IEEEメンバー  人工衛星搭載センサでの降水観測研究の第一人者  宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター 久保田拓志研究領域主幹が提言を発表

2022-01-13 15:00

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、気象観測技術など世界的な諸課題に関してもさまざまな提言やイベント、標準化活動を通じ技術進化へ貢献しています。IEEEメンバーである宇宙航空研究開発機構(JAXA) 地球観測研究センター(EORC)の久保田拓志研究領域主幹は、人工衛星に搭載した観測センサで地球各地の降水量を観測することで世界の豪雨や干ばつを解析する研究に長年取り組んでおり、今回提言を発表しました。

宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター 久保田拓志研究領域主幹

久保田主幹によると宇宙から地球の降水を見る利点は、地上では観測できない海上などの場所を同じ時間間隔、同じ正確さで見ることができる点です。長期的に観測データを集めることで、局地的な観測では分からない因果関係や地球全体で起こっている気候変化を解明できると期待されています。また観測された衛星データは地球温暖化に代表される気候変動の予測に利用される数値気候モデルの改良にも利用されています。

米プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏はコンピューターシミュレーションを使った数値気候モデルの確立と二酸化炭素(CO2)増加が地球温暖化につながる基礎的な関連を導き出したことを理由として2021年にノーベル物理学賞を受賞しました。2001年7月に、旧宇宙開発事業団(現・JAXA)の職員に向けて、真鍋氏が講演した際に、衛星観測が数値気候モデルにますます重要になることを提言されました。久保田主幹の研究は真鍋氏の提言を実現させるものとも言えます。実際に京都大学大学院理学研究科で気象学を研究していたときに真鍋氏の講演を聴講したそうです。久保田主幹は大学時代からエルニーニョ現象など地球の気候メカニズムを研究し続けています。

衛星から地球の気象を観測する研究に関わるようになったのは、2005年に科学技術振興機構(JST)研究員になったことがきっかけだったそうです。同職で衛星全球降水マップ(GSMaP)のプロジェクトに参加して以降、2007年にJAXAへ異動後も衛星降水観測の第一線で活躍することになりました。GSMaPは2002年にJST戦略的創造研究推進事業(CREST)「水循環系モデリングと利用システム」研究領域の研究課題の一つとして採択され、衛星からのデータを使った雨分布データセットを作成するものです。大阪府立大学の岡本謙一教授(当時)が代表を務め、JST/CREST終了後もJAXAでプロジェクトが進んでいます。

衛星による地球の降水観測に技術的な革新をもたらしたのは、1997年11月に、日米共同プロジェクトとして種子島宇宙センターからH-IIロケットで打ち上げられ、2015年4月まで観測を続けた熱帯降雨観測衛星(TRMM)でした。この衛星には、世界で初めての衛星搭載降雨レーダが日本によって開発、搭載されて、これまで陸上の限られた地点データでしか捉えられなかった降雨の日周変化・季節変化を初めて広域かつ面的に定量化した情報をもたらしました。

TRMMの後継となるミッションが全球降水観測(GPM)計画です。日米だけでなく、フランス、インドなども加わる国際プロジェクトで、2014年2月に主衛星が打ち上げられました。この計画は降水レーダを中心に質の高い観測データを多く集めることで地球規模の降水の分析の精度を高めようというものです。GPM主衛星には、日本が開発した世界初の二周波降水レーダ(DPR)を搭載し、降水を高精度に観測しています。DPRは雨や雪を区別できより詳細な降水状況を把握できます。久保田主幹は日本が開発したDPRによる2つの周波数による降水観測の取り組みに参画するすると同時に、最近ではDPRより進化した次世代降水レーダの研究に取り組んでいます。

またGPM計画では、コンステレーション衛星群(GPM計画に参加する各国・機関の人工衛星群)による多くの衛星で観測することで頻度の高い降水観測を実現します。マイクロ波放射計というセンサを搭載した約10基の衛星から観測した結果をDPRと組み合わせることでGSMaPに統合し、地球全体の降水を把握しています。GSMaPは北南極部を除き、10キロメートル幅のメッシュで1時間ごとの降雨状況を把握することができます。GSMaPを提供するJAXA/EORCの「世界の雨分布速報」には、約140カ国の約8,600人がデータ取得のための登録をしています。

一方で、久保田主幹はTRMMとGPMのデータで数値気象モデルや数値気候モデルを分析する研究にも取り組んでいます。またGPMで観測したデータは着実に蓄積されており、これまで観測できなかった中高緯度の降水データも多く集められています。2016年3月からは気象庁の数値予報システムにもGPM観測データが採用され、予測の精度向上に役立っています。

データの質向上への取り組みはあらゆる方向で進んでいます。久保田主幹はこれまで使っていなかった人工衛星の観測センサを使うことで、積もった雪と降雪を区別する技術を研究しています。DPRとマイクロ放射計を組み合わせる手法の改良や、機械学習により性能向上を目指す研究もあるそうです。

2023年度には日本が開発した雲レーダを搭載した雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星の打ち上げも予定され、久保田主幹はその活用にも取り組んでいます。データ分析でも、農業への利用や洪水の予測といったテーマの研究が活発です。久保田主幹によると、GPMにより初めて日本の東海上の低気圧の立体的な降水分布が確認できました。今後、EarthCARE衛星のような新しい観測データも得られるようになり、気候メカニズムの研究は一層進むことになるようです。短期的な気象予報の精度も高まり、中長期的な気候変動もより詳細に分かることでしょう。

人工衛星のプロジェクト情報については https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/ をご覧ください。

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詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。

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