アポロ11号 人類初の月面着陸から50周年 アポロ11号エンジニア ジョージ・シュミット氏の提言
IEEE(アイ・トリプル・イー)は、IEEEライフ・フェロー(Life Fellow)でありアポロ11号のエンジニア、ジョージ・シュミット(George Schmidt)氏が、アポロ11号によって初めて月面に人類が降り立った1969年7月20日の偉業から50周年を記念し、当時の様子を語りましたので発表します。
ジョージ・シュミット氏は、アポロのテスト・ラボやアポロ発射の際にケープ・ケネディ(宇宙ロケット発射基地)において誘導システム等を担当し、この偉業に貢献しました。彼は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の器械工学研究所とドレイパー研究所(*1)で46年にわたり、ロケットの航法や誘導、制御やアビオニクス(*2)を研究してきました。
シュミット氏は語ります。人類を月に立たせることは、過去に誰もやったことのない偉業です。それを成功へ導くために、すべての誤りを確実に排除する必要がありましたが、逆にそれがエンジニアへの大きなプレッシャーとなったことも事実です。もちろん、優れたコンピュータや正確なシミュレーション・システムがなかった時代で、ハードウェアをテストするにもハードウェア自体を構築する必要がありました。
*1 チャールズ・スターク・ドレイパー研究所(Charles Stark Draper Laboratory)、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジにある非営利研究開発組織
*2 AviationとElectronicsの合成語、航空電子工学を意味する
シュミット氏は、自身の体験を振り返るとき、アポロを成功に導いた多くのことが、現在のエンジニアにも通用すると言います。
まず、1つ目は優れたエンジニアには「原因不明の失敗は存在しない」という考え方をもつことが重要です。ハードウェアのテストするときに、テストがうまくいかないからといって諦めてはいけません。一度初心に立ち返り、何が原因でうまくいかないのかを徹底的に究明する必要があります。
エンジニアの世界は、当時と今とでは大きく変わっています。現在の実験では、高性能な処理能力をもつ半導体や優れたテクノロジーが高度なシミュレーションを可能にし、計画の設計プロセスにおいて重要な役割を担っています。
2つ目は、「もしそれが起きてしまったら」を常に考える必要があります。実験で何か問題に気づいたならば、その問題がもつ潜在的な影響について徹底的に考えリスクを想定することです。私たちは、「もしそれが実際のミッションで起こったら」を考え抜いたおかげで、大事故につながりかねない多くの事柄を予見し解決することができました。
最新の宇宙工学でシュミット氏が最も関心をいだいていることは何でしょう。シュミット氏は次のように話してくれました。
昔のロケットの打ち上げは、ロケットを宇宙に落ち上げると、宇宙船はしばらく宇宙にとどまり、そのあと再突入するという単純ですが刺激的なプロセスをたどります。遮熱材に守られた宇宙船が大気圏に再突入する際には、飛行士たちと地上の基地との通信が数分間遮断されます、通信が回復するとコントロール・ルームには歓声があふれたものです。
このように宇宙へのチャレンジの歴史が、民間ロケット会社スペースXやそのロケットであるファルコン9を誕生させたのです。
従来までスペースシャトルのブースターは最後には大破し、再利用されることはありませんでしたが、ファルコン9では、打ち上げ後に切り離されたブースターが、優れた航法、誘導、制御システムに導かれ見事に海上へ着水します。また、今ではブースターは再利用可能で100回は使用できる耐久性をもっています。
現在では、ロケットや宇宙船の航法、誘導、制御システムは素晴らしいレベルになっており、人類の進化の証と言えるものです。
Image Credit: Draper & wehackthemoon.com
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