継続率97%!オンライン×毎朝短時間で楽しく運動継続 -高齢者向けオンライン健康づくりシステムに関する研究成果を発表-
公益財団法人 明治安田厚生事業団(本部:東京都新宿区、理事長:中熊 一仁)は、株式会社電通国際情報サービス(本社:東京都港区、代表取締役社長:名和 亮一)、八王子保健生活協同組合(東京都八王子市、理事長:杉本 淳)、公益社団法人日本エアロビック連盟(東京都品川区、理事長:知念 かおる)と共に展開中の高齢者向けオンライン健康づくりシステムの実証研究の一環として、オンライン軽体操プログラムの実行可能性などについて検証しました。その結果、高頻度短時間の軽体操教室は高齢者の参加率と継続率が高く、安全に楽しく実践できることがわかりました。この研究成果が、高齢者の健康にかかわる新技術の開発や評価などをテーマとする国際学術雑誌「JMIR Aging」に掲載されました。
ポイント
◎コロナ禍における高齢者の運動機会向上のため、自宅から参加できるオンライン運動プログラムに着目
◎2021年の緊急事態宣言実施中に8週間、平日毎朝20分間の高齢者向けオンライン軽体操教室を運営
◎高頻度短時間のオンライン軽体操教室の参加率は97.4%と非常に高く、高齢者が安全に楽しく実践できることがわかった
研究の背景
長引くコロナ禍で社会的交流や身体活動の機会が減少するに伴い、高齢者の心身機能の低下が懸念されています。その解決策として、ビデオ会議プラットフォームを介し自宅で取り組める、相互交流可能なオンライン運動プログラムに注目が集まっています。しかし、どうやってICT機器に不慣れな高齢者が問題なくオンラインで参加できるようにするか、どのように自宅で安全に楽しく運動してもらうか、どう継続してもらうかなど、高齢者向けのオンライン運動プログラムの普及には課題が残ります。
そこで我々は高齢者向けオンライン健康づくりシステムの共同実証研究の一環として、タブレットを使用し自宅から参加する高齢者向けオンライン軽体操教室を運営し、その実行可能性(継続率や参加率)、安全性、楽しさ、そしてICT機器を含むシステムの使いやすさを検証しました。
対象と方法
本研究は八王子保健生活協同組合の組合員である高齢者16名(68~87歳)を対象に実施しました。研究参加者は緊急事態宣言実施中に8週間(2021年2月1日~3月31日)、平日(月曜日~金曜日、祝日を除く)毎朝20分間、タブレット端末上のビデオ会議プラットフォームアプリを介して、オンライン体操教室に参加しました。
運動プログラムには、音楽に合わせて楽しく実践できる軽体操「スローエアロビック(R)」を採用しました。我々はこれまでに、高齢者がスローエアロビックを実施した場合、短時間であっても認知機能や気分が向上することを確認しており、自宅で安全に楽しく実践できる、効果的な運動プログラムとして適していると考えました。
※スローエアロビック(R)は公益社団法人日本エアロビック連盟の登録商標です。
参加者には、4つの機材(タブレット、スマートフォン、Wi-Fiルーター、心拍センサー)を貸与しました。安全性の観点から、貸与したタブレット端末にインストールしたアプリから毎朝、参加者の健康状態に関するアンケートを実施し、情報(運動当日の体調と血圧)を取得しました。また教室中の安全性担保を目的に、株式会社電通国際情報サービスが運動中の心拍データをリアルタイムでモニターできるアプリを開発しました。参加者が前腕に装着した心拍センサーをスマートフォンと連携させることで、心拍データをリアルタイムで一元管理することが可能になりました。教室中は研究スタッフが常時心拍データと参加者の様子をモニタリングし、運動中の安全管理を行いました。
オンライン軽体操教室の概要
本研究では体操教室の継続率、参加率、教室の安全性、楽しさ、システムの使いやすさを評価しました。教室の安全性評価には運動強度(心拍予備率*1)と教室中の有害事象の発生数を用いました。教室の楽しさを評価するため、運営期間中に4回(1、3、6、8週終了時点)、電話でインタビューを行い、教室の楽しさを11段階(0~10点)で評価しました。システムの使いやすさは、8週間の教室終了後の電話インタビューで調査しました。
