【世界初】低強度の運動とタマネギ・ブロッコリーなどのポリフェノールを含む食品摂取の組合せで、中高齢者の筋肉の質の一部「筋柔軟性」が改善することを解明 ―サルコペニアやQOL向上の有効な対策として期待―

 立命館大学スポーツ健康科学部の橋本健志教授は、サントリーウエルネス株式会社健康科学研究所、順天堂大学スポーツ健康科学部の宮本直和先任准教授、国立健康・栄養研究所の山田陽介特別研究員、および八戸学院大学の有光琢磨講師らと共同で、低強度レジスタンス運動1) とケルセチン配糖体2) の摂取を組合せることで、中高齢者の筋肉の質の一部である筋柔軟性が改善することを明らかにしました。本研究成果は、2022年7月7日0時(日本時間)、「Frontiers in Nutrition」に掲載されました。

本件のポイント
■ 加齢とともに、筋肉の量と質は低下する。筋肉の質には筋組織中の細胞外マトリックス3) を反映する筋柔軟性が影響。
■ 低強度レジスタンス運動とケルセチン配糖体摂取の組合せが、中高齢者の筋柔軟性を改善することを世界で初めて解明。
■ 中高齢者が日常生活で実施しやすい低強度の運動と食品摂取の組合せは、サルコペニアやQOL向上の有効な対策方法として期待。


<研究成果の概要>
 本研究チームは、中高齢者を対象としたランダム化二重盲検比較試験4)により、低強度レジスタンス運動と、タマネギやブロッコリーなどの食品に豊富に含まれるポリフェノールの一種であるケルセチンに糖を合わせたケルセチン配糖体との、筋肉の量や質に対する組合せ効果を検証しました。その結果、日々ケルセチン配糖体を摂取しながら、週3回のレジスタンス運動を組み合わせることにより、筋肉の「質」の一部である筋柔軟性が改善することが明らかになりました。

<研究の背景>
 加齢とともに筋力が低下する加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)では、筋肉の「量」のみならず「質」の低下が課題とされています。本研究チームの先行研究において、筋肉の質の指標の1つとして、筋組織中の細胞外マトリックスを反映する筋柔軟性が加齢とともに増加することが明らかになりました。さらに、中高齢者に対する低強度レジスタンス運動の効果は強度によって異なり、筋肉の量の改善には低強度のレジスタンス運動でも効果があるものの、量と質の双方の改善には、中強度のレジスタンス運動が必要であることが明らかになりました。
 一方で、近年では、運動と食品摂取の組合せがサルコペニアの改善に効果的であると考えられていますが、運動と食品摂取の介入研究は少なく、エビデンスが乏しい現状です。特に、中高齢者が日常生活で実施しやすい低強度な運動と食品の組み合わせや、たんぱく質やアミノ酸以外の食品摂取効果の検証は希薄です。
 そこで、低強度のレジスタンス運動とケルセチン配糖体を組合せたときの、筋肉の量や質、特に筋柔軟性に対する効果を、ランダム化二重盲検比較試験により検証することにしました。食品にポリフェノールの一種のケルセチンを用いた理由は、in vivo5)やin vitro6)試験において、筋萎縮抑制作用や筋組織中の細胞外マトリックス低下作用が知られているからです。

<研究の内容>
 50歳から74歳の健常な中高齢者の男女54人を、運動+プラセボ食品群、運動+低用量食品群、運動+高用量食品群の3つの群にランダムに分けて、24週間の介入を行いました。運動は、下肢を中心とした低強度レジスタンス運動(内容:レッグエクステンション、レッグカール、レッグプレス、チェストプレス、強度:最大挙上重量の40%、回数:14回、3セット、頻度:週3回)を行いました。食品は、ケルセチンの吸収性を高めた食品成分のケルセチン配糖体を200mg(低用量)または500mg(高用量)配合したカプセルを使用しました。
 筋柔軟性は、先行研究に準じて、超音波エラストグラフィーを用いて大腿部の柔軟性を評価しました。24週間の介入の結果、運動介入の前後で、筋柔軟性は有意に向上しました(図1)。さらに、運動のみと比較しても、低用量ならびに高用量のケルセチン配糖体摂取との組み合わせにより、筋柔軟性は有意に向上しました。以上の結果より、低強度レジスタンス運動とケルセチン配糖体摂取の組合せが、中高齢者の筋柔軟性を改善することが明らかとなりました。

図1:レジスタンス運動と食品の組み合わせに対する筋柔軟性の変化量
図1:レジスタンス運動と食品の組み合わせに対する筋柔軟性の変化量

<社会的な意義>
 筋肉の「量」や「質」に対する運動と食品の組合せに関する介入研究は少なく、特に強度の低いレジスタンス運動と食品の組合せ効果に関する研究はほとんどありませんでした。本研究は低強度の運動と食品の組合せが、筋肉の「質」の一部である筋柔軟性を改善することを初めて明らかにしました。筋柔軟性の改善は、身体機能や足関節の可動域に影響することが知られていることから、サルコペニアや高齢者のQOLの改善に役立つ可能性があります。中高齢者が日常生活で実施しやすい低強度な運動と食品の組合せが、サルコペニアの有効な対策方法として今後活用されることが期待されます。

<論文情報>
論文名 : Effects of quercetin glycoside supplementation combined with low-intensity resistance training on muscle quantity and stiffness: A randomized, controlled trial
著 者 : 大塚祐多1、宮本直和2、永井研迅1、出雲貴幸1、中井正晃1、福田正博3、有光琢磨4,5、 山田陽介6、橋本健志4
所  属 : 1サントリーウエルネス株式会社健康科学研究所、2順天堂大学スポーツ健康科学部、3ふくだ内科クリニック、4立命館大学スポーツ健康科学研究科、5八戸学院大学健康医療学部、6国立健康・栄養研究所
発表雑誌 : Frontiers in Nutrition (スイス)
掲 載 日 : 2022年7月7日(木)0時(日本時間)
D O I : 10.3389/fnut.2022.912217
U R L : https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2022.912217/full

<用語説明>
1) 筋肉に抵抗・負荷をかける動作を繰り返し実施する運動。
2) 溶解性に乏しいケルセチンを糖と組み合わせ、体内への吸収を高めた化合物。
3) すべての組織や臓器中に存在する、非細胞性の構成成分(コラーゲンや非コラーゲン性糖タンパク質、プロテオグリカン)。
4) 処置群(本研究ではケルセチン配糖体の低用量あるいは高用量摂取群)と対照群(本研究ではレジスタンス運動のみを実施する群)を無作為に選別し、実施する実験手法。このとき、被験対象者ならびに検査者双方が、処置群と対照群を区別できない状態とする。
5) 「生体内で」というラテン語であるが、主に実験動物などを対象に実施する試験・実験が多い。
6) 「試験管内で」というラテン語であるが、主に細胞を対象として実施する試験・実験が多い。


AIが記事を作成しています