「動く繊毛」が運動装置であると同時に 感覚器でもあることが明らかに
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)機械制御システム学科教授 吉村建二郎、生命科学科教授 渡邉宣夫、京都産業大学(京都府京都市/学長 黒坂光)産業生命科学科教授 若林憲一らの研究チームは、体内の細胞にも存在する「動く繊毛」が、衝突、振動、せん断力、滑り力というさまざまな機械刺激をTRP11という受容体型イオンチャネルで感じ、繊毛の運動パターンを変化させていることを明らかにしました。
繊毛やイオンチャネルは生物の基本的な機能を支えており、それらの基礎的な機能を明らかにすることにより、各種疾患の原因解明や治療法開発につながると期待されます。
ポイント
・「動く繊毛」が環境から受ける機械刺激の種類によって運動パターンを変えている
・「動く繊毛」が運動装置であると同時に感覚器であることが明らかになった
研究の概要
動物の繊毛は「動く繊毛」と「動かないが感覚器として働く繊毛」の2種類があると考えられていました。しかし、「動く繊毛」が感覚器としての機能を持つかはよく分かっていませんでした。そこで、単細胞生物のクラミドモナスを用いて「動く繊毛」が、力や変形という機械刺激を感じるかを調べました。その結果、衝突、振動、せん断力、滑り力というさまざまなタイプの機械刺激を繊毛にあるTRP11という受容体型イオンチャネルで感じ、そのタイプに応じて繊毛の運動パターンを変化させていることが明らかになりました。この成果は、動く繊毛が周囲の力学的環境を自ら感じ、運動を制御しているという新しい可能性を示しています。繊毛という微細な装置に、汎用性が高いセンサーと多機能な運動装置が備わっているということは生物の精緻さを考える上で興味深い発見です。
今後の展望
繊毛が運動装置であると同時に感覚器であるという新しい見方が、さらに広がる可能性があります。つまり、機械刺激以外に化学刺激や熱刺激にも感受性がある可能性を示唆しています。すでに、クラミドモナスの繊毛はトウガラシの辛味物質であるカプサイシンなどの化学刺激にも反応することを報告しています。また、生存に適した温度に移動する行動(走熱性)のために、温度センサーも持ち合わせているのか、現在研究を進めています。
繊毛やイオンチャネルは生物の基本的な機能を支えています。そのため、その異常は繊毛関連疾患やチャネル病というさまざまな疾患群の原因となります。本研究で、繊毛とイオンチャネルの基礎的な機能を明らかにすることにより、それら疾患の原因解明や治療法開発につながることが期待されます。
論文情報
著者:
吉村建二郎 (芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科教授)
渡邉宣夫 (芝浦工業大学システム理工学部生命科学科教授)
若林憲一 (京都産業大学生命科学部産業生命科学科教授、
東京工業大学化学生命科学研究科特定教授)
吉田愛美 (芝浦工業大学博士課程機能制御システム専攻ポスドク研究員)
大島大地、辻美憂 (芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科)
嵯峨康佑、伊藤音緒 (芝浦工業大学大学院理工学研究科システム理専攻)
井須敦子 (東京工業大学化学生命化学研究所)
論文名:
Mechanoresponses mediated by the TRP11 channel in cilia of Chlamydomonas reinhardtii
掲載誌:iScience (Cell Press)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.107926
研究助成
本研究はJSPS科学研究費基盤研究(C) JP22K06228、学術変革領域研究(A)JP22H05690、JP22H05674、新学術領域研究(研究領域提案型)JP21H00420、AMED-PRIME JP18gm5810013の助成を受けたものです。
配信先
京都大学記者クラブ、在阪民放四社京都支局連絡会議、大阪科学・大学記者クラブ、文部科学省記者会