日本の薬剤耐性(AMR)対策における教訓を国際社会へ発信

世界保健機関 西太平洋地域事務局(WPRO)は、2025年2月18ー19日に実施される、厚生労働省が主催しWPROと世界保健機関 南東アジア地域事務局(SEARO)が共催するAMRワンヘルス東京会議開催に合わせ、「日本の薬剤耐性(AMR)対策2013-2025」(原題Japan’s AMR response 2013ー2025 Developing, implementing and evaluating national AMR action plans)を公開しました。この文書はWPROの委託を受けて薬剤耐性(AMR)臨床リファレンスセンターが作成したものです。日本の「AMR対策アクションプラン(2016-2020)(以下、NAP1)」の実施、評価、そして「AMR対策アクションプラン(2023-2027)(以下、NAP2)」の策定を通じて得られた重要な教訓がまとめられています。日本が進めるAMR対策が他国にも貴重な示唆を与えることを願います。

NAP1の実施と成果・課題とNAP2への発展

日本は2016年に最初のNAP1を策定し、6つの重点分野 ― (1)国民や専門職への教育啓発 (2)AMRおよび抗菌薬使用(AMU)の動向調査・監視 (3)感染予防と管理(IPC)の強化 (4)抗菌薬適正使用(AMS)の推進 (5)研究開発・創薬の支援 (6)国際協力 ― に取り組みました。NAP1は主に、国内のAMRサーベイランスシステムの強化を中心に進められ、AMR対策に関するエビデンスの基盤がつくられました。
しかし、実施の過程で、データ収集の地理的偏りや、医療機関以外の長期療養施設への感染管理などの対策を拡大する難しさなど、いくつかの課題も明らかになりました。また、一般市民におけるAMR対策の啓発は医療従事者の間での啓発に比べて難しいことが示唆されました。
2023年に策定されたNAP2は、NAP1での重点分野の枠組みは残した上でNAP1で得られた知見を活かし、より具体的で実効性の高い目標を掲げています。

日本の経験から得た重要な教訓を世界へ

日本のNAPの策定・実施・評価を通して得た教訓は、他国の取り組みにおいても有益な示唆を与えるものです。

  1. AMR対策は縦割りで断片的に行うのではなく、保健システム強化など包括的な施策への組入を
    AMR対策は、病原体と抗菌薬、というわかりづらい切り口よりも誰にでも起こりえる厄介な感染症という切り口の方が啓発や関心・資金を集めるには有効と考えられます。今後、WHOが提唱する、人を中心としたアプローチ(People-Centered Approach)が推奨されていくと考えられます。また、AMR対策を縦割りで断片的に行うのではなく、保健システムの強化、プライマリヘルスケア、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、健康危機管理などより大きな枠組みに組み入れていくことが持続可能なAMR対策の推進には重要です。
  1. 抗菌薬供給網の安定と強化
    近年、世界的に抗菌薬の供給不足や欠品が頻発しています。必要な抗菌薬が常に患者に提供されるよう、供給網の強化と改善が欠かせません。日本では輸入による供給網を維持するとともに、国内で抗菌薬生産をすすめることで、安定的な抗菌薬供給を可能にする取り組みが進められています。
  1. 質の高いサーベイランスデータの収集と活用
    科学的根拠に基づく対策の実施と介入の効果評価には、質の高いサーベイランスデータの収集と活用が不可欠です。また、懸念される薬剤耐性菌やその集団発生を早期に発見するためにも、サーベイランス体制の強化が重要です。
  1. それぞれの国に適したAMR対策の導入を
    日本で得られた教訓が他国で必ずしも有用とは限らず、各国の状況に応じた対策と目標設定が求められます。そのため、各国に適した対策を柔軟に導入することが重要です。

グローバルなリーダーシップ

日本は、AMRに関するサーベイランスシステムの構築、感染予防管理、感染症の診断・治療などの技術移転において国際的なリーダーシップを発揮し、多くの国を支援しています。「日本のAMR対策2013-2025」の公開と、AMRワンヘルス東京会議での当文書の発表は、日本が蓄積した知見を各国と共有し、グローバルなAMR対策の発展にさらに貢献する重要な一歩となります。

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国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、AMR臨床リファレンスセンター (厚生労働省委託事業)
国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、AMR臨床リファレンスセンター (厚生労働省委託事業)
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