全身の不定愁訴を伴う「むち打ち症」の 病態解明・原因療法確立への突破口

 東京脳神経センター(理事長・松井 孝嘉)の研究チームが、複数の不定愁訴を伴う難治性むち打ち症の入院患者を対象に独自に開発した頚部筋群への物理療法を行なった結果、退院時には殆どの全身の不定症状が80%以上の回復率を示しました。その成果を報告した論文がBMC Musculoskeletal Disordersに掲載されます。(日本時間2019年6月5日 9:00)

 むち打ち症(頚椎捻挫)は交通外傷の中で最も多い傷害ですが、難治症例が多く見られ、医療の分野のみならず社会問題にまで発展しています。難治性むち打ち症の患者は、頚以外の器官に直接的な損傷が認められないにも関わらず、全身の不定愁訴を伴うことが特徴です。
 本研究は、頚部筋群の緊張や攣縮が、全身の不定愁訴に関与していることを示した世界初の知見であり、難治性むち打ち症の病態解明および原因療法開発の突破口となるものと考えます。

研究の背景

 むち打ち症(頚椎捻挫)は、国内外の交通外傷の中で最も多い傷害です。一般的に、「捻挫」や「打撲」は、最長でも1か月以内の局所の安静や消炎鎮痛処置によって治癒しますが、むち打ち症に限っては症状の長期化で苦しんでいる難治性の患者が多く存在します。しかし現時点において、むち打ち症についての確定診断は存在せず画像所見も確立されていません。その結果、自賠責保険などの補償期間も限定されて後遺障害としても認定されず、患者自身が自覚症状を訴え続けても周囲の理解や同意が得られないのが現状です。
 難治性むち打ち症の最大の特徴は、一般的な「捻挫」や「打撲」が局所の症状を訴えるだけであるのに対して、その症状が頚以外の全身に及ぶ、いわゆる「全身の不定愁訴」を伴うケースが多いことです。全身の不定愁訴は、肩こり、頭痛のみならず、めまい、動悸、吐き気、胃腸障害、視力異常、口渇感、多汗症、冷え症、不明熱、血圧不安定、全身倦怠感、さらには、不眠、うつ状態、強迫観念、焦燥感などの精神症状など多岐に及びます。患者は愁訴に応じて多くの医療機関を受診しますが、多くの場合は治癒することなく、最終的には精神科に紹介されているケースが多く見られます。それでも治癒は難しく、患者は「泣き寝入り」して我慢するか、中には裁判となるケースも散見されます。
 東京脳神経センター(下記、施設概要)では、松井病院(香川県観音寺市村黒町739番地)との共同研究で、難治性むち打ち症の病態解明と原因療法の確立を目指して、10年以上に渡って全身の不定愁訴を訴えるむち打ち症患者を対象とした治療に取り組んできました。

研究成果の概要

 2006年5月~2017年5月までの11年間に、東京脳神経センター(以下 当センター)または松井病院を受診した交通事故によるむち打ち症患者の中で、通常の外来治療では治癒せず、かつ頚以外の部位に2つ以上の愁訴を訴えて入院となった患者全194名(男82名、女112名:平均年齢45.6歳)を対象としました。
 患者に対して、頚部のみに対する低周波電気刺激療法(SSPとPain topra)と遠赤外線照射を1日に2度おこないました(図1)。本治療法は、当センターの松井 孝嘉理事長(脳神経外科)が独自に開発したもので、従来の治療法に比べて、頚部の筋肉の拘縮・攣縮(コリ)を著明に改善させる効果を示すことが実証されています。他の治療介入(薬物療法や物理療法)は一切おこないませんでした。全身の不定愁訴としては、当センターの経験から最も多い22愁訴(図2)を対象として、入院時と退院時(平均入院日数:46.1日)における問診票に基づき、全愁訴数、およびそれぞれの入院時の不定愁訴の回復率を解析しました。
 全患者の愁訴数は、入院時は13.1±4.1(平均±標準偏差)でしたが、退院時には1.9±1.2にまで著明に減少しました(P

治療写真と低周波電気刺激部位例
各症状の改善率
治療前後における症状数(横軸)別の患者数(縦軸)
頚を通る副交感神経の全身への分布
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