【PEOPLE】キム・ボラが語る 「はちどり」の世界【第2回】その作家性と深層

2020-06-12 13:40

Written by:大森美紀

「はちどり」は、キム・ボラ監督がアメリカ・コロンビア大学映画科大学院の卒業作品として撮った短編「リコーダーのテスト」(2011)の続編ともいえる作品だ。「リコーダーのテスト」は小学生の少女ウニが兄のお下がりのリコーダーで練習を重ねる日々の中で、不仲な両親や暴力的な兄との関係などが綴られる短編で、米国監督組合学生映画賞やウッドストック映画祭学生短編映画部門大賞などを受賞。この「リコーダーのテスト」のヒロイン、ウニの中学生バージョンを撮りたいというのが「はちどり」のスタート地点だった。2013年のシナリオ完成から2018年の公開まで、5年という長い時間と手間ひまをかけて丁寧に撮り上げている。

「本当に長い時間をかけて準備してきました。製作費を節約するためにずっとひとりでリサーチをしました。1994年に関連する書籍や写真、実際に放送されていたニュース映像をたくさん集めて、すべてを時間帯別に整理し、その中でこの映画に合うものを選びました。当時流行していた音楽もとりあえずいろいろ聞いてみて、その中からウニが好きそうな曲を選んで映画のトーンに合わせたり。低予算映画なので、お金がない分、時間をかけて一生懸命足を運んで調査するしかないんです」

映画の完成度を高めるために努力を惜しまないキム・ボラの熱意はスタッフにも十分に伝わったのだろう、ウニの家族が住むアパートや街並み、部屋の中に至るまで1994年がそのまま再現されている。あまりにも自然な背景に観客はすんなり物語に没入してしまうことになる。背景がわざとらしく見えてしまうとウニの気持ちに寄り添えなくなってしまうからだ。日本におきかえると昭和の時代を描くのに近い感覚といえるだろうか。

キム・ボラ

1981年11月30日生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編「リコーダーのテスト」が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し、注目を集める。同作品は、2012年の学生アカデミー賞の韓国版ファイナリストにも残った。本作「はちどり」は、「リコーダーのテスト」で9歳だった主人公ウニのその後の物語である。

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