[奈文研コラム]積み重ねる時間

 ひょいと人生を超える時間の中で文化財は護り伝えられています。なかでも埋蔵文化財(遺跡や遺物)は私たちの身近にあるので、発掘調査現場を目にされた方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。発掘調査は考古学的な手法を駆使しておこなわれ、しばしば歴史を塗り替えるような発見がにぎやかに報道されることもあります。護り伝えることの比重が大きい文化財の中では、埋蔵文化財は相対的に新しい動きを感じることができるものかもしれません。

 そうした中、調査成果は着実に積み重ねられています。過去の成果に対して、現在の調査技術や知識で臨んで新たな知見が得られることも少なくありません。実際に史跡整備にともなう調査などで過去の調査区を再発掘した話も見聞きします。

 奈文研では継続的な調査の場合に、新調査区と旧調査区を一部重複させることがあります。2021年に藤原宮大極殿院北方で実施した第208次調査では、後殿に関する遺構の有無を現在の調査水準で再検討するため1977年の第20次調査区を内包する形で新たな調査区が設定されました。写真1-1は1977年撮影、写真1-2は2021年撮影の調査区全景写真です。前者は先輩写真技師である井上直夫さん撮影、後者は筆者撮影のものです。さらっと並べていますが、この2枚の写真の間には実に44年もの歳月が流れています。1974年生まれの筆者は3歳、言葉をしゃべり始めた頃に撮影されたものです。その幼児が同じ場所に立って記録写真を撮ってのこしていく。恐ろしいことです。迂闊(うかつ)なことはできません。

写真1−1「調査区全景」(藤原宮第20次調査) 1977年井上直夫さん撮影
写真1−1「調査区全景」(藤原宮第20次調査) 1977年井上直夫さん撮影
写真1−2「調査区全景」(飛鳥藤原第208次調査) 2021年筆者撮影
写真1−2「調査区全景」(飛鳥藤原第208次調査) 2021年筆者撮影

 見比べると調査区内の溝の形状などがほぼ一致しており、調査後の遺構保存状況の良さと調査担当者のレベルの高さを感じます。調査成果は『奈文研紀要2022』に掲載されているので詳しく触れませんが、再精査によって新知見を得ることができました。

「藤原宮大極殿院の調査−208次」
https://sitereports.nabunken.go.jp/129169


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