赤ちゃんの「かわいさ」は逆さになっても分かる  学術誌「Perception」のオンライン早期公開版で研究成果を公開

―オンライン実験で確認―

 四天王寺大学人文社会学部社会学科の藏口 佳奈講師(前 大阪大学大学院人間科学研究科・助教)と大阪大学大学院人間科学研究科の入戸野(にっとの) 宏教授の研究グループは、赤ちゃん顔の「かわいさ」は、顔画像を逆さに提示したときでも同じように判断できることを明らかにしました。
 これまでは、主におとなの顔を使った研究から、画像を上下逆さに提示すると、顔の認識や人物の同定が難しくなることが知られてきました(顔倒立効果)。この現象は、顔を知覚するときには、個々のパーツではなく、パーツ間の位置関係が重要である証拠とされています。
 今回の研究では、赤ちゃん顔を正立または倒立させた状態で「かわいさ」を判断する課題を行いました。コンピュータで合成した赤ちゃん顔の「かわいさ」を評定してもらったところ、顔の向きによる評定値の差は認められませんでした。また、顔を倒立させても、偶然以上の確率で2つの顔からよりかわいい顔を選ぶことができました。これらの結果は、赤ちゃん顔の「かわいさ」は、顔のつくり(パーツ間の微妙な位置関係)よりも、輪郭の丸みや目の大きさなど、赤ちゃん顔によく認められる個々のパーツの物理的特徴に基づいて知覚されることを示しています
 本研究成果は、学術誌「Perception」のオンライン早期公開版に9月4日(月)に公開されました。

赤ちゃん顔の「かわいさ」は、上下を逆さにしても同じように知覚できる。

研究成果のポイント

●顔の印象は、画像を上下逆さに提示すると判断しにくくなると言われてきた。
●しかし、赤ちゃんの顔の「かわいさ」は、逆さにしても同じように評価できることが明らかとなった。
●「かわいさ」は、丸みを帯びた顔や大きな目といった個々のパーツの特徴によって知覚される。
●80年前に提案されたベビースキーマ説を支持するデータが得られた。

◎研究の背景
 「かわいさ」(cuteness)は、刺激がもつ特徴の一つです。丸みを帯びた顔の輪郭や広い額、大きな目といったものに対して、私たちはかわいいと感じる傾向があります。このような現象は、いまから80年ほど前に動物行動学者のコンラート・ローレンツにより提案されました(ベビースキーマ説)。
 一方、人の顔に対する印象は、画像を上下逆さに提示すると判断しにくくなることが知られています(顔倒立効果)。この現象は、顔の知覚には、個々のパーツの特徴ではなく、パーツ間の位置関係が重要である証拠とされてきました。
 ローレンツは、「かわいさ」の知覚には、丸みを帯びた顔や大きな目といった個別の要素的な特徴が影響すると提案しています。もし、この考えが正しければ、これまで成人顔で報告されてきた顔倒立効果は、赤ちゃん顔の「かわいさ」の知覚には当てはまらないかもしれません。そこで本研究では、赤ちゃん顔の「かわいさ」の判断が顔画像を上下逆さに提示することで変わるかどうかを検証しました。

◎研究の内容
 本研究では、20~71歳の日本人男女299名を対象にオンライン実験を行いました。まず、コンピュータで合成した6ヶ月児の赤ちゃん顔画像12枚から、「かわいさ」の平均評定値が高かった顔6枚と低かった顔6枚を1枚ずつ見せて、それぞれの「かわいさ」を7段階で評定してもらいました(1:まったくかわいくないー7:非常にかわいい)。次に、「かわいさ」の程度を増減させた別の合成顔のペアを9対見せ、どちらの顔がよりかわいいと感じるかを選択してもらいました(図2)。このとき、顔画像の上下が正しく提示されている顔(正立顔)を判断する群と、上下逆さに提示されている顔(倒立顔)を判断する群を設けました。また、比較のために赤ちゃん顔の「美しさ」を正立顔と倒立顔について判断する群も設定しました。実験参加者は4つの群のどれか1つに参加しました。

「かわいさ」を評定する課題とよりかわいいと感じる顔を選択する課題を実施した。

 実験の結果、赤ちゃん顔の「かわいさ」の評定値は、顔を逆さにしても低下しないことが分かりました。また、「かわいさ」の平均評定値が高かった顔と低かった顔の差も同様に変化しませんでした(図3A)。さらに、2つの顔からよりかわいい顔を選択する課題の成績も、顔画像の向きにかかわらず、偶然よりも高くなりました(ただし、倒立顔ではわずかに成績が下がりました。図3B)。同様の結果は、赤ちゃん顔の「美しさ」を評価・判断するときにも得られました。
 これらの結果は、赤ちゃん顔の「かわいさ」は、上下逆さになっても同じように知覚できることを示しています。「かわいさ」のわずかな違いを判断するときには目・鼻・口などの相対的な位置関係も利用されますが、主には、個々のパーツの特徴(丸みを帯びた顔の輪郭や大きな目など)に基づいて「かわいさ」は知覚されるのです。この知見はローレンツのベビースキーマ説と一致しています。

A. 赤ちゃん顔に対する「かわいさ」の評定値は、通常の向き(正立顔)でも、上下逆さ(倒立顔)でも差がなかった。 B. 2つの顔からよりかわいい高い顔を選択する割合は、顔の向きによらず、偶然よりも高かった。しかし、倒立顔ではやや成績が下がった。エラーバーは95%信頼区間を示す。

◎本研究成果の意義
 本研究から、赤ちゃんの顔の「かわいさ」は、おとなの顔の魅力とは異なり、パーツの間の位置関係というよりも、輪郭の丸みや目の大きさといった赤ちゃん顔によく認められる個々のパーツの特徴に基づいて知覚されることが分かりました。この知見に基づけば、たとえば「かわいい」と感じられるロボットやイラストを創作するときには、顔パーツの配置を工夫するよりも、「かわいい」と感じられる個々の要素を組み合わせるのがよいといえます。

◎特記事項
 本研究成果は、学術誌「Perception」のオンライン早期公開版に9月4日(月)に掲載されました。
タイトル: “Face inversion effect on perceived cuteness of infant faces”
著者名 : Kana Kuraguchi and Hiroshi Nittono
DOI   : https://doi.org/10.1177/03010066231198417

本研究は、JSPS科研費21K13679、21H04897の助成を受けたものです。
受理された原稿は、 https://osf.io/t6sd2 から閲覧・ダウンロードできます。

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