鉄が欠乏する不良土壌でも育つオオムギの変異を解明
東京農業大学(所在地:東京都世田谷区、学長:高野 克己※)では、樋口恭子教授らのグループがオオムギの品種の一部が鉄欠乏症に非常に強いことに着目し、世界中のオオムギ約20品種の鉄含量と光合成速度を解析、中央・西アジアなどのアルカリ土壌地帯(補足資料図3)で栽培されている品種では、少ない鉄を利用して効率よく光合成が行えるよう遺伝子が変異していることを突き止めました。(Plants誌で1月25日公開)
鉄は植物の光合成(補足資料1ページ)に不可欠の元素ですが、アルカリ性の農地では水に溶けにくく、多くの植物が鉄欠乏症となり不作が問題となってきました。
鉄を吸収しにくい不良土壌での生育向上を目指す研究はこれまで、鉄を吸い上げる根の機能に注目して行われてきましたが、今回の成果は光合成能力を増強する遺伝子の選抜・改変研究にも大きな可能性があることを示すもので、オオムギのほかコムギ、トウモロコシなど多くの作物で作付面積拡大や増産につながることが期待されます(補足資料2ページ)。
今回、鉄欠乏症に強い品種が見つかったのは中央・西アジアや地中海沿岸、北米大陸中西部などのアルカリ土壌地帯です。こうした農地でも比較的収量が多い品種を、農家や農業試験場が長年育種してきた結果、光合成に必要な遺伝子が変異した品種が選抜され残ってきたと考えられます。
我々の解析で、光化学系の反応中心に光のエネルギーを渡すLhcb1の遺伝子がイネゲノムには3個しかないのにオオムギゲノムでは17個に増えており、この変異によって、鉄が足りずに壊れてしまう光化学系Iを守っていることが分かりました。また、特に鉄欠乏症に強い品種では光化学系Iに鉄節約機構があることが判明したことから、光合成の鉄欠乏耐性にはもっと多くの遺伝子が関与していると考えられます(補足資料図1・図4)。
今後さらに変異遺伝子を探し出し、オオムギが厳しい環境でも育つ適応機構の全容を解明していく必要があります。そのためには今回の研究で有効性が確認された「光合成鉄利用効率(PIUE)」という新指標を活用します(補足資料1~2ページ)。これは鉄1モル当たり何モルの二酸化炭素を有機物にできるか、という指標です。光化学系における鉄利用効率を数値化できたことで、QTL解析という分子遺伝学の手法を用いて未知の有用遺伝子を発見することも可能になります。
補足説明資料