博物館蔵

画像6. 迦楼羅面 鎖付金銅鈴 (飛鳥時代・7世紀) 東京国立博物館蔵

画像7. 復元模造に取り付けられた再現金具

画像7. 復元模造に取り付けられた再現金具

■注目ポイント4:当時の鮮やかな彩色を調査成果により再現

赤外線撮影に基づき、肉眼ではほとんど見えない墨線を確認。これをもとに迦楼羅面の両耳や顎下の羽毛表現を再現した。
全体の色調については、原作品の詳細な調査とともに、先行研究による顔料の分析結果を応用し、天然顔料を用いて可能な限り当初の彩色を復元した。

画像8. 迦楼羅面(原作品)顎部分の赤外線写真

画像8. 迦楼羅面(原作品)顎部分の赤外線写真

画像9. 迦楼羅面(復元模造)における顎の毛描き

画像9. 迦楼羅面(復元模造)における顎の毛描き

法隆寺献納宝物「伎楽面」 原作品と復元模造

呉女

呉女は伎楽面のなかで唯一の女性の面。この面の額と頬には花鈿とよばれる花などの文様が描かれている。中国の宮廷女性をモデルとし、高く結い上げられた稚児輪(ちごわ)という髪型がユニークである。

復元模造では、古写真の情報や原作品にみられる痕跡から当初の造形を復元し、あわせて、法隆寺に所蔵される金銅製金具を参考に、あでやかな姿を再現した。

画像10.
重要文化財
伎楽面「呉女」(ぎがくめん ごじょ) 原作品
飛鳥時代・7世紀
1面 クスノキ製 彩色
東京国立博物館
法隆寺献納宝物N-211

画像10. 伎楽面「呉女」原作品 (飛鳥時代・7世紀) 東京国立博物館蔵

画像11.
伎楽面「呉女」復元模造

画像11. 復元模造 伎楽面 呉女 (令和元年・2019) 松久宗琳佛所作 東京国立博物館蔵

迦楼羅

迦楼羅はインドの神話に出てくる霊鳥で、龍を食うといわれる。インドの神々が仏教に取り入れられ、その守護神となった。阿修羅などとともに八部衆の1人に数えられる。
復元模造では、原作品からは想像しがたい鮮やかな彩色がよみがえった。

画像12.
重要文化財
伎楽面「迦楼羅」(ぎがくめん かるら) 原作品
飛鳥時代・7世紀
1面 クスノキ製 彩色
東京国立博物館
法隆寺献納宝物N-215

画像12. 伎楽面「迦楼羅」原作品(飛鳥時代・7世紀)東京国立博物館蔵

画像13.
伎楽面「迦楼羅」復元模造

画像13. 復元模造 伎楽面 迦楼羅 (令和元年・2019) 松久宗琳佛所作 東京国立博物館蔵

法隆寺献納宝物「伎楽面」とは?

東京国立博物館が所蔵する法隆寺献納宝物は、明治11年(1878)に奈良・法隆寺から皇室に献納され、戦後国の所蔵となった300件ほどの文化財です。これらは、正倉院宝物と双璧をなす古代美術のコレクションとして高い評価を受けていますが、正倉院宝物が8世紀の作品が中心であるのに対して、それよりも一時代古い7世紀の宝物が数多く含まれていることが大きな特色です。この中には飛鳥時代から奈良時代の伎楽面31点も含まれます。

伎楽は、推古天皇20年(612)に百済国の味摩之(みまし)という人物が日本に伝えたとされています。呉楽(くれのうたまい)とも呼ばれ、中国南方の呉という地域で盛んだったようですが、源流はインド・中央アジアに及びます。飛鳥、奈良時代には寺院の法会などで行われましたが、平安時代には洗練された舞楽に押されて衰退し、その後廃絶しました。
伎楽面は、大型で頭までおおう点が、舞楽面や能面などと異なる特色です。材質で分けるとクスノキ製、キリ製、乾漆製の3種があり、クスノキ製の仮面は飛鳥時代の作です。

復元模造の展示情報

伎楽面「呉女」・「迦楼羅」の復元模造は、それぞれ以下の会場・期間でご覧いただけます。

「呉女」復元模造

東京国立博物館 総合文化展
展示期間=2019年10月8日(火)―11月24日(日)のうち、金・土
会場  =法隆寺宝物館 第3室
料金  =総合文化展観覧料でご覧いただけます
※「呉女」の原作品も上記期間・上記会場において展示

「迦楼羅」復元模造

御即位記念特別展 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―
展示期間=2019年11月6日(水)―11月24日(日)
会場  =東京国立博物館 平成館(上野公園)
料金  =特別展料金は以下のサイトをご参照ください
※「迦楼羅」の原作品も上記期間・上記会場において展示

参考

文化財活用センターについて■

文化財活用センターは国内外のさまざまな人が、日本の文化財に親しむ機会を拡大するために、2018年7月1日、国立文化財機構のもとに設置された組織です。
文化財活用センターでは、すべての人びとが、文化財を通じて豊かな体験と学びを得ることができるよう、文化財を活用した新たなコンテンツやプログラムの開発を行っています。この復元模造制作も、文化財活用センターの事業のひとつです。
文化財の保存と活用の両立に留意しながら、レプリカやVR、8K映像などの先端技術をつかったコンテンツの開発、国立博物館の収蔵品の貸与を促進する事業、文化財のデジタル情報の公開、文化財の保存環境に関する相談窓口を開設しています。

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