『人民日報海外版日本月刊』が 早稲田言語学院副理事長 張リンシン氏の インタビュー記事を掲載

『人民日報海外版日本月刊』は、早稲田言語学院副理事長 張リンシン氏のインタビュー記事を公開いたします。
コロナ禍が席巻した二年間、多くの留学教育機関が痛手を被り、再編が加速しました。ところが、早稲田言語学院の一連の先駆的な改革は業界の注目を集め、話題の中心となりました。秘かに当校に注目してきた記者は、終に「入学」の機会を手にし、改革の創始者である張リンシン副理事長を取材しました。記事内容を紹介いたします。

早稲田言語学院副理事長 張リンシン 1

中国人学生に日本に来たことを後悔させない

―― 先生は慶應義塾大学を卒業後、世界第三位の農業機械メーカーで5年間ソフトウェア開発に従事し、現在、早稲田大学大学院でMBA課程を専攻しておられます。理系専攻の先生が、留学生の教育事業に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか。また、指標としておられることは何ですか。

(張リンシン)
 私は幼い頃から教育事業に携わりたいと思っていました。それは私の経歴に由来しています。私は10歳の時、来日しました。日本に来る前、勉強は苦手でした。日本に来て、日本語が話せない状態で小学校に転入しました。私は中国と日本の両方で、学習の壁と言葉の壁にぶつかったのです。

こうした経験から、子どもがどんな学習態度で、どんな学習習慣を身に着け、最終的にどんな大学に進学するかは、教師の影響が大きいということに気づきました。

良い教師に出会えば、授業への集中力は高まり成績は向上しますが、そうでなければ、その教科を嫌いになってしまいます。私は幸いなことに良い先生方に恵まれ、勉強が苦手で日本語も話せなかった転入生が生徒会長まで務め、日本の名門大学である慶應義塾大学に進学し、自己に挑み、自己実現する機会を得ることができました。今日に至るまで、先生方には大変感謝しています。

日本への留学を選択した中国の若者たちは、ゼロから出発する勇気をもった子ども達です。私は彼らが日本で自己に挑み、自己実現することを心からサポートしたいと思っていますし、彼らがその過程でどれほど多くの困難に直面するかも知っています。彼らが来日してすぐ優秀な教師に出会えれば、日本のトップクラスの大学に進学でき、可能性が広がります。最後に彼らが日本への留学は正しい選択だったと思ってもらえることを心から望んでいます。

若者達の勇気の翼を折ったり、挑戦しようとする若者達を挫折させたり、努力が報われないようなことがあってはなりません。それが私の留学教育事業における使命であり指標でもあります。

早稲田言語学院副理事長 張リンシン 2

三大改革で教師をコーチに

―― 早稲田言語学院といえば、中国人留学生の間で評判の語学学校です。個人的にも、貴校で学びたかったという複雑な気持ちがあり、業界で貴校の改革が注目を浴びていると聞き、すでに、十分に優れた教育機関であるのに、どんな発展の可能性が秘められているのだろうと思いました。具体的な改革についてお話しいただけますか。

(張リンシン)
 私は新型コロナウイルス感染症が拡大する直前の2019年12月に副理事長に就任しました。コロナ禍が世界を覆い、各国の留学教育機関は大きな痛手を受けました。しかし、今振り返ってみれば、コロナ禍が改革に専念するための特別な時間を与えてくれたと感じています。

私が主導した改革は、主に三つに集約されます。一つ目は、中国人に特化した日本語会話力向上メソッドの開発。二つ目は、教授法のグレードアップ。三つ目は、教師の役割の再定義です。

先ず、中国人に特化した日本語会話力向上メソッドの開発についてですが、当校は一貫して中国人留学生の進学指導に力を入れてきました。彼らは、筆記試験は得意で読解力も優れていますが、会話は苦手です。そこでコロナ禍において、会話力の向上を目的とした新しい教材の研究開発を行いました。新しい教授法に沿って、より多くの時間を『話す日本語』に費やします。文法や読解の講義を集中的に行い、学生は、そこで学んだ文法を会話の練習で最大限に活用し、会話力を高めながら、知らず知らずのうちに必要な文法を覚えることができます。われわれは、実践練習が記憶の最良の方法であると考えています。海外生活では会話がすべての基盤であり、新しい知識を得て、新しい社会に溶け込むことができるかどうかの鍵となります。読解力と筆記試験に優れた中国人留学生は、この教材によって会話力を大きく向上させることができます。

