~想定を超える水害・命を守る食の備えとは~ 地域を救った病院・西日本豪雨災害からの学びを生かす
岡山県倉敷市真備町 被災地取材記事公開
尾西食品株式会社(本社:東京都港区 代表取締役社長 古澤紳一 ※以下、尾西食品)は、防災食・備蓄のリーディングカンパニーとして、”アルファ米”をはじめとする非常食を製造・販売。「誰にとっても安心安全な食」の提供を通じ、日常の防災意識を高める活動をすすめており、公式サイトで防災コラムを発信しております。
今回は2018年7月の西日本豪雨災害にて甚大な浸水被害を被った岡山県倉敷市真備町。地域で唯一の一般病院である「まび記念病院」(病床数80床)は、入院患者に加えて多くの地域住民の避難者を受け入れました。入院患者のみならず多くの避難者に対して食事を提供し続けたまび記念病院 栄養管理部の淺井美由紀氏、谷川智一氏にお話を伺いました。
淺井美由紀 氏
医療法人和陽会 まび記念病院 栄養管理部 部長
主に栄養管理業務を担当。
谷川智一 氏
医療法人和陽会 まび記念病院 栄養管理部 栄養統括部長として
主に給食業務の運営に携わる。
〜浸水、電気・水道・ガスが順次停止する中で臨機応変に食を提供〜
――病院の被災状況を教えてください。
淺井氏・谷川氏(以下 淺井・谷川) 7月7日(土)の朝、近くを流れる川の堤防が決壊し浸水が始まりました。順次住民が避難し、その後は自衛隊により被災住民がボートで運び込まれました。当日は、入院患者76名、高齢者施設使用者16名、病院スタッフ31名に加え、212名の地域住民が病院に避難し、合計335名が院内にとどまりました。この間、病院スタッフは入院患者さんへの対応に加え、多数の避難住民の対応に追われました。全員無事でしたが、4階建ての建物の1階部分が3.3メートル水没した事で、電気・水道・ガスも順次止まって行きました。翌7月8日(日)朝から自衛隊による救助が開始され、夜には全員が救出されました。
――被災時にどのように食事を提供されたのか教えてください。
淺井・谷川 栄養管理部のメンバーは早朝から勤務し、7月7日の朝食は予定通り提供できました。徐々に水位が上がり9時頃には電気・水道が止まってしまいましたが、栄養管理部は2階にあり、幸い調理室や食材庫に被害はありませんでした。エレベーターが動かなくなり、3,4階の入院患者さんの朝食の下膳ができず、この時に外を確認して大変な状況になっていることを初めて知りました。この時点で、食材庫に翌日分と翌々日分の食材がありましたが、非常食の備蓄はありませんでした。
停電によって冷蔵庫・冷凍庫もストップし、ミキサー食や刻み食などの形態加工も難しくなり、食器洗浄・乾燥も出来なくなったので、昼食はガスのみで調理でき、水も極力使用しない、雑炊のような柔らかいものにメニュー変更し、使い捨ての食器や割り箸、スプーンを使用しました。また食事を提供するトレーにもラップをかけて、都度洗わなくても使えるようにしました。このように入院患者さんへの昼食は、予定通り提供できました。
一方で、午前中から自衛隊の方により多数の避難住民がボートで院内に次々と運びこまれてきた状況を見て、沢山の夕食を準備する必要があるということを理解しました。ガスが止まることも想定し、昼過ぎからは夕食用のおにぎりとお粥の準備を開始しました。おにぎりは、備蓄していたペットボトルの水を使用して炊飯しましたが、洗米が出来ないので炊き上がりのにおいを低減させるためにわかめご飯の素やゆかりなども活用しながら300個ほど作りました。夕食として、夜5時半から入院患者さんにはおにぎりやお粥、高エネルギーゼリーを、また避難住民にもおにぎりや高エネルギーゼリー、ジュースなどを提供することができました。
ほぼ食料が底をついてしまい、翌8日の朝食をどうするか困っていたところ、当日夜9時頃に消防庁の方がボートで、尾西食品のアルファ米の梅がゆ100個と五目ごはん100個、水2リットル72本を支援物資として持ってきて下さりました。翌日の朝食の目処がつき、大変に有り難かったです。その後にガスも止まりましたが、8日の朝食では入院患者さんにはアルファ米と高エネルギーゼリーを、避難住民にはパンとジャム、高エネルギーゼリーを提供しました。8日の朝8時頃から支援物資がボートで多く届くようになり、また朝9時頃からは自衛隊により入院患者さんや避難住民が順次救出されました。我々職員も夜の9時頃には病院から出ることができました。
〜災害への備えを再整備〜
――今後の災害に備えて病院ではどのような備えをされていますか。
淺井・谷川 まずは十分な非常食と水の確保を行いました。電気・ガスや水道がなくても加熱や盛り付けをせずに提供できるようなものを揃え、入院患者80名分を3日間賄える量を用意しました。災害が起きた時は通常の精神状態ではなく落ち着いて行動ができないですが、十分な食料と水があれば少しは冷静な対応が取れると思います。
また合わせて、入院患者さんの食物アレルギーや嚥下状態の情報は他の部署も含めて共有しておく必要があると考えます。
さらに、カセットコンロを備蓄するようにしました。備蓄する場所も重要です。当院では別棟に高齢者施設があり、渡り廊下で繋がっているのですが、それぞれが孤立することも想定して、病院と高齢者施設で別々に備蓄するようにしました。また、今回の災害では非常電源が1階にあり水没して使用できなくなってしまったので、水没しないように2階の高さに移設し直しました。
〜今後の課題 外部との連携、院内の連絡体制〜
――さらに今後の災害を想定した場合に、どのような取り組みが必要でしょうか。
淺井・谷川 地域の中心となる医療機関そして防災拠点として、今後さらに地域や行政などの外部と連携を強化していく必要性があると思います。万一の場合には、外部から救援物資や支援物資が届くまでに想定以上に時間がかかるので、日頃からの外部との連携は欠かせません。
また、停電になった場合には固定電話や院内PHSなども使えなくなるので、院内の連絡体制をどうするかも事前に十分に検討しておく必要があると思います。今回、当院では人海戦術で対応できましたが、大規模な施設の場合には非常に重要になると思われます。
――最後に、災害をご経験されたお二人より、メッセージ等がありましたら、お願いします。
淺井・谷川 真備町は、ハザードマップでは危険地区と言われており、過去にも水害があったのは知っていましたが、比較的災害の少ない場所との認識があり、今振り返ると食料備蓄など非常時の備えが十分ではなかったと思います。当日の朝もここまで酷い災害になるとは正直思っておらず、予想を超えるものとなってしまいました。
この西日本豪雨災害で「日頃から備える」事の大切さを痛感しました。
本文はこちら :地域を救った病院・西日本豪雨災害からの学びを生かす
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尾西食品株式会社
・事業内容:長期保存食の製造と販売
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