[奈文研コラム]鯛で金を磨く

荘厳華麗な表現を目指すために

 わたしには、どうしても手に入れたいものがありました。それは、「鯛の歯」です。研究の一環でおこなっている彩色復元で、絵具の配色や色調を試す際、髪の毛ほどの細さに切った金箔で文様を描く截金(きりかね)【写真1】の高度な技法を再現するために、代用の金泥に使う鯛の歯がどうしても必要でした。そんな折に、宿泊した旅館で偶然にも尾頭付きの鯛の煮つけをいただき、念願の鯛の歯を手に入れることができました。

 金泥は、金箔や金粉を膠(にかわ)で練ってつくった絵具です。金の細かい粒子が光を乱反射するため、その輝きは金箔よりも鈍くなってしまいます。銀泥も同様に、銀箔よりも鈍く白っぽい輝きとなるのですが、そんな金泥や銀泥をどうしても箔のように輝かせたい・・・、そんな時に活躍するのが「鯛の歯」なのです。この鯛の歯で金泥や銀泥を優しく磨くと、金銀の粒子が平滑になり、金箔や銀箔のような光沢を得ることができます。

両手に持った筆で截金をほどこす様子
両手に持った筆で截金をほどこす様子

 細かい作業に向いた形状、絶妙な硬さと滑らかさを持つ鯛の歯でつくった鯛牙(たいき)は、蒔絵や金継ぎの技法にも使用されています。わたしも旅館でいただいた鯛の歯でさっそく鯛牙をつくりました【写真2】。

作製した鯛牙と金泥
作製した鯛牙と金泥

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