【名城大学】狂言師と建築家、共に極める異色の二刀流?!
スイッチを自在に切り替え、多忙な日々も楽しみたい
学生でありながら、狂言師としてすでに活躍している井上さん。学業のかたわら稽古に励み、年5〜6回行われる公演を中心に年間50日も舞台に立っています。
しかも、井上さんが在籍するのは、課題が多く忙しいと評判の建築学科。どのように狂言師としての活動と学業を両立させているのか、将来はどの道に進むのか、
せっかくなので日頃稽古や公演で舞台に立っている名古屋能楽堂で語ってもらいました。
狂言との関わりや魅力を教えてください。
狂言師の家に生まれ、物心がつく前、3歳から稽古を始めました。気がついたら生活の中に能楽、狂言があったという感じです。
古典芸能って、古くさくて難しそうなイメージがありますよね。でも、狂言っていわゆるお笑いの演目が多いんですよ。台詞は昔の言い回しですが、現代の人でもクスッと笑える内容で、舞台を見たら笑いのツボって昔も今も変わらないなぁと感じてもらえると思います。僕は演じる側なので、お客さんが笑ってくれるのが一番嬉しいですね。
建築学科を選んだ理由は?
狂言師なので芸術大学に進むという選択もありました。でも、進路を決めるときに、自分が好きなものは何だろう、何を学びたいのだろうと考えてたどり着いた思いが「ものづくりを学びたい」。それなら建築学科にしようと、すんなり心が決まりました。
というのも、幼い頃からものづくりが好きで、中でもプラレール(鉄道のおもちゃ)の線路の組み立てには夢中になりました。電車を走らせるよりも線路の組み立てが好きだったんです。少し電車を走らせたら、すぐに壊してまた線路を組み立てるっていうのが楽しくて、そればっかり。振り返るとその頃から何かを作るということが好きだったのかなと。他にも家を建てたりリフォームしたりというテレビ番組が大好きで、建築学科を選んだことに納得しています。
建築学科ではどんなことを学んでいますか?
僕はまだ1年生なので、建築に関することを幅広く吸収している段階です。入学してから「ああ、これも建築なんだ!」と気づくことも多く、今は建築環境に興味が湧いています。建物の音響、照明、室温、設備の配置といったものを取り上げた授業が面白くて。
ちょうどここ(名古屋能楽堂)の舞台もすごく環境を計算して作った建物ですよね。建築を学び始めてから一層舞台や客席といった細かい部分に目がいくようになりました。能楽堂に関して言えば、舞台の下に大きな甕(かめ)が複数埋め込まれていて、役者がその上で台詞を言ったり、足踏みをしたりすると響くように作られているそうです。昔の人の知恵ってすごいなぁと建築を学び始めたことがきっかけで改めて感心しています。
学業と狂言師としての活動をどう両立させていますか?
大学の学部学科を決めるときに「建築学科は課題も多いし、忙しくなるけど大丈夫?」と母が心配していたのですが、噂通りでした(笑)。先日も模型の提出が迫っていたのでクリスマスは何のイベントにも参加することなく過ぎ去りました。でも、好きなことなので取り組んでいると時間が経つのも忘れてしまいます。
狂言の稽古は、特に台詞覚えが一番大変なんですが、それはもう生活の一部になっています。移動の電車の中やお風呂に入りながら、ちょっとした待ち時間などの隙間に台詞を覚える癖がついています。自分の中に狂言の稽古と学業、プライベートを切り替えるスイッチがあって、こまめにオンオフしているような感じです。「今から台詞を覚えるぞ」「ここからは勉強の時間」ではなく、意識せずに切り替えているので、あまりストレスは感じていません。
狂言師としての活動が大学生活のプラスになることはありますか?
メンタルの強さですね。舞台では何が起こっても演じ続けなければなりません。台詞を忘れたり、動きを間違えたり、お客さんの携帯電話が鳴ってしまうことも。そんな時でも何事もなかったかのように演じることが肝心。そういう経験からメンタルが鍛えられたし、一発本番にも強くなりましたね。
なので、試験では集中して実力を発揮できたり、難しい課題にぶつかってもなんとかなると思ったり。狂言師としての経験を積むことでそういう力がついてきたと思います。
名城大学の魅力とは?
高校までとは桁違いに多くの学生、先生たちと出会えるのが何よりの魅力です。いろいろな考え方や生き方の人がいて毎日刺激を受けています。こんな風に多種多様というか、自分とは違う人たちと繋がれるのは、名城大学の学生だから体験できること。とはいえ、まだまだ交友範囲が狭いので、残り3年でもっと人との繋がりを増やしていきたい。
僕は生粋のオタクなんです。アニメやゲームが大好きなのですが、これからはオープンにオタクアピールをして、学部や学年関係なく多くの人と交流したいです。ちなみに鉄道研究会にも所属していて、忙しいとなかなか参加できないのですが、行くと楽しい発見や学びがあって、大好きですね。実は父も年季の入った“鉄ちゃん”。父は学祭にも遊びに来て、鉄道研究会の巨大ジオラマに感動していました。
将来の展望を教えてください。
建築を勉強し始めてようやく一年、その面白さに気付き始めたところです。学んでいくうちにもっといろいろなものに興味が出てくると思います。
もちろん、狂言師としての活動にもやりがいを感じていて、本業になるのか副業になるのかわかりませんが、一生続けていきたいと思っています。というところで、将来は全くの未知数。狂言師としての道、建築家としての道、欲張ってどちらも本気で極めていければいいかなと思っています。
理工学部 建築学科1年 井上蒼大(いのうえそうだい)さん
愛知県名古屋市出身。代々続く和泉流山脇派の和泉流山脇派方の家に生まれ、4歳で初舞台を踏んだという狂言師。舞台で見せる迫力ある姿とは裏腹に、プライベートでは人前に出るよりも裏方が好きという一面も。好きな言葉は「楽」。能楽の楽でもあり、なんでも楽しんで取り組むことを大切にしているのだとか。