[奈文研コラム]石の器をつくる

 私の研究対象は石器です。西アジア新石器時代の打製石器や、縄文時代の北陸地方石製漁撈具の製作技術についての研究を行っています。石器の作り方や使い方など、人がどのようにものづくりを工夫し環境に適応したかに興味があるので、それらを理解するために製作実験を行うことがあります。

 実験結果を研究に生かすためには、加工する道具や岩石の条件を揃えて、加工にかかる時間をきっちり計測することが必要ですのでどうしても神経質になります。でも、本気の実験に先駆けた試作は気楽で結構楽しい作業です。今回はそんな風に半分趣味で石製容器を製作した様子をご紹介します。

 石製容器は、石焼ビビンバの器を想像していただくとわかりやすいですが、岩石をくりぬいて加工した器です。その起源は西アジアでは土器よりも古く、終末期旧石器時代ナトゥーフ期(約12,800-10,200年前)に遡ります。凝灰岩や玄武岩、アラバスターなどから作った容器が調理器や威信財として利用されました。日本では、平城京内でも新羅国から輸入されたとされる滑石製の石製壺が出土しており、古代末から中世においては、西日本で調理用の石鍋を大量生産した製作址が見つかっています(注1)。

 容器を製作するためまずは石材を採りに山へ赴きます。フィールドワークで石材の分布情報を集めることも重要です。今回の採取地は前職で縁のあった福井県若狭地方で、この地域は京都まで伸びている花折断層から派生した三方断層の東に花崗岩質の山地が広がり、谷筋では花崗岩が簡単に拾えます。周辺の縄文時代や弥生時代の遺跡でも磨製石器として使われている石材です。

 十分な大きさで、底部の座りのいい石材が見つかったら、あとはシンプルな工程で凹みを整形します(写真1:Ⅲ-V)。試作なので加工には現代の便利な道具を使用しました。

(写真1)石製容器製作工程
(写真1)石製容器製作工程

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