結果
●継続率
高血圧の参加者1名が、1週目から体操教室前に高い血圧(180mmHg以上)を継続して報告したため、安全上の理由から、2週目で参加を辞退しました。これにより継続率は93.8%(15/16人)となりました。
●参加率
参加者15名における教室参加率の中央値(四分位範囲)は97.4(94.7-100)%でした。
●教室の楽しさ
「まったく楽しくない」を1点、「とても楽しい」を10点とし、参加者の回答を集計しました。スコアは1週目に比べて、6週目と8週目で有意に増加しました。
●教室の安全性
平均の心拍予備率は29.8±6.8%であり、運動の強度は超低強度から低強度の範囲であることが確認されました。運動中の有害事象はありませんでした。
●システム全体の使いやすさ
参加者のうち、4名は最初から機器の操作に問題はなかったと回答しました。残りの参加者11名は、教室開始当初は画面をタッチするという基本操作や慣れないアプリ操作などで困難さを感じていたが、使用していくうちに操作に問題はなくなったと回答しました。全期間を通して「ICT機器を操作できない」と回答した参加者はいませんでした。
筆頭著者のコメント
本研究では、コロナ禍において高齢者の運動・社会参加の頻度を高める手段として、自宅でおこなう高頻度短時間のオンライン軽体操教室に着目し、実行可能性などを検証しました。その結果、参加率は97.4%、継続率は93.8%と非常に高く、教室の楽しさを評価する指標は介入期間を通して向上し、使い勝手にも大きな問題がないことが示唆されました。これにより、ICTに不慣れな高齢者でも、オンライン運動プログラムを継続的に、かつ楽しく実践できることがわかりました。
高齢者向けオンライン運動プログラムに関する先行研究では参加率や継続性に課題が残っていましたが、私たちの研究では、毎朝20分間という高頻度かつ短時間で強度の低いプログラムを提供にしたことにより、極めて高い参加率と継続率が確認できました。この結果は、どのようにオンラインを活用し高齢者の運動機会を創出するか、効果的な手法を考案する一助になると考えています。継続的に運動機会を創出し身体活動を促進することで、健康増進に繋げることが期待できます。また今回私たちが使用したシステムはコロナ禍以外でも、例えば、環境的・身体的な要因により外に出て運動教室などに参加することが困難な人々にとっても有用なシステムになる可能性があります。今後は長期的な教室の継続性や、心身の機能に与える効果を検証していく予定です。
発表論文
掲載誌 :JMIR Aging
論文タイトル:Feasibility, Safety, Enjoyment, and System Usability of Web-based Aerobic Dance Exercise Program in Older Adults: Single-Arm Pilot Study
著者 :Kazuki Hyodo, Tetsuhiro Kidokoro, Daisuke Yamaguchi, Michitaka Iida, Yuya Watanabe, Aiko Ueno, Takayuki Noda, Sumiyo Nishida, Kenji Kawahara, Yuko Kai, Takashi Arao
DOI番号 :https://doi.org/10.2196/39898
用語解説
1)【心拍予備率】
運動の強度を表す指標の一つ。(運動中の心拍数-安静時心拍数)/(最大心拍数-安静時心拍数)×100[%]という式で求められる。40%未満は低強度以下の運動と定義される。本研究では、208-0.7×年齢で予測最大心拍数を求めた(Tanakaら, 2001)。
利益相反
著者には開示すべき利益相反はありません。
財源情報
本研究はJSPS科研費JP19K20138を受けて実施しました。記して深謝します。