次に教授法のグレードアップについてですが、すべての教師の教授法を調整して体系化し、授業ごとに具体的な目標を設定しました。目標をクリアした学生は当校が作成したシールを付けることができ、ゲーム感覚で取り組むことができます。さらに、必要とする学生に、より良いサービスを提供するために、全日制のコースを開設しました。受験する学校が異なるため、一人ひとり準備すべき試験内容も異なります。EJU(日本留学試験)の日本語スコアだけが必要な学生もいれば、数学、物理、総合科目を受験科目とする学生もいます。全日制のコースでは、日本語学習以外の異なった学生のニーズに応じます。2021年から開始し、現在20名の学生を対象に実験的に行っている段階ですが、一定の成果を得ています。

最後に、教師の役割の再定義についてですが、スポーツ選手がコーチを必要とするように、受験生にも自信とモチベーションを与えてくれて、日本での進学を全方面でサポートしてくれるコーチが必要であると考えます。教師は一方的に教えるのではなく、学生の成長に応じて段階的に課題を与え、目標は常に学生の能力より少し高めに設定し、調整を加えていくべきです。そうすることによって、学生は常に進歩し達成感を味わうことができます。また、何のために受験するのかを明確に意識させ、納得した上での自主的な努力を促しています。

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最大の反対者が最強のサポーターに

―― 早稲田言語学院には、日本の一流大学を出た優秀な教員が多く、経験も豊富です。彼らに三大改革は受け入れられたのでしょうか。実際の反応はいかがでしたか。

(張リンシン)
 当校の教員はみな、長年教授法を磨き、より新しくより良いものを常に追求していますので、ほとんどの教員が支持し、改革に参画してくれました。もちろん、新しい改革に懐疑的な人もいましたが、そういった疑問や反対意見を大事にしています。

私にできることは、反対意見を消し去ることではなく、最も強く反対する教員に改革に参画してもらい、責任者をやってもらうことでした。疑問の声や反対意見は改革を進める上で、最も重要な部分だと思うのです。異なった意見にしっかり耳を傾けることで、改革を進める過程で遭遇するであろう問題を事前に指摘することができます。従って、われわれは計画を策定するプロセスで、まずそれらの問題を適切に処理しなければなりませんでした。継続的な議論と改善を経て、われわれは誰もが受け入れ、より学生に適した改革案を導き出すことができました。

当校のすべての教員は、学生の日本語を総合的にレベルアップし、学習意欲を高め、より多くの中国人学生を日本の名門校に進学させるという共通の目標をもっています。三大改革が速やかに進み、認められたのは、プロの教育者チームによる努力の賜物なのです。

学生の参加意識と達成感を高める

―― 学生たちの、新しい教材および教授法に対する反応はいかがですか。

(張リンシン)
 学生たちの反応は予想以上に良いものでした。実験段階で、新しい教材を使用した学生とこれまでの教材を使用した学生の違いは、三カ月の試験の結果に明確に現れました。新たな教材と新たな教授法によって、学生の日本語は明らかにレベルアップし、リスニング試験において特に顕著でした。

いちばん嬉しかったのは、学生たちが授業に積極的に取り組むようになったことです。目標を設定する→目標を達成する→検証するというステップを経て、学校が作成したシールを貼り、成長を可視化することで、授業への参加意識と達成感が高まりました。さらに若者の心理的ニーズを満たしたことで、より熱心に予習と復習に取り組むようになりました。

学生がグループをつくり、教師が「伴走」するスタイルも評判でした。グループ内で自身の毎週、毎月の目標を発表し、お互いに励まし合って目標を達成するというものです。教師は学生の能力に応じて目標を微調整します。例えば、早稲田大学合格を目標に掲げた学生がいたとします。目標を達成するために、具体的に何をするのかが不明確です。そこで教師はコーチの役割を発揮し、段階的で、より具体的な目標を設定するのです。

若者はコミュニケーションが好きです。コーチが「伴走」し、お互いに励まし合い称え合う自主参加のスタイルが奏功し、幸先の良いスタートを切ることができました。

学校の強みを際立たせたオンライン教育の普及

―― コロナ禍はオンライン授業の普及と発展を加速させ、客観的に見て、オフラインからオンラインへの移行は、教育モデルの多様化を促進しました。このことは今後の学校運営にどのような影響を及ぼすでしょうか。学校を主体とした留学教育機関は今後も優勢を保つことができるでしょうか。

(張リンシン)
 早稲田言語学院としては、オンライン授業での良さを取り入れつつ、対面でしか提供できない価値を見極め、より洗練させることで多様な教育モデルの中で独特なポジションを築きたいと思います。

前提として、オンライン教育と対面教育は対立するものではなく、双方の良さを融合した新しい教育のあり方を模索する必要があります。

オンライン教育の強みは授業内容を何度も繰り返し視聴できる点と個人ごとにカリキュラムが最適化できる点であり、課題は強制力がない点と考えます。オンライン授業では直接的に勉強しなさいと言ってくれる人がいません。自主的に勉強できる学生はそれで問題ありませんが、そうではない学生にとってはオンライン教育のみでは不十分です。

当校は、本年から繰り返し視聴できる動画コンテンツを予習教材という形で導入しています。また、試験結果に連動し個人ごとに最適化した復習教材の開発に取り組んでおり、オンライン教育と対面教育を融合させた教育スタイルに日々進化させています。そもそも現在の変化の激しい時代において、オンラインと対面の融合という技術的な観点のみならず、教育機関の役割について改めて問い直し、再定義する必要があります。その際、学校は「与信機関」に近い役割があるのではないかと思います。人々が学歴やどこの学校を卒業したかを重視するのは、良い学校を卒業し高い学歴を得れば、社会で大きな信用を勝ち取れるためです。学校は学生に社会的信用と名誉を賦与する機関と言えるのではないでしょうか。それゆえ当校は、「与信機関」としての価値・役割を高めるため、卒業生の質を担保することに注力しています。具体的には、日々の授業を「一定時間教えたら授業終了」ではなく、「習得したら授業終了」というスタイルに全面的に切り替えました。

また、学校のもう一つの重要な役割は、人脈形成です。日本語学校は、留学生が日本に来て初めて身を置く組織です。留学生にとって最初の社会である日本語学校での人間関係と、大学での人間関係は大きく異なります。日本の大学内の人間関係は比較的薄く、多くの人と出会うことはできても、密接な関係を築くことは難しいです。日本語学校では皆が毎日顔を合わせますし、グループ学習もあります。皆が共通の目標をもち、お互いが困難を乗り越え懸命に学ぶ姿を見ています。その関係には偽りがなく、より強靭で、生涯続きます。

そんな考えから、当校では指導教諭ごとの同窓会も結成しています。通常、同窓会というと学校単位ですが、学生は学校に対する感情よりも教師に対する感情の方が強いものです。指導教諭を中心とした同窓会には、卒業して進学した学生や社会に出た先輩も多く訪れて在校生と交流を持ち、後輩たちに有益な情報を提供することができます。ある大学の試験のスタイルはどうだったとか、面接試験で教授がどんな質問をしたとか、今年はどの大学のどの学部の定員が多いとか、某教授の研究室にはまだ欠員があるといった情報は、受験の大きな参考になり、選択ミスを少なくすることができます。受験には戦略や戦術も必要であり、事前にどれだけの情報を得たかが鍵になります。

早稲田言語学院 2

AIが取って代わることのできない人材を育成

―― 言語は思いを伝える媒体であるだけでなく、政治、経済、科学技術、文化に大きな影響を及ぼします。人工知能翻訳機の精度がどんどん上がっている昨今、「外国語無用論」が広まっていますが、これについてはどうお考えでしょうか。

(張リンシン)
 思考力は個人の能力を決定し、思考力を決定するのは言語力です。言語力が高い人ほど思考力は高くなります。人の思考は、その人が言語で表現できる範疇を超えることはなく、言語で表現する範疇がその人の思考力の範疇なのです。

従って、留学生が新しい言語を習得することは、新たな思考を習得することと同じです。例えば、中国人留学生は中国的思考に加えて日本的思考もできます。これは一種の思考力のトレーニングであり、一つの言語しか使わない人には届かないレベルに達することができ、他の人には見えない風景を見ることができます。言語の力は想像より遥かに強大なのです。特に、AIと仕事を奪い合うこれからの時代、思考力が競争を勝ち抜くための決定的な要素となります。AIが支配権を握る時代にあって、思考力を向上させる語学教育は、われわれ早稲田言語学院だけでなく、すべての留学教育機関の共通の目標であるべきです。

取材後記

深刻なコロナ禍と長期にわたる自粛は、中国人留学生を迎え入れる日本語学校にとって、勝ち抜き戦に等しく、競争の舞台から撤退した学校もあれば、進化を成し遂げた学校もあります。取材を通して、われわれは若き改革者が先んじて、中国人留学生の将来のために一層の準備を整え、一段と強みを増した様子を目にしました。このような改革者がさらに現れることを願っています。それは、留学生だけでなく、時代と社会にとっての福音でもあります。

早稲田言語学院副理事長 張リンシン 3
早稲田言語学院 1